毎朝チェックする天気予報では午後から雨。黒い傘を手にとり玄関を出て、空を見上げる。薄い水色が広がる中、そわりそわりと雲がかかっている。不安げな空模様、なのにどうして不快にならないのだろう。不思議と今日は良いことがある気がした。太陽は全く見えないのに、不思議な心。

ポツ、……ポツリ、ポツリ……パタパタパタ……、

大当たり、降り出した雨、今日の帰り道は雨音と一緒。部活を終えて、淡々といつもの自主練をこなす。時折、赤司君が僕へアドバイスをしてくれるのが、ちょっぴり嬉しかったり。些細なことなのに、微かな緊張を伴う、赤色の彼とのやり取り。まだ僕の中では彼を友達と呼ぶには至らず、気軽に接することの出来ない、神聖化され過ぎた存在だった。朝練で鉢合わせた時の朝の挨拶、廊下ですれ違った時の会釈、図書室で会った時の本の受け渡し、他にも色々、ちょっとした関わりの中に、小さな喜びを感じていた。神様からの思し召し、


「黒子君、そろそろ練習を終わりにしよう……頑張り過ぎると明日に響くからね」
「はい、そうですね……ありがとうございました」
「いや……感謝される程の事はしていないよ……むしろ、これから俺が君に感謝することはあってもね」
「えっ?」


僕は憧れの赤司君とこうして話していることさえ、夢のようだったのに、


「実は……傘を忘れてしまってね。黒子君、悪いんだけど傘に入れてくれないかな?」


あの赤司君と、ふたりでひとつの傘の中、相合傘なんて夢としか思えない。用意周到そうな赤司君が、こんな天気に珍しく傘を忘れるとは、雨でも降りそうだ……もう降ってる、僕は思ったより混乱しているらしい。彼のお願いを二つ返事で引き受ければ嬉しそうにニッコリ笑った。あの瞬間を切り取って、僕は心の中の写真立てに飾ってしまいたくなる。この感情はただの憧れなのか、なんなのか。ひとつの小さな傘の中、冷たい雨に濡れないよう、ふたり寄り添って。遠慮がちに、彼の肩に触れるか触れないか、


「黒子君……もっと、俺の近くにおいで」


不意に肩を引き寄せられて、ピチャン、跳ねる心臓。


そんな雨の日からはじまり、いつのまにか僕と赤司君との相合傘は当たり前のようになってしまった。小雨の日も大雨の日も天気雨の日も、いつも彼は僕と傘を共有しては笑っていた。雨の日なのに、とても楽しそうにしている。不思議な人、雨なのに。不思議、そういえばあの日の空を思い出す。不思議と心地良かったあの空を。ふたつの肩がくすぐったそうに触れる距離、人間らしい温度、神様はもういない。申し訳なさそうに僕へ相合傘を頼んでいた彼は、もういないんだ。


「ごめんね、テツヤ……あれは、わざとだったんだ」


真っ赤な夕焼け空、明日は晴れ。自然と繋がれているふたつの手が影になって揺れている。ここぞとばかりに、ネタバラシ。イタズラっぽく笑う君をいとおしく思える程、もう僕は君を好きで好きでしようがなかったんだ。君を近くに感じて、変わってしまった心模様。




心を盗むに、絶好日和













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