こそこそとまるで盗人のように様子を伺う。あの女の子の姿はない、荷物もない
安心して食べれるとはわかっていてても何だかこわいので木に登ればやっと落ち着けるような気がした
早速買ってきたパンを出せば早く食べてといわんばかりにわたしの鼻孔をくすぐる
感謝の気持ちを忘れずイタダキマスを呟いてかぶりつこうとすればミョウジさんとどこからともなく聞こえてくる
左右を確認しても澄み渡った青空が広がるのみ。幻聴かと思いたべるのを再開しようとすれば寄りかかってる幹からぐわんと振動が伝わってきた
あわてて下を見ればあの女の子が木に足をかけている
「ミョウジさん、降りてきてもらっていいかな?」
「きょ、今日は何もしてないっすよ!」
「あはは俺だって何もする気ないよ」
だから降りてきて、そう仄めかしているのがよくわかった。わたしは観念しておそるおそる木から飛び降りる。そして少しでも命を延ばすため先程から気になってたことを聞いてみた
「どうしてわたしの名前を」
「ミョウジさん知らないの?キミすごく噂になってるよ」
「…噂?」
「うん。アクロバティックパン強盗のミョウジって」
だからさっきも名前を呼ばれ、売店に行く前にも名前を呼ばれ今パンを食べる時にも名前を呼ばれた、と
これほどまで自分の名前を忌々しいと思ったことはないだろう
「っていうかわたし強盗した覚えがないっす」
「…ミョウジさん結構頭弱いんだね」
そう言われわたしはぐうの音も出ない。反論の余地もないので大人しく説明を聞けば、どうやらわたしが必死に行ったパン確保がヘンなあだ名を呼ばれる結果となってしまったらしい。でも強盗って名前が広がるのはたとえ比喩的な表現だとしても何だか不愉快というか。いつか払拭したいものだ

「ところで話は変わるけどね」
「はい」
「俺女じゃなくて男なんだ」
「………えっ、と…」
「幸村精市だよ。よろしくねミョウジさん」
「ミョウジナマエっす……その、ごめんなさい」
「いいよ、俺もミョウジさんのこと一年生と間違えちゃったし」
全然いいよって表情じゃないけど本人がいいよって言ってるわけなのでわたしはありがたくご好意に甘えることにした。
「どうして一年生って否定しなかったの?」
「わたし、外国から来たんでそこらへんの呼び方にまだ慣れてないっす」
一年生、二年生、三年生。歳によって階級があるみたいだけども実感がないせいで否定ができなかったのだ
ユキムラさんはそっかと納得してくれたようで一安心である
「そういうユキムラさんこそ女って否定しなかったじゃないっすか」
「だって…説明しようと思ったらミョウジさん木にしがみついちゃうし」
あの物理的な訴え方を説明と称するユキムラさんは只者ではない。
あんなことされたら誰でも降りれなくなるのだろうが、ユキムラさんは気がついてないようだった。恐ろしい

こうして、やっと会話が和やかに進むようになったものの、このあとすぐ昼休み終了のチャイムがなり絶望するハメになるのをわたしはまだ知らない。
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