*【呼吸】の早瀬さまへ相互記念作品:不意にときめいてほだされてしまう『恋の∞番勝負』の赤黒ちゃん





   黒子テツヤは基本的に優しい。困っている人がいれば見て見ぬ振りせず、さりげなく手助けをしてあげる人格者だ。紳士で男前な性格と評されるだけあって、男女問わず彼に好意を寄せる者は多い。
   しかし、誰よりも黒子を愛する赤い魔王のせいで、誰も迂闊に気持ちを伝えることは出来ない。恋のライバル=この世から排除すべき敵と見做され、近付こうとするものならどんな報復が待ち受けているか、なんて……いつも見せしめのようにズタボロにされている黄色の駄犬の無残極まりない姿で一目瞭然だ。
   だが、そんな理不尽な赤い少年の凶暴性を凌駕するのが黒子テツヤである。熱烈暴走アタックを、必殺・イグナイトアタックで容赦なく返り討ちしてしまうから恐ろしい。そう、自分へ片想いをする赤司征十郎に対してのみ、手厳しく辛辣な態度を見せるのだ。
   見方によっては可哀想だが、彼の場合少しでも甘さを見せるとひどく勘違いをして付け上がり、直情径行過ぎる愛を悪化させるから致し方ない。そんな黒子が優しさを最大限に発揮するのは、皆から魔王様と恐れられる赤司とは正反対の天使たち。

「帝光幼稚園の皆さん、はじめまして、黒子テツヤです。今日はよろしくお願いします」
「テツヤせんせ〜、よろしくおねがいしま〜〜す!」

   今日は帝光高校の体験学習。指定された職業の中から好きなものを選び実体験が出来る日だ。保育士を選んだ黒子は高校卒業後に大学で幼児教育を学び、保父さんとして働きたいと考えている。可愛らしい天使たちの挨拶に、いつもの鉄仮面を剥がしてニッコリと微笑んだ。そんな彼の横にいるもう一人の学生は……、

カシャ!カシャ!カシャ!

「ハァハァ……プレミアもののテツヤエンジェルスマイル……か、かわいい……かわいすぎて死ぬ……ハッ、ハッ、ゼェゼェ……さ、酸素が足りない……!」

呼吸困難に陥りながら一心不乱に一眼レフのシャッターを切りまくる、赤司征十郎だ。基本的に2人1組、10人程の園児で構成された小グループを担当することになっているが、裏で手を回して赤司は大好きな黒子とペアになって今日ここへ来ている。

「……赤司君、次はキミの番ですよ。言いたいことは山ほどありますが、とりあえず園児の皆さんへ自己紹介をしたらどうですか?」
「……ふぅ、テツヤがそう言うならば仕方ない……本当はずっとテツヤの一瞬一瞬の輝きをこのカメラにおさめていたかったが……」
「赤司君、いい加減にしないとボクがキミを血祭、」
「ゴホン!僕の名は赤司征十郎。子どもは嫌いだが、テツヤはだいだい大好きだ。いいか、いくら道理を弁えず善悪の区別もつかない低脳な子どもだからといって、あまりにも僕のテツヤにベタベタしたら僕に逆らったとみなし……ガキでもころ、」

   ビシィ……!!目にも留まらぬ速さで黒子は放送禁止用語を口にしようとした赤司の後頭部に鉈の如き手刀をぶちかました。延髄に大ダメージを食らった大人げない黒子狂は意識を失い床に崩れ落ちる。

「すみません……この人は皆さんに会えるのを楽しみで緊張し過ぎて本心と真逆のことを言おうとしてしまいました。本当は皆さんのことが大好きなんですよ……!(たぶん)」

   非常に苦しい言い訳をしつつもフォローした黒子だが、子どもというものは大人の悪感情に対して非常に敏感である。すぐさま、赤司を自分たちを嫌う超危険人物と判断したのか、側にあったオモチャをひっきりなしに投げつけていた。度重なるその痛みによって意識を取り戻した赤司はやはり大人げない行動へ。烈火の如く怒りだし愛用の鋏を取り出そうとした所を、またまた黒子が制止させる為にチョークスリーパーを繰り出して意識を消失させた。その間に園児たちを宥めてどうにか事態を収束させ、やっと一息つく。

「ハァ、無駄に疲れました……ところで、何故子ども嫌いなキミがここにいるんですか。場違いにも程がありますよ」
「……何で、か。そんなの、僕の嫁・テツヤがいるからに決まってるだろう?」
「……全くもって嬉しくない理由ですね。それにボクはキミとはただの赤の他人です。お願いですから、これ以上むやみやたらに問題を起こさないで下さい」
「……それは、テツヤ次第だな。ギャーギャー煩いアイツらじゃなくて僕のお世話をしてくれるなら……、」
「さあ皆さん、僕と一緒にお絵描きをして遊びましょうか」
「はぁい!!」
「なっ?!……て、テツヤーー!!僕のテツヤーー!!!」

   黒子が自分ではなく間髪いれずに子供たちを選び、ショックを受け愕然とする赤司。項垂れて床に四つん這いになり血の涙を流す彼など黒子は眼中になし。大好きな天使たちとキャッキャッウフフ、仲良しこよしでお絵描きを楽しんでいた。一方は天国、もう一方は地獄。子どものように大粒の涙を流す赤司だが、やはりさすがの黒子厨、一眼レフのシャッターを切る手はシッカリと動いていた。どんだけ好きやねん、全力でツッコミしたくなる程、赤司の黒子愛は突き抜けている。
   そんな赤司の執念深さを感じ取った黒子は園児達と戯れる傍ら、気付かれない程度に彼のことをチラチラと気にしていた。赤司の一方的で独善的な求愛行動は時として常軌を逸しており、それ故ただの迷惑変態行動にしかなり得ない。しかしながら、底抜けの愛だけはしっかりと黒子の心へ伝わっている。普段から赤司に対して激しい防衛反応を見せる黒子だが、その想い自体を全力で拒絶している訳ではない。

「(ハァ……クソ面倒な暴走野郎のクセに子どもっぽく泣かれると……気になっちゃうじゃないですか……ホント、面倒な人です)」

   仮に嫌いだったら完全無視するであろうが、結局いつも黒子は赤司のことを気にしていた。あの完全無欠な赤司征十郎が自分のことで一喜一憂、ましてや邪険に扱ったことで子どものように涙を流す。そのことに動揺しつつも、心のどこかではそれが少しだけ嬉しくもあった。しかし、凶暴かつ冷徹な言動の裏に隠された微かに甘い素直な気持ちに、

「(……どうしてボクが赤司君のこと、こんなにもアレコレ考えなきゃならないのでしょう……時間の無駄ですね。せっかくの大好きな子供たちとの時間……あんな人のことは忘れて満喫しましょう)」

気付きたくはなくて、自分で自分を誤魔化し続けてきた。

   そんな中で赤と黒のふたりが同時に驚いたことがある。ひとつは、お絵描きを楽しむ園児たちとは離れた所でひとり積み木遊びをする子どもに気付いた赤司は、

「(えっ?!……この子、テツヤに似ているな……しかも、名前がテツナなんて)」

自分が片想いをする黒子テツヤに似た女の子を見つけたこと。もうひとつは、お絵描きをする園児たちの中に空色の女の子を描いてデカデカと“ブス”と書き殴る子どもに気付いた黒子は、

「(あれっ?……この子、赤司君に似てますね……しかも、名前が征一郎なんて)」

自分に片想いをする赤司征十郎に似た男の子を見つけたこと。ふたり揃って驚いて、思わず二度見して、お互いを凝視してやはり似ていると判断。世の中には自分と似ている人が3人いると聞くが、本当にいるとは。興味深くなり、マジマジと見つめていると……ちび赤司・征一郎はちび黒子・テツナの元へ駆けて行き、

「オイ!ブステツナ!このオレがだいっきらいなおまえをわざわざかいてやったぞ!ありがたくうけとれブス!!」

グイッと空色の髪を引っ張りながら画用紙を乱暴に投げつければ、

「貴様ァァッ!!僕の可愛いテツヤをいじめるとは……許さん!!成敗してくれるっ!!」

テツナがもはやテツヤにしか見えない赤司は子供相手に本気で怒り出す。自分に見た目はソックリな征一郎をテツナから引き離すように首根っこを掴んでつまみ上げてしまった。

「うわっ!なにすんだよ、オッサン!邪魔すんな!あっち行けよ!」
「お、お、おっさんだとぉおおっ?!このクソガキっ、鋏の錆にしてくれるわ……!!」

赤色の似たもの同士でギャンギャン喚きながら喧嘩している一方で、空色の似たもの同士は……、

「大丈夫ですか?テツナちゃん、髪が乱れてしまいましたね。今、櫛で梳かしてあげま、」
「せんせい、」
「はい?なんですか?」
「テツヤせんせーって、あのせーじゅーろーせんせーのこと、よくみてるよね」
「え、……えっ?」
「テツナ、さっきからふたりのことかんさつしてた……せーじゅーろーせんせーはあからさまだけど、テツヤせんせーははずかしがりやなんだ」
「あ、あの……なにいって、」
「めんどーだけど、やっぱりきになるの?」
「て、テツナちゃん……?」
「せーじゅーろーせんせーのこと、好きなの?」
「……すき?ぼくが、あかしくんを?……そ、そんなわけ、」
「ふたり、テツナのパパとママに似てるの。おたがいのこと、よくみてて、すごくおもってる、ふうふ」
「なっ、……ぼ、ぼくらは、ふうふ、なんかじゃ……」
「ふたりって、とってもおにあい
よ?おにあいのふうふ」

“お似合いの夫婦”

   その言葉が引き金となり、突如として黒子の脳裏に浮かんだのは、赤司と結ばれた未来のビジョン。赤司と結婚し自分達にとてもよく似た子供たちと共に、幸せな家庭を築いて笑顔で暮らしている光景。
   赤司が黒子に向ける眼差しはいつものように、深い愛に満ちている。そう、いつものように。黒子を見つめる、瞳の奥に灯る熱の温度は、ずっと変わっていない。赤司は毎日毎日黒子を心から愛してくれていた。
   改めて思い知らされる、揺るぎない赤司の一途さ。彼ならば、ずっとずっと遠いあの日までもずっとずっと愛してくれると信じられる。
   末長く幸せな明るい未来なら、一緒に見てみたい。赤司と、一緒に、歩んでみたい。黒子が熱くなった胸を高鳴らせた時、

「テツナアアアア!!!ありがとう僕らの愛娘よ!!天邪鬼なテツヤお母さんにもっともっと言い聞かせてくれ!!僕らは人類史上最高にお似合いのラブラブ夫婦だと!!!」

いつも通り暴走を悪化せる赤司のご登場。征一郎に反抗されたのか、所々に生傷を作っても、テツナの夫婦発言にご満悦のようで、元気いっぱいに回復している。ありったけの愛を込めて赤司がギューーッと愛娘と最愛の嫁を一気に抱きしめると、同じ顔をしたふたりはゲンナリとしながら同じ表情でドン引きする。

   呼吸もままならず、朦朧とする意識の中、黒子は自分を殴りたくなった。赤司から永続的な愛情を感じ、ふたりが永遠を誓い合った世界を一瞬でも願ってしまったことは、黒子テツヤ一生の恥だ。絆されるつもりなど、毛頭なかったのに。小さな自分の分身の言葉が、自然と心に響いてしまって、強く否定する間もなく、赤司に抱きしめられてしまう失態。心を見失ってしまった自分自身への罰は、赤司の抱擁を甘んじて受けるという苦行。殴られるより、苦痛極まりない。

   普段は容赦なくぶん殴られるはずなのに黒子が一切抵抗しない所を見て、ますます付け上がりハートを飛ばしながら抱きしめる力を強めた赤司。だがしかし、そんな幸せの絶頂にいる彼を邪魔する者が彗星の如く現れる。

「テメエエエエッ!!!このヘンタイやろーー!!テツナをはなせっ!!テツナをいじめていいのは、このおれだけなんだよっ!!」

   赤司の小さな分身・ミニ暴君征一郎だ。未だ黒子と共にがっちりホールドされたテツナを助けようと、赤司の背中を思いっきり殴っては蹴って殴っては蹴って、しまいには頭突きまでする。さっきまで自分がいじめていたのに、テツナが他の人間に触れられていると、彼は気が気でないらしい。

   すると、赤司はこの男の子の秘めたる何かに気付いたらしい。ようやくふたりを解放し、背後で睨みつけてくる征一郎へ向き直り、彼にしか聞こえない声で言った。

「お前……テツナが好きなんだろう」
「なっ?!……な、なにいってんだバカヤローー!!」
「好きな子を虐めたい。低脳なクソガキにはよくある行動だ。恥ずかしい奴、素直になればいいものを」
「ふ、ふざけんなっ!ブスなアイツのことなんかこれっぽっちもスキじゃねーー!スキなわけ、あるかよ……ブステツナなんてキライだダイッキライだ!!!」

   赤司が征一郎の不安定な恋心を逆撫でして、彼が心にもないことを叫んだ時、無表情だったテツナの瞳からポロリと静かに涙が落ちた。それを見逃さなかった黒子は彼女を慈母のように優しく抱きしめ、赤司は頑固親父の如く雷を落とす。

「バッカモン!!スキなくせにキライなどと抜かしおって!!ホラを吹くのもいい加減にしろっ!!……バカ息子、よく聞け……好きな人に意地悪をして何の意味がある。相手を独り占めしたい程、心の底から愛しているならば、その通りに行動で示せばいいんだ……見てろっ!!」

   雷親父・赤司は息子への手本を見せようと、愛妻である・黒子へ近付き、強く激しく愛情深く抱きしめながら、

「テツヤ!好きだ!!愛してる!!!そろそろ本気で子作りに励もう!!目指せ!バスケ対戦可能な大家族っ!!!」

いつも通り、最凶かつ冷徹な黒子テツヤの一撃必殺により、暴走変態野郎の赤司は半殺しにされたのだった。

   黒子に対し盲目的な愛を貫く赤司の幸せ家族計画。それが大成功する幸せな未来は、遥か彼方の果てにあるのだろうか……?



ヒヤリ!ハット!
危ない夫婦道への落とし穴





「……テツナ、いままで、ごめん……ほんとは、おれは、おまえが……す、す、す……」
「テツナ、せーいちろーのこと、スキ」
「……へ?」
「いじわるだけど、いっつもテツナのこと、ちゃんとみててくれる。それに……にがおえ、ブスなのにかわいくかいてくれる。スキよ、せーいちろー」
「……ば、バッカヤローー!!さきにいうんじゃねぇーー!!こーいうのはおとこがいうもんだ!!」
「ごめん、でも、いいたくて」
「……クソッ、かわいいなバカヤロー……」
「えっ?なに?」
「なんでもねーー!と、とにかく、おれは……おまえのこと、キライじゃねぇ……ダイキライのハンタイだっ!!」


   そして、“お似合いの夫婦”を見習った、小さな赤と黒の初恋物語は、ぎこちない抱擁からたどたどしくはじまっていくのだった。


おわり!



*感謝と謝罪

早瀬さん……相互記念作品の完成、大変大変遅くなりました、本当に申し訳ありませんでした!!!確か言い出しっぺは私だったはず……そのくせ、行動が遅くてなんやかんやグズグズしている内にここまで引き延ばしてしまい……どうにか完成したものの、ホントに不意にときめいてんのかよとツッコミしたくなる不出来さで、土下座ものです。改めて申し訳ありませんでした。ネタだけは早めに浮かんで、ちっちゃな赤黒ちゃんの分身がキーパーソンになるよう、この物語を作りました。安定の黒子君大好き野郎はいつものように暴走しながらも、親父?として息子?に立派……か、どうかは疑問が残りますが、真っ直ぐに気持ちを伝える姿を全身全霊で示しましたが……安定のフルボッコです。それでも、黒子君は周りの言葉で本当に揺らぎやすく、赤司君に対する自分の素直な気持ちを完全に認める日も近いのではないかと期待出来るお話になりました。不意にときめく、という素敵なリクエストを頂きまして誠にありがとうございました!

早瀬さんのイラストもセンスも本当に大好きです……サイト共々これからもどうぞよろしくお願い致します!!

2014.3.18 ニニ子









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