*赤司君、お誕生日おめでとうございます






この世に生まれたからといって、愛する人に愛されるとはかぎらない


『…どう、して……どうしてっ!?…アノ人が消えて…キミが生まれてしまったんですか……どうして……こんな、ことに…?…チームプレーを殺して人の心を簡単に傷つける赤司君なんて…僕の知ってる赤司君じゃない……そんなアナタなんて、僕には要らない…!』


鼓膜にベッタリこびりついた悲痛な叫び。そうか、望まれない子、だったのか。“赤司征十郎”という絶対的勝利者で在り続ける為に生まれた存在、それが僕だったのに。いつからか、ひとりではなく、ふたり。この身体の中に産声をあげて、最初は“俺”と自らを呼ぶアイツが表の世界を生きていたのだけれど。まるで息子のように可愛がっていた紫原敦の反逆。覚醒した敦の手によって断崖絶壁に追いやられ、生きるか死ぬかの瀬戸際。もう、終わりかと、思った。常勝の終わり、すなわち“赤司征十郎”の死を意味する。人生で初めての敗北、自分が自分でなくなってしまったら、

『征十郎、よく覚えておけ…全てに勝利しなければ、赤司の人間ではない』

父親には失望され

『…征十郎……泣かないで……強く、在りなさい……』

亡くなった母親の最後の願いも叶えられず

『……僕はあの時、自分を信じることができませんでした…自分を諦めることしかできなかった…だけど、キミがこんな僕を見つけて、新しい希望を見出してくれたのです……赤司君の言葉を信じたから、今の僕が在る。これからも、その背中を信じてついていきたい……キミのそばにいたいんです』

想い人には愛想を尽かされると

死ぬ程、怖くなった

死にたくない、生きたい生きたい生きたい

生きたいなら、必死で生きてみろ

そうだ、勝利の為に何かを犠牲にしても、生き抜け

その瞬間、それまで見えなかったものが、“俺”では見えなかったものが、ハッキリと見えた

必勝へのシナリオの糸は、僕の瞳にありありと浮かび上がる


『僕に逆らう奴は、親でも殺すぞ』


弱いアイツは、もう要らない

選手交代、それを指示したのは勝利と強さと信頼を“赤司征十郎”へ求める人間達だ

もう、生まれてしまったら、生きるしかない

生きて生きて生きて、


『…キミは……だれ、ですか?』


まるで汚いバケモノを見るような目。ひどいな、僕は僕だよ、テツヤ。どんなに拒絶されても、あの日出逢った時から走り出した恋心は止まらない。やっと“僕”でテツヤと向き合える喜び。赤司征十郎が生きる意味は、基礎代謝である勝利を飛び越えて、いつのまにか黒子テツヤを愛することになっていたんだ。


『……キミが消えてくれないなら、ボクが消えます…さよなら、赤司君』


それなのに、テツヤはわかってくれない。最後の全中が終わって、僕が見つけた影は忽然と姿を消した。そこまでして、現実から目を背けたいのか。僕を“赤司征十郎”として認めない。アイツよりもの僕の方がお前を愛しているのに受け入れてくれない。僕の想いを足蹴にして、アイツの幻肢に縋ったまま、黒子テツヤは消えてしまった。


そうして、15回目の12月20日がやってきた。自分が生まれた日、母が亡くなってからは何にも感じられなかった日。だけど、去年は良かった、一昨年はもっと良かった。今のキセキのメンバーや桃井と、そしてテツヤが祝ってくれたから。去年はまだみんながどうにかギリギリ繋がっていて、それぞれプレゼントをくれた。テツヤからは僕の誕生花であるアイビーを押し花にした栞。それは僕の宝物になり、大切に大切に使っている。一昨年は一軍に入ったばかりのテツヤがぎこちないながらも『…赤司君、お誕生日おめでとうございます…!…キミに出逢えて…良かったです』みんなと一緒に一生懸命祝ってくれて、心が温かくなったんだ。でも、今年は、みんなバラバラ、テツヤはそばにいない。僕のことが、キライだから。


「赤ちん、ハッピーバースデー」

「……ありがとう、敦」


ドザドサドサッ…!敦がくれたのは、色とりどりの山盛りのお菓子。カラフル、まるで、いつかの僕たちのようだ。黄色、緑色、青色、紫色、桃色…


「…これ、黒ちんの分のおめでとうも、入ってるからね」


空色はきっともう、僕のそばには戻ってこない。力づくで取り戻しても、心はきっとアイツに囚われたままなんだ。


「……赤ちん…泣かないで……俺にとっては、赤ちんは赤ちんだよ…それに、今でも赤ちんが父さんで黒ちんが母さんだって思ってる……きっと、大丈夫…ちゃんとまた、しあわせになれるから」


3人で穏やかに過ごした日々は帰ってこないよ。時計の針が音を刻む度に思い知る。テツヤにとっては“僕”じゃダメなんだと。どんなに愛しても、アイツのように、僕を愛してはくれないのだ。





チッ、チッ、チッ…12月20日が終わろうとしている。僕の恋も終わらせるべきなのだろうか。24時間がこんなにも苦しくてたまらなかったのは、初めてだ。祝ってくれるはずがない、そう悲観する一方で、期待する気持ちが心の片隅にうずくまっている。はやくはやく来て、まだまだ待って。テツヤを待ち焦がれて、時間を堰き止めたくて。現実は残酷、テツヤは来ない、時間は過ぎてくばかり。次に秒針が12をさしたら、



「おわり、だ……さよなら、テツヤ」



カチッ、日付が変わる一歩手前、直感、本能、瞳が勝手に窓の外に向いた。とらえたのは、暗闇の中に潜む影。家の門の所に、誰かいる。いや、誰かなんて、わかりすぎている。この瞳が、


「……テツ、ヤ……」


僕が愛する、僕を嫌いなあの子を、逃さないわけがない。すぐに消えてしまっても、たった一瞬でも、嬉しかった。12月20日23時59分59秒に、今日生まれた僕のことを想ってくれて、しあわせだ。ありがとう、テツヤ、


「……アイビーの、鉢植えか…」


真夜中に届けられた、誕生日プレゼント。僕の部屋の窓のそばに置かれたそれは、今日もスクスクと育っている。僕の恋心と同調するかのよう、スクスクスクスク、止まらない。


「……死んでも、離れない……確かに、そうだね……テツヤ」


生きても死んでもいつまでも、僕の心はお前のそばに在り続ける、ずっとずっと。いつかきっと、お前をしあわせにするから。それがどんな自分かはまだわからないけれど。どんな時でも、僕は僕、赤司征十郎は赤司征十郎だ。それだけは、知っていて、お願い。


「…好きだ、大好きだ、愛してるんだよ、テツヤ……迎えに行くから、待ってて」


テツヤへの愛は、一生枯れない
テツヤへの愛は、一生咲き続けるんだ



2013.12.20  アイビー:死んでも離れない











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