*新年赤黒ちゃんフリー小説

※成人済み赤黒ちゃん、ふたりでどこかの雪国で初日の出を見に来ている設定でお読み下さい。







終わりを告げる新しい光を共に見届けよう


繋がれている指先だけは、ひどくあたたかい

月から太陽へ役目を受け渡し始めた、澄み渡る天

淀みない白銀が隅々まで鎮座する、重厚な地

凍える肌へ辛辣に突き刺さる、無形の氷柱

果てない白雪の絨毯を躊躇いなく踏みしめて進んで行く、ボクとキミ

確実に、確実に、ザック、ザック、一歩、一歩、進む、進む

その度に、この世界一面の清廉なる白を統べる神は、突然の侵入者を赦さず、ふたりのからだを氷づけにしようと――……


“爪先から硝子の靴を作ってあげる”


ボクにしか聴こえない怖ろしく甘やかな囁きに心臓が、ドクッ、震えた


「征十郎君……寒いんですか?震えて、いますよ」


臆病な僕の震動が、指先から彼へ伝導

この厳しい寒さについて問いかける彼の口からは、この世界に易々と溶け込む真っ白い息が、ホワホワとやさしく漂っている

それは、ボクも同じ、で

空中に放たれるまっさらな二酸化炭素は、心臓の凍結を恐れながらも拍動を保っている、証拠

幻の恐怖によって心臓が大きく飛び跳ねたのと同時に、大きくブルリと震えたボクのからだを心配してくれる彼だけれど、


「…それなりに、平気だよ。さっきのは、……急にひどい寒気が走って、身震いしただけ。……テツヤは、大丈夫?…人一倍、…人三倍寒がりだろう」


同じ冬生まれでありながら僕よりも寒さに滅法弱い、彼自身のからだの方こそ、危機感がありそうなのだ

この底冷えした空気は、彼の白磁のような美しい頬へ可愛らしく痛々しく紅を着色しているのに、


「……別に、問題ありません。これ位の寒さなんて、僕は平気ですから…」

「…テツヤ…ずっと、からだが、プルプル激しく震えていたみたいだけど…、」

「………気のせい、です」

「……そうか」

「…はい、そうです」


やっぱり彼は僕へ自分の弱さを見せようとしない、意地っ張り


「でも、本当に耐えられなくなったら…僕のホッカイロをもうひとつあげるよ。風邪をひいたらいけないからね」

「べつに、耐えてなんかいませんよ…僕は青峰君や火神君みたいな寒さ知らずの体力馬鹿ではありませんが、簡単に風邪なんてひきません…毛糸の帽子・マフラー・手袋・腹巻き、大量のホッカイロ…完全防備してますし」

「でも…油断すると、ダメだよ…風邪から最悪死に至る場合もあるのに……、」

「…ハァ…、キミは、本当に心配症ですね……僕はそう簡単に死なないといつも言っているでしょう」

「……………うん、そう…だね」


やっぱり僕はどうしようもない彼限定の、心配症

一見、弱そうなのに強がる彼と強そうなのに弱過ぎる僕

そんなふたりはいつからか惹かれ合って心を結んだ

終わりなど考えずにふたりの世界を始めたんだ

喜んだり怒ったり泣いたり笑ったり色とりどりの想い出たちがその世界に詰まっている

お互いに伝えて与えてぶつかって分かち合う愛情はからだもこころもあたためて生きる力を生み出していく

これからもずっといっしょにいきていこう、と

夢をみて、しまう

夢に溺れた夢を、夢みてしまう

ふたりの世界が崩壊する未来から目を背けて

ボクは、日々戦々恐々と背筋を氷らせながら、生きている

ふたり手を繋いで新しい光を臨む、今この時も

こわくて こわくて しにたくなる

新しい時を刻む前、今一度、愛するキミへこの真実を捧げてもゆるされるだろうか





「僕は、朝の光が、怖い」


雪原の広がる切り立った丘の上にポツンとひとつ佇んでいるベンチ

そこに腰掛け、雄大な海原を眺めながら、拘束していた心を解放する


「大切な人を、悪びれなく、当たり前のように、奪っていきそうで、怖い」


隣に存在する彼は、ただ白を吸っては吐いている、だけ

ボクの言葉をただの独り言にしてくれる

その優しさが、僕の弱さに拍車をかけてくれた


「そんな朝に、365日幾たびも、怯える位なら…僕はもう、目覚めることすら、止めてしまいたくなる」


生命が絶望した冷たく暗い夜が明け、心臓の氷った人間を死の世界へ連れて行くのは、空の彼方へ続く光の道

天が輝いた瞬間、潔く“おわり”を告げ、残酷に美しく微笑みかけてくる


“これが、生命誕生の帰結なんだよ”


「だから…いっそのこと、瞳を閉じた黒の世界で鮮やかな色を保った黒子テツヤをひとりで想い描いている方が、幸せかもしれないんだ」


最愛のキミの“死”に向き合う瞬間が怖くて怖くて仕方がない

はじまって、しまったんだ

ボクとキミが生まれた瞬間から

ボクとキミが出逢った瞬間から

ボクとキミが恋に落ちた瞬間から

輝く太陽と翳る月はまわりはじめた

抗えない運命、かなしみの瞬間に向かって


「僕は…テツヤの隣で、生きることが、だんだん…辛くなっている…幸せな、はず…なのに」


そして、ボクは、ただ笑って、いられなくなったんだ

ボクとキミが逢瀬を重ねる度

ボクとキミが唇を重ねる度

ボクとキミがからだを重ねる度

ボクは最上の“幸”を噛み締め最悪の“不幸”を怖れる

テツヤの愛を手に入れて
テツヤの愛を手離せなくて

辛くて苦しくて怖くて、どうせならば、忘れてしまいたいほどに哀しくなる

そんな行き場のない心を抱えたボクは、毎夜瞼をつむり黒の世界で涙を流しながら、ただひたすら希う


神様、


「でも、僕は、テツヤを、」


ボクは、 あなたにさえ


「失いたく、ない」


黒子テツヤを、渡したくない


「テツヤが、消えてしまうなら、僕だけが、消えてしまいたい」


代わりに、ボクの“いのち”を捧げるから、お願い


「ふたりで、生きられなくても、テツヤが、生きれば、いい、それが、幸せなんだ、僕は、しあわ、せ……、」


ボクから、テツヤを、奪わないで




ポロッ、白雪に、涙が一粒こぼれた落ちた時、


「どうすれば、いいですか」


凛とした答えが、白い空間に響く


「征十郎君がそんなかなしい涙を流さず、僕と共に生きる為に、僕は何が出来ますか?」


真っ直ぐで清らかで強靭な


「キミの幸せに満ちた笑顔の為に、僕は僕の全てを尽くしたい…一生をかけて」


テツヤの愛が、ボクの涙をすくってくれる




水平線から生み出された真新しい太陽


“さあ、はじまりだよ”


いつか死の世界に辿り着くまで、延々と繰り返される光の合図

“はじまり”と“おわり”に逆らって抗うことなど、神様でも何でもないただの人間の僕には実現不可能

死を避けられない“現実”は人生の“本質”なのだから

ボクの手をやさしく握り締めるキミは、いつの日かあの“光”に溶けてしまう

それでも、


「僕を、愛して、ずっとずっと」

「……はい、」

「テツヤだけを、心の底から、愛してる、から」

「……知っています。…それに、僕は…征十郎君を愛さずにはいられません…」

「…テツ、ヤ……、」

「僕の人生の中で、最初で最後の、いとおしい人なんですから」


あたたかい、はじめて、キミを照らす“光”に“希望”を感じて


「やっと、笑ってくれましたね」


瞼の裏の黒に救いを求めた僕は、おそるおそる白の世界へ瞳を立ち向かわせる


「キミの笑顔が、ボクの幸せです」


心に決めたんだ、“光”に向かって意地っ張りなキミと心配症なボクとふたりで歩んでいくと


「…ありがとう…、…生きても、死んでも、ずっとずっと…愛してるよ…テツヤ」


“白い光”に包まれて交わした誓いのキスは、


“一生をかけて証明してみなさい”


神様ひとりだけが、知っている


“あなた達の真実の愛を”



白の世界で
最愛のキミと
永久の真愛を誓う




2014.1.1 【いっそ、××してしまおうか】ニニ子














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