真田の挨拶が合図となり、地獄のような部活が終わった。真田に見つからんよううまく案内してサボるはずがまさかこんな事になるとは思わんかった
あの真田に転校生を案内してたなんて言い訳が通じるはずもなく、結果的に練習量を増やされた俺はヘトヘトに疲れ果てていた

教室に戻るため、俺はのろのろと歩きながら今日来た転校生のことを思いだす
思いの他つまらん奴だった
俺が笑顔で話しかけてもあまり反応しないし、質問には全部秘密ときた。
ヤマダサンとの会話はすっごくおもしろかったんじゃがのう、どうやら的外れみたいでガッカリじゃ
でも少し、少しだけ、飴をあげたときのあの表情は気になった。女子からもらったいらない飴を処理しただけだったのだが、転校生はもちろんそんなことに気がつかないでおいしそうに食べていた。俺にはたかだか飴一つであんな純粋に感動できん。

いつもより重たく感じる教室の扉を開ければなんと、そこにミョウジさんがおった。帰ったかと思ったがそんなことはなかったらしい、机の上ですやすやうつ伏せになって寝ているミョウジさんに俺はため息をつきたくなった
鍵は俺が最後だから閉めなければならん。俺が鍵を閉めるためにはミョウジさんを起こさなければならなかった
鍵をおいてってミョウジさんに閉めてもらうことも考えたが転校初日、帰国子女の何も知らないミョウジさんが鍵を閉めて職員室まで持っていけるとは到底考えられん
何かあれば怒られるのは俺じゃ。早急に事を終わらせるため俺はミョウジさんを優しく起こす
ミョウジさんはゆっくり頭を上げるとかすれた声で仁王さん、と俺の名字を呼んだ。そのままのそのそと起き上がると一言「待っていたっす」と俺を見つめた。
待ってたとか、やっぱり女ってどいつもこいつも気持ち悪い。無視してさっさと鞄を探し、俺は帰ろうとする
「運動、やってました」
「…は?」
「だから、運動っす。さっきの質問のやつ」
それだけっすからといってミョウジさんはさっさと教室を出て行った
…いやいやいや。
慌てて鞄を掴んで教室を飛び出す
幸いにもまだミョウジさんは廊下にいたので、俺が力のかぎりミョウジさんの名前を呼べば振り向き、動きを止めた
「もしかしてそれだけのために俺を待ってたんか」
「ええ」
「おかしいぜよ」
「…だって質問に答えないのはやっぱり失礼じゃないすか」
そう答えたミョウジさんに俺は拍子抜けする
普段の俺ならここで何だコイツ、となるのだろうが今日は違った。いつもより練習で疲れたせいなのか、気でも触れたのかもしれない
ともかくヘンな笑いのツボにはいってしまったのだ
だっておかしいじゃろ普通そんなことで待たんし、今更すぎるし、明日にでもあって答えればいいのにとか突っ込み所が多すぎる
俺がゲラゲラ笑っている原因のミョウジさんは最初の時のようにポカンとしている。
笑いが止まらない中、ためしに俺があげた飴はおいしかったと別の質問を投げかければ途端に生き生きとした表情で飴のおいしさを語り始めるので、いよいよ俺の腹筋は崩壊するかと思った
ミョウジさんは不思議そうな顔をしていたが、やがて「こっちの仁王さんの方が楽しそうでいいっすね」と呟く

こいつとは猫被って接すると疲れる。
普通に話した方が楽だし、なんとなく楽しそうじゃ
腹が痛い中、データとかそういうのは柳に任せておこうと俺は思ったのだった

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