*【無自覚初恋症候群】に繋がるおはなし…のようなもの
※爽やかで初々しい話のままにしておきたい方は注意(駄犬ヤンデレ注意報)
※つづくか、つづかないかは、現段階で未定









俺は自分の目で見たものしか、信じなかった


   バスケ部へ入部した当初、教育係になった黒子っちをすぐさま見下したのは、見た目のひ弱さもさることながら、どうみても凡人以下な体力・技術が素人目でも十二分に分かったから。だけれど、初めての試合で、卓越した職人技のパスを自分の目で見て驚かされ、彼の凄さを思い知らされた俺は、急転直下の二目惚れをしたんだ。それからもう、黒子っちの一挙一動ひとつひとつが、自分の目の中にどんどん取り込まれ、自分の心はみるみるうちに黒子っちで占められていく。基本的に無表情な彼の心情を汲み取ることは大変だったけれど、今ではもう黒子テツヤの心の読解スペシャリストになってしまった。だからこそ、見て見ぬ振り、知って知らぬ振りが出来ない。ある無自覚な感情を抱えていることを、黒子テツヤへ片想いをしている、黄瀬涼太は否応なしに解ってしまったんだ。

「ねぇ、黒子っちって、どうして、赤司っちに極力近付かないの?」
「え……ぁ、いえ、そんなこと、ないですよ」
「何言ってんスか……傍から見たらバレバレッスよ……黒子っちが赤司っちを避けてることなんて」
「……黄瀬くん、このことは……、」
「大丈夫ッスよ。誰にも、言わないッス」
「……ありがとうございます」
「なんだか、黒子っち……悩んでそうだなぁって思って。少しでも口に出すと、楽になるし……俺、心配なんスよ、良かったら、話して欲しいッス」
「……赤司くんは……自分に絶望してバスケを諦めかけていた僕を救い出してくれた神様です。だから余計に、近付くのが恐れ多いといいますか……怖くて、苦手、です」
「……そうなんスか。確かに、赤司っちは、取っ付きやすいとは言えないッスね……なんか、威圧的なオーラ出てるし……まぁ、苦手なら、そんなに無理しなくてイイんスよ? 別に人付き合いなんて、義務でするもんじゃないし、あまり関わりたく無い人間とは必要最低限のコミュニケーションで平気ッスよ!」

   黒子っち、これ以上悩まないで、気付かないで、解らないままでいて。

「でも、何故か、よく解らないんですけど……、」
「……うん……、」
「赤司くんを見る度、心臓がバクバクして、怖いのに、震えるのに、遠避けてしまうのに……なんだか、辛いんです。彼に近付けない自分の、心の奥が……ひどく痛むんです」

   残酷ッスね、黒子っち。その感情、どうして俺に向けてくれないんスか? どうして、その感情、イライラしてばかりで何にも気付けない赤司っちなんかに向けているんスか? そんなの、そんなの、

「ふ〜ん……、それは……赤司っちを嫌う罪悪感で、辛いんじゃないんスか」

ゆるせないッスよ、ゼッタイに。

「え?……赤司くんを、嫌い?」
「そうそう、黒子っち優しいから、同じチームメイト、その上一応バスケの恩人の赤司っちを、人間としてそんなに好きじゃないことが申し訳なくて…心を痛めて辛いんスよ」
「……そう、なんでしょうか……苦手でも、嫌いとまでは、思ってな、」
「てっきり、嫌いだと思ってたッス。黒子っちは赤司っちを。俺、ずっと、黒子っちを見てるから、ちゃんと解るッスよ」
「……だけど、ぼくは、」
「それに、赤司っちも、」
「……赤司くん、も?」
「言いづらいッスけど……赤司っち、黒子っちのこと、いつも厳しい目で見てるッス」
「あ……それ、は……僕も、感じて、ました」
「そうッスか…なら、ハッキリ言うけど……赤司っちって、黒子っちのこと、あんまりよく思って無いっスよ」
「……やっぱり、そうなんでしょうか……やっぱり、あかしくんは、ぼくを……、」

   ぽた、ぽたぽた……、大きな目から、かわいそうな雫がひとつ、ふたつ、みっつ。

「あぁ、黒子っち、泣かないで……大丈夫。こんな可愛い黒子っちを嫌う赤司っちのことなんて、気にしない方がイイっスよ!」
「……っく、ぼく、……かんちがいしてました……むらさきばらくんに、すこしだけ、このはなしをしたとき、かれに、いわれたんです……」
「……なんて?」
「“黒ちん、赤ちんのこと、好きすぎて怖いんだね〜”って……、」
「あり得無いッスね、それは無いッス。紫原っちはいつもお菓子のことしか考えてないから何にも解って無いッス。俺は恋愛のことなら人一倍理解してるッスよ……だから、黒子っち、俺の言葉を信じて」
「……僕だって、そう言われた時は信じられませんでした。でも、もしかしたら、初めての“恋”かと、ちょっとだけ、心の片隅で思っていたんです……失恋って、こんな気分になるんですね……辛いです」
「大丈夫、黒子っちは、失恋なんて、してないよ……だって、」

   ごめんね、黒子っち、嘘ついちゃう。

「それ、“恋”なんかじゃ、無いッスよ」

   赤司征十郎という人間へ向ける黒子テツヤの瞳。恐怖の奥に潜んでいるのは、ほのかな愛らしい感情。信じたくない、自分の目で知った、失恋というぶち壊したい現実を、俺はどうしても認めたくなかった。だから、お互いに無自覚で“恋”に疎い人間同士の、想いのベクトルに相反した誤解をこじらせるよう、密かに仕向けた。卑怯?自己中?最低?それの何が悪いんスか?

「黒子っち、元気出して……俺はね、赤司っちと違って……」

   だって、仕方が無いじゃないッスか、

「黒子っちを、大大大好きッス!!!」

黄瀬涼太は、黒子テツヤが好きなんスよ、鈍感馬鹿なアイツなんかよりずっとずっとねぇ。




   なのに、まさか、そんな俺へ、神様の天罰が下るなんてね。目の前で、ふたりのキスを見せつけられた、あの日。俺は、金縛りのように固まったまま、鈍器で頭を殴られ失神したかのような衝撃を受けた。ようやく意識を取り戻せば、強く抱き締める赤司っちと、遠慮がちに抱きしめ返している黒子っち、想いと理解が一致し始めたふたりがいた。

   そうして、率直に、感じたこと。

   もう、“恋”なんて、しない。こんな感情、“恋”には、もうなれない。

   生ぬる過ぎたんだ。徹底的に潰しとけば良かった。

   ふたりの“初恋”が成就する芽なんて、この手で根刮ぎブチ抜いておけば、こんなことにはならなかったんだと、ひどく反省して、奪い返すことを、誓った。

「……これで、めでたく結ばれたと思うなよ……赤司」

   諦めが悪い?意地汚い?痛痛しい?それの何がいけないんスか?

「待っててね、黒子っち……次は、本気でいくから……」

   だって、仕方が無いじゃないッスか、

「俺がちゃんと“恋”以上の“愛”を、教えてあげるからね……テツヤ」

黄瀬涼太は、黒子テツヤを愛してるんスよ、鈍感馬鹿なアイツなんかよりずっとずっとーー……、



狂っちゃうほどにね。










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