*【月松庵】の千花さまへ相互記念作品:電話ネタで『恋の∞番勝負』の赤黒ちゃん





   最近、ボクの携帯電話は長い休息時間をとっている。電源はOFFのまま、滞りなくこなす日常生活。携帯電話に元々執着はなかったし、使えなくても別段困ることもない。むしろ、電源がONだと、困り果ててしまうことが盛り沢山だ。何故ならば……暴走変態野郎の迷惑電話が絶えないからである。

『愛してる、おはよう、テツヤ。朝に弱い低血圧の可愛いお前へ目覚めのポエムをひとつ送ろうと思ってね……テーマは“テツヤに対する性への覚醒(めざめ)”だ……!!』
『愛してる、こんにちは、テツヤ。目の前にいてお弁当を食べているけれど、鈴の音のように可愛らしいお前の声を堪能する為に、わざわざこうしているんだ。それに、ある音を鼓膜に大ボリュームで響かせたくてね……あっ、気にせずそのまま食べ続けてくれ……テツヤの“食べる”音が僕のご馳走なんだ……グヘェッ!!鼻がァッ!!潰れたァアア!!赤いケチャップゥゥウ出るゥウゥッ!!』
『愛してる、こんばんは、テツヤ。今日もお疲れ様……お前がグッスリ眠られるように素晴らしいお話をしてあげよう。永遠に愛し合う僕らの未来予想図は……(プツッ、……ツーツーツー……)テツヤ?……テツヤ??……テツヤアアアアアアッ!!!』
『(留守番電話サービスです)……テツヤ、どうして僕の電話に出てくれないの?こんなにお前を愛して、こんなにお前の身を心配しているのに……まさか、電話に出られないのは……暴走変態野郎に襲われて……!?テツヤアアアアッ!!!今、白馬の赤司様が助けに行くからねっ!!!』

   自己中心的な愛を発信してくる赤司君に、ボクは大変参っている。あの暴君はただでさえボクの平穏な学校生活をブチ壊しているというのに……四六時中破壊活動をする気なのか。いつからかボクの携帯電話の着信履歴が“赤い暴走者”で埋まってしまい、用事があって誰かに電話をかけようとすれば、絶妙なタイミングで赤司君から着信が入って邪魔をされる。一時期この状況に堪り兼ねて着信拒否もしたけれど、次は僕のアドレスに入っている人達を脅して携帯電話を奪い取り強引に電話をかけてくることもあり……とにかく、ありとあらゆる方法を駆使してボクの時間を自分が占拠しようと躍起になっている。相手にするのが馬鹿らしくて無視をすれば、無駄にボクの身を案じてしまい、本当に白馬で駆けつける始末。パカラッ、パカラッ、近所に響き渡った馬の蹄の音と『テツヤァァアアアアアッ!!!』段々と大きくなってくるボクの名を叫ぶ声。何故か殿様のような出で立ちで、近所の奥様方は『超イケメンの赤い暴れん坊将軍よ!!』と黄色い声援を送っていたのにはひどい頭痛と眩暈がした。相手にすると骨が折れる、無視をすれば肉を削がれる。赤司征十郎は、ボクにとってまさに天敵ともいえる非常に手強く厄介な人間だ。

   そういえば、さっきから母さんが珍しく長電話をしている。ボクと同じく、影が薄いといわれる母は、相手が特に親しい人でなければそこまでお喋りではない。だからこそ、不思議に思った。物凄ーーく、会話が弾んでいる。こんなに喜々として誰かと言葉を交わしているなんて、これまでの記憶にない。一体、誰と、まさか、いや、そんなはず。イヤな予感も過ったせいか、電話の相手が気になりだし、居ても立っても居られない。不躾かと申し訳なく思いながらも、得意のミスディレクションを発動し、電話に夢中になっている母の背後にコッソリ近付いて、耳を澄ましてみると……、

「……では、テツヤさんの18歳のお誕生日に、僕が迎えに行くという形でよろしいでしょうか?」
「そうね、いいわねっ!善は急げよ!うちのテツヤをよろしくね、征十郎君!」
「はい、お義母さん……息子さんはこの赤司征十郎が一生をかけて全力で幸せにすると誓います!!」

   反射的に、黒子家の電話を全力イグナイト・アタックで粉砕。母にこっぴどく叱られた。ボクは悪くないのに、理不尽だ。それから直ぐに赤司家の遣いの者から高級電話が贈られてきたことに母は喜んだ。アイツが悪いのに、理不尽だ。

   しかめっ面のボクは久しぶりに携帯電話へ乱暴に電源を入れた。着信履歴を開いて、そこを埋め尽くしていた人物へ電話をかける。コンマ一秒もしないうちにあの声が応答して、とてもとても嬉しそうに「テツヤ」と口にした瞬間、「卑怯者」ボクは冷たい声でそう吐き捨てて電源諸共切ってやった。ボクの気持ちが手に入らないからといって、勝手に外堀から埋めようとするとは、いけ好かない。これ位の罵倒なんて、許されるはずだ。ボクは悪くなんか、ない。あんな言葉を発してしまったこと、後悔はして、いない。

   それから、新しくなった家の電話にも赤い暴走者の襲来がなくなり、ボクの願った平穏な時間が流れていた。彼のボクに対する過剰な特別さは消え失せて、学校での関わり合いも他の人達と一緒。挨拶や必要最小限の会話のみとなり、全校生徒が赤司征十郎の変わり様に震撼した。「あの赤司様が……黒子様に求愛をしないなんて……まさか死期が迫っているのではっ?!」と混乱する信者が多発。キセキの面々は僕らの仲をひどく心配し、紫原君に至っては「黒ちん……赤ちんを許してあげて。黒ちんのこと愛し過ぎてるから……あんな風に暴走しちゃうんだ。俺が代わりに謝るから、許してあげてよ……あんな大人しい赤ちん、赤ちんじゃないよ……黙ちんだよ」ボクとしては赤司君は沈黙している方が素敵だ。出逢った当初の、あの完全無欠の美しい人形のような彼に、ボクは初めて恋をしたのだから。

   これでいい、毎日迷惑極まりない愛をぶつけられ、頭に血がのぼり拳を振るう日々なんて、もうまっぴらゴメンだ。今では携帯電話だって電源をONにしても平気。家の電話だって、あの人からは一切かかってこない。むやみやたらに心配されて、白馬で駆けつけられることもない。これで、本当に、ボクの理想の世界になった。理不尽さは、どこにない。

   無いのに、どうしてこんなにも心が冷たくなるのか。あの人が無理矢理くっついていた時には決して感じなかった凍える温度。この寒さの理由が、季節が冬で、寒波が都心を襲っているだけではないこと位、ボクにはわかる。暖房の効いた温かい部屋で、炬燵に入りながらお鍋を家族で取り囲んだ夕餉。白い豆腐を口にする度、胸に広がる苦い気持ちをどうにか流し込んでいく。それでも黙々と食事をする中で自分の頭の中を占めるのは、

「赤司君、あれから電話してこないわねぇ……寂しいわ」


“テツヤ、愛してる”
もう、聞こえない、あの音


「ボクだって、」
「えっ?テツヤ?」
「……ぁ、いえ……なんでもありません」

   思わず、漏れてしまった本音。顔がみるみるうちに火照ってくる。あったかい場所であったかい物を食べたせいじゃない。あの人を恋しがっている、そんな自分が恥ずかしくて。ボクを見つめる両親の瞳が、より一層羞恥心を掻き立てる。お椀と箸に力がこもって手が震えると、穏やかな口調で父さんが語りかけてきた。

「……テツヤが素直になれない所は、昔の僕に似たのでしょうね」
「えっ?と、父さん……別にボクは、いつも素直です」

   素直になれないせいで、こんなことになった。それを認めるには、まだ少し幼くて意地っ張りを発揮、ついつい否定してしまう。もし仮にボクが素直な性格ならば……今と正反対の状況を想像するだけでも、なんだか気恥ずかしくなった。

「そうですか?少しは母さんのように控えめながらも素直に人へ気持ちを伝えるべきですよ」
「そうそう……最初に告白したのは、私だし」
「えっ!?そうなんですか?」
「母さんは本当に凄かったです……音もなく僕の背後に近付いては抱きついて愛してると毎日伝えてくれましたから」
「……愛してる、を……」

   驚愕の事実、そして、重なる面影。母さんと赤司君が意気投合したのも頷ける。ふたりは素直な押せ押せ派だったのだ。

「まぁ僕があまり素直な人間ではなかったので、母さんの気持ちを突っぱねていた頃もありましたけど……母さんが愛してると突然言わなくなったら、急激に寂しくなって……やっと、自分の素直な気持ちに気付けましたよ。母さんの“愛してる”の言葉が、本当はとても嬉しかったのだと」

   それに対して、ボクと父さんは素直になれないひねくれ派。無くして初めて愛の大切さに気付く、似たもの親子だったんだ。

   食事を終え、風呂に入り、自分の部屋に戻る。シーーンと静まり返った暗い空間には、自分を呼ぶ音はひとつも無い。やっぱり、さみしい。本人には絶対言いたくないけれど。この寂しさはあの心の冷たさに直結していた。

   外灯に照らされて光る白い小雪、時間が経つにつれ深まっていく黒色の空。こんな寒々しい夜に、ひとりぼっち。あんなに、愛してくれていたのに、ひどい。ひどいのはきっと、あの人の真っ直ぐな愛を理不尽に突っぱねてきたボクに違いないのだけれど。

“ひどく、さみしいよ、あかしくん”

   声にならない音を唇が紡げば、眼球にじんわりと水の膜が張ってくる。こんな弱い自分、ボクじゃない。纏わり付く悲しみを振り払うように、目をゴシゴシと擦ると、視界がボンヤリと滲み出す。正常に回復するのを待っていると、少しだけ冷え切った風が肌を掠めたような気がした。不思議に思いながらも、徐々に視界が鮮明になり物体への焦点が定まってくると……ボクは気付いた。いつのまにか、あるモノがこの部屋へ侵入していたことに。

   窓のほんの僅かな隙間から、一本の電線と受話器。白い紙コップと白い糸、手作り感満載の糸電話がそこに在った。導かれるようにそれを手にして、繋がる先を辿ってみると、そこには片割れを手にした赤司君が家の外でひとり佇んでいた。寒さも増した冬の夜、白い息を吐いて鼻と頬を赤くして、こちらを見上げて手を振ってはにかんだ。グラグラ、変な気持ちになる。タイミングが、悪い。いや、タイミングがズルい。やっぱり赤司君は卑怯者だ。そう思いながらも、心の中に広がるざわめきは決して悪質なものではなく。喜びを抱えた驚き、待ちに待っていた暴走者の来訪だったのだから。

   赤司君が糸電話を指差して耳に当てろとジェスチャーをする。指示された通りに手を動かそうとすると、緊張からか小刻みに震えてしまって、耳に当たった紙コップがカタカタと鳴った。これから、何が聞こえてくるのだろう。心臓がバクバクいってる。破裂しそうな程。もし、もし、壊れたら、


「暴走者でも卑怯者でもない。僕は形振り構わずテツヤを一生愛する、ただの人間だ」


一生かけて、責任とって、赤司君。




いつかふたりで鳴らす
ウェディングベル





プルルルル……、

「はい、黒子です」「こんにちは、赤司です」「あら、征十郎君じゃない。久しぶりに元気な声が聞こえて嬉しいわぁ」「はい……おかげさまで。お義母さんの的確なアドバイスが功を奏して……あのテツヤさんが僕の告白に対して“ありがとう、赤司君”と、初めて素直になってくれたんです……!!仕掛けて置いた盗聴器でバッチリその音声を録音したのでこれはお宝として永久保存します」「まぁ〜〜抜かりないわねぇ〜〜!流石、私の未来の息子だわぁ。うちのテツヤったらうちのお父さんの若い頃に似てひねくれ者だから……私と同じように、征十郎君もずっと押しまくるんじゃなくて突然引いてみればあの子は“愛してる”の有り難みに気付いて、やっと素直になれるんじゃないかって思ったんだけど……全くその通りで面白かったわ〜〜!これで18歳のバースデーお迎え大作戦も決行出来そうね!!」「はいっ!あの“ありがとう”は僕の愛に対する“イエス”……もう婚約、いや結婚したも同然……この征十郎……赤司テツヤを一生愛し抜く所存です!!!」

   黒子家の電話がボクの手によって木っ端微塵に粉砕されたのは、これで2回目だった。このままでは、あと何度電話をぶっ壊すか分からない。いっそ、諸悪の根元・赤司征十郎を根絶やしにしてしまおうか。


おわり!


*感謝と謝罪

千花さん、本当に本当に失礼なことをしてしまいました……相互記念作品のお返しがとてつもなく遅れてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます。千花さんから相互記念としてとても素晴らしい忍者赤黒ちゃんのイラストを頂いてから長い長い時間が経ち……自身の能力不足から良い電話ネタが中々思い付かず頭を抱えて右往左往して……やっと腹を決めて、くだらなくてもつまらなくても、とにかく完成させようと頑張ってみました。しかしながら、安定の低クオリティでもうジャンピング土下座の域です……千花さんにはいつも沢山素敵な赤黒ちゃんを頂いて……私の駄作を良作へ進化させて漫画にして下さったり…落ち込んだ時には素敵な絵で励ましてもらったりと、いつもいつも支えてもらって感謝してもしきれません。その気持ちだけは確かです……それだけは、この作品へ込めさせて頂きました。

電話から……音、呼び出す、鳴る、伝える、色んなキーワードが浮かんで所々散りばめてみました……恐る恐る蓋を開けてみたら、書くのが楽しくなりました!黒子君が赤司テツヤになるその時まで温かい目で見守っていただけたらと思います。改めて、相互記念作品のリクエストをありがとうございました!

こんなどうしようない私ですが……千花さん、良かったらこれからも仲良くして下さい!!

2014.3.18 ニニ子









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -