激しい運動ができないかわりに、わたしは自主練習をしていた。しかしあきらかに運動量がたりない。若干身体が鈍くなってるような気がする…まあ、当たり前だろうな。こんな平和ボケした世界だし。 頼みの綱だった体育という授業は一般向けの、それも女子を想定して作られているのか生易しすぎる。(テニスは難しかったが身体が鍛えられるかといえば話が別である) というわけで以前より練習メニューを増やすことにしたわたしは、食事後に走り込みをやり始めた。 わたしは体力が無いから体力をつけることができ、ついでにここら辺の地形が覚えられる。一石二鳥だ。ちなみにこの言葉は仁王さんに教えてもらった と思っていたのが20分くらい前のはずだったのだが。 「ほらあこんな夜遅くに一人なんて危ないでしょ?お兄さん達と一緒に行こう」 「ちょっと今忙しいんで話しかけないでもらえますかね」 「さっきから走ってただけじゃんか〜」 「走るより俺達についてきた方が絶対楽しいからさあ」 ちょっと公園で休み始めたらコレだ。わたしが頑張って走り込みを習慣づけるための第一歩を踏み出したというのに、この男達はわたしの前に立ちはだかり邪魔をする。 せっかく少し休んで体力が戻ってきたのに走れないままじゃ、ただのお散歩になってしまう。 わたしはベラベラと喋る男達の間を縫って抜け出そうとしたが、それは一斉に伸びてきた腕によってかなわなかった。 こいつら私が下手に出たら調子に乗りやがってベタベタと! 「おい、お前ら」 「あ?」 「嫌がってる女に寄ってたかって何事だ!みっともないぞ!」 なんだなんだと視線は私からその男の人へと移る 見たところ威厳のある年上の男性だが…見覚えがあるような気がする。どこかですれ違ったのだろうか ありがたいことに私の腕を掴んでいた男達は舌打ちをひとつ鳴らして適当なことを言うと、どこかへと行ってくれた。私があれだけ言ってもびくともしなかったくせにこの男性が一声かけるだけでいなくなるのだから、すごい。私が手を出す前に何とかしてもらってよかった 「ありがとうございました。助かったっす」 「いや礼には及ばん…なんだミョウジか」 「どこかでお会いしましたっけ」 「お前の服装を学校で注意したのだが、覚えてないか」 服装、学校…そういえばあった気がする。食べ物の確保に忙しかったのに邪魔されて煩わしかった記憶が。 「あなたの名前は」 「俺は二年の真田弦一郎だ。」 「サナダさん」 「真田だ。さん付けはいい」 「真田…さんで」 「まあ発音が直っただけ良しとするか」真田さん。 さんがないとしっくりこないというかムズムズするというか。口癖のようについてきたこの敬称は、言葉にすると思いのほかしっくりくる。やはりこれでなくては というか、真田さんわたしと同い年だったのか、全然そんな風には見えない。 「夜は危険だぞミョウジ。家まで送ってやるから帰れ」 「あー、一人で大丈夫っす。わたし走り込みの途中なんで」 「奇遇だな」 「え?」 「俺も走り込みの途中だ」 そしてわたしは真田さんと無言で走りながら公園を一通り周り、さらには家まで送ってもらってくれた。勿論走りながら、しかも無言。 真田さんは走るペースが早く、途中から着いていくのに必死だったが、体力はついたと思う。家についた時真田さんはいい人だと思ったが売店へ行くまでの道を邪魔されたことを思い出していい人ではないと思い直した。食べ物の恨みは強い。 |