*【アヒルに噛まれる】の氷千架さまへ相互記念作品:ニニ子ワールドを展開させたヤンデレ赤黒ちゃん






ひとりで生きなきゃ。天涯孤独になって、親戚をたらい回し、結果的に預けられた施設の中、寒々しい布団の中にくるまって、自分に言い聞かせたこと。人間よりも強い車、それを操る酒に溺れた人間の力で、缶蹴りのように吹っ飛ばされる。飲酒運転による交通事故死とは、なんとも無情にあっけないものだ。ささやかにおだやかに、幸せだったはずの日常は瓦解して、薄暗く冷え込んだ湿っぽい非日常へと突き落とされる。そばにいた人はもうそばにいない。赤黒くこびりついた体液に包まれて、凍結したふたりは、今どこにいるの?天国?地獄?それともこの世をあてもなくさまよっている?霊感なんて生まれてこの方持ち合わせていないから、彼らの所在は未だ明らかではない。否応なしに棺に詰められて、まるで拷問のような炎で肉体を焼かれて。気付いたらそこにあったのは白い貝殻。どこかの大人に少しだけそれを分けてもらって、後は決まり切った行程で地中に埋められる。ふたりを海には流せなかったのだろうか、時折三人でよく出掛けた砂浜で貝殻集めをしては思い出して後悔してを繰り返す。胸元にぶら下げたお守りの中のソレはもったいなくて海へ返すのを渋ってしまうのだけれど。血の繋がった知らない家から追い出されて、血の繋がらない馴染めなかった施設から抜け出して、走って走って辿り着いたのは、いつもと変わらず広く深い大海原。12月21日、真冬の日、寒空の中、ほの暗い静かな海へ躊躇いなく全てを委ねた自分。肌を刺す、冷たいのか熱いのか分からない、不思議な感覚。心臓は危険信号を出してても、でもね、なんだか、懐かしかったの。ユラユラ揺れて、赤ん坊の頃に抱かれた腕の中のぬくもり。母なる海の優しさ、恋しくて、ちっぽけな命なんて捨てても良かった。きっと、ここに、いるんだ、僕にはわかるよ。波音が遠くて、ボコボコ沈む音に飲み込まれる。うん、これでいいんだ、僕はお父さんとお母さんみたいに、自由にどこかへ行きたい、誰かに勝手に帰る場所を決められたくない。大切な人を失った悲しみ、人に悪意で受け容れられない悲しみ、人に偽善で受け入れられる悲しみ。悲しくて悲しくて、もう生きたくない。ふたりの背中を追って逝きたい。この世に未練なんてきっとないから、神様どうかふたりへ会わせて下さい、お願いします。だって、僕は、ひとりぼっち。純粋な愛情だけで助けてくれた両親が、この世界から消えたのですから、もう誰も僕を本当の意味で助けてはくれないのですから、さっさと死んでもいいですか??

“だめだ、しんじゃだめだ、テツヤ”

だれ?ぼくをよぶのは、だれ?ぼくをいかそうとするのは、だれなの?

フーッとケーキのロウソクの火を消して「テツヤ、お誕生日おめでとう」「テツヤが生まれてきてくれて良かった」微笑んでくれた父と母を思い出す。うん、生まれてふたりに出逢えて良かったよ、でも、ふたりに逢えないから死んでもいいんだ。誰かの一吹きであっけなく消えるような命だから、このまま空へ真っ直ぐ伸びる煙のように消えていきたい。あの日見た、終わりを知らせる悲しい煙。そして、僕も貝殻になるんだ。命なんて、僕には要らない。

“じゃあ、テツヤの命、僕がもらったよ”

ねぇ、ほんとうに、きみはいったいだれなの?どうして、ぼくをしっているの?ねぇ、どうして、

ザーーッ……ザーーッ……これは、いつかの海、真夏の日、父と母とやってきた、海を眺めるふたりと、砂浜にかじりついてそこへ散らばる綺麗な貝殻に夢中になった僕、その中に時々キラキラ光る石のようなものも混じっていた、まるで宝石集めをしているかのよう、ワクワクしてドキドキして手を伸ばして、ぶつかった僕と同じ小さな手、かち合った瞳は赤、その子の名前は、

“生きて、起きて、目覚めて、僕を見て、テツヤ”

「……せ、ぇ……く、ん」
「おはよう、テツヤ」
「……ぼくは…いきてるんですか」
「あぁ、いきてるよ……ぼくがいかした」
「……そう、ですか」
「久しぶり、だね……テツヤに出逢ったあの5歳の夏の日以来か…僕は父親の徹底した英才教育に嫌気がさして、初めて屋敷を抜け出したんだ。自分の部屋の窓からはいつも海を見渡せるのに、そこへ足を踏み入れたことはそれまで一度もなくてね……部屋に閉じ込められて赤司家の名に恥じぬようにと口煩く年齢不相応な学問や社交界のマナーを叩き込まれて…不自由な日々の繰り返しが辛かったんだ…何の為に生きているのか自分で自分が分からなくなって……思い切ってこの監獄を飛び出した先に、広く深い海と宝石が散りばめられた美しい砂浜…そこで、僕の世界は拓けたんだよ。あの息苦しいだだっ広い牢屋がちっぽけに思える程、この世界は雄大だと知った。それに、頭に膨大な知識を覚え込まされて、体にあらゆる作法を身につけさせられるのに、僕の中にはいつも何かが足りなくて……心の中でずっと探しているのに見つからなかった。家の中にある欲に塗れて鈍く光る宝石は大嫌いだったのに、砂浜で目にした貝殻やガラス片は、どれもこれも純粋にキラキラ光り輝いて……僕は確信したんだ、ずっとずっと求めていたものがここにある、と。必死に必死に、自然の宝石をかき集めて、でも“本物”は見つからなくて……諦めかけたその時、キラリと光った空色のガラス片へ引き寄せられるように手が伸びたんだ……そして、ぶつかった手は……テツヤ、君へ繋がっていたんだよ……僕がずっと探していたモノにね」

あの時、征くんはとてとさみしそうな瞳をしていた。赤い瞳に僕が映って、さざ波のように揺れた瞬間、彼は僕の手をギュウッと強く握った記憶が思い出される。手を伸ばしたはずの空色のガラス片ではなく、何故か僕の手を掴んだ、絶対に離すまいというように。驚いた僕はもう片方の手で包んでいた貝殻たちを砂浜へポロポロ落としてしまう。それに反応した赤い男の子は、弾かれたように僕から手を離し、「……ごめん……」消えそうな声で謝った。むしろ、こちらの方が申し訳なくなって、どうにか元気づけてあげたくなって。彼の小さく震える手をとり、僕はあのガラス片をプレゼント。「いっしょに、ほうせき、あつめませんか?」僕が笑ったらその子もやっと笑って小さく頷いて、すごく嬉しかった。「ぼくは……あかしせいじゅうろう」「ぼくは、くろこテツヤです」「……テツヤ」「はい、せぇくん!」穏やかな海のようにやさしく微笑む父さんと母さんに見守られながら、日が暮れるまでいっぱいいっぱい綺麗な貝殻とガラス片を集めて、すごくすごく楽しかった。そうしていると、黒い服を着たおとなの人が険しい顔で征くんを迎えに来てしまい、ふたりの時間はそこでおしまい。すごく悲しかったけれどバイバイしなきゃいけなくて、僕が泣きそうになってると

「……テツヤ、ぜったい、またあえるから!……いつか、テツヤをむかえにいくから……!!」

征くんは力強く叫んで約束してくれた。そうだ、思い出した、征くんだけは、僕を、

「ごめんね……あれから、家の監視がより一層厳しくなって、テツヤに会いたくても会えなかった。部屋の窓から時々テツヤとご両親の姿を見かけていたのに、どうしても抜け出す事が出来なくて、すごく悔しかったよ……自分に力がないから、父親に反抗出来る力を持ち合わせていないから、自由に身動きがとれなくて、そんな弱くてちっぽけな自分が大嫌いだった。そんな日々が10年経過して……テツヤのご両親が事故で亡くなった事を知ったんだ……ひとりになってからも、あの海へ何度も来ていたね。今日、あの中へ自ら沈んでいったテツヤを見つけた時、心臓が止まったよ……テツヤが死ぬなんて、絶対に嫌だ。ただ見ているだけなんて耐えられない。テツヤは必ず僕が助ける……どんな罰が待っていてもいい。決心して、二度目の脱走をしたよ。だって、テツヤに死なれたら、僕は何の為に生きればいいのかわからなかったからね。……もしかしたら、テツヤのご両親はあの海に漂っているのかもしれない。テツヤもそう感じたから、そこへ身投げしたんだろう?……僕のワガママだけど、ふたりの元へはまだ逝かせないよ……今度は僕がテツヤを守る。どんな目に遭おうとどんな手を使おうと、テツヤは死なせない。あの時、テツヤがプレゼントしてくれた空色のガラスはテツヤそのもの……僕がずっとずっと探していた、世界で一番綺麗な宝石……テツヤを大切にするよ、ずっとずっと一生ね」

そうしてまた、征くんは僕の手を掴んで握って、もう絶対に離さないとあの宝石に誓ったんだ

“もう、ひとりの命じゃないよ”

小さな命の火が消えないように、やさしく囁かれたやさしい言葉

おとうさん、おかあさん、ぼくはまだそっちへいけません

ごめんなさい
ありがとう
さようなら
いつか、またね

これから、ひとつひとつあつめていきたいのです
キラキラ輝く笑顔と幸せを、征くんといっしょに








安心したように再び眠りについたテツヤの可愛らしい顔を眺めながら、これからのふたりの未来を思い描いて久しぶりに笑みがこぼれた。テツヤに会えなかった間、僕はいつかこの子へ逢いに行く為に着々と人を屈服させる力を身につけ、赤司家の実権を握る父親に対抗する為の駒を増やしていき、15歳の誕生日を迎えた。昔では元服の年齢となり、ひとりの男として一人前になった日。古びた時計が12の数字を差し、日付が変わった真夜中、滅多に姿を見せない父親に呼ばれて、訊ねられた質問。

「お前も今日からひとり立ちだ。一応、親として祝ってやろう……ひとつだけ、何か叶えて欲しいことはあるか?」

この時を今か今かと待ちわびていた。もう貴方の法律に縛られるつもりはない。僕が欲しいのは、金でも名誉でもなく、たったひとつ、この世でたったひとつの、美しい命だ。

「黒子テツヤとふたりで生きていく自由を叶えて下さい、父さん」

当然、烈火の如く怒り出した父親なる人物。テツヤに危害を加えたくなくて、わざと大人しくイイ子にしていたけれど、もう我慢の限界だ。会いたくても会えなかった、会いたくても会わなかった、10年という長い長い拷問のような歳月。僕がどれだけ死に物狂いで堪え忍んできたか、オトウサンにはわからないのかい?この苦しみや悲しみや怒りを償ってくれよ、お前は一応僕の親なんだろう??それ位の情すら、持ち合わせていない人間なんて、

「赤司家の未来を潰す、黒子テツヤは……お前から断ち切ってやる」

この世界に、要らないね

「僕とテツヤの幸せを邪魔する奴は、親でも殺す」

心臓に突き立てた鋏は、血の通わないヒトの命を半分削った。僕の狂気は僕を恐れた弱く優しい捨て駒たちがスッポリと覆い隠してくれる。僕に畏怖の念を抱いたアイツは白い部屋の中で苦々しく口を閉じているだろう、ざまあみろ。これで、もう、だいじょうぶ、あの時のように、他人の手で引き離されないよ、不自由ばかり与えるおとなたちは僕が抹殺してあげるから安心しておやすみ。ずっとずっと僕が見守っていてあげるから、僕とふたりで永遠に幸せな夢をみていよう。そして、テツヤのおとうさんおかあさん、どうぞ安らかに海の底へお沈みください。テツヤの死にかけた心は僕がたっぷりと愛をそそいであたためてひとりじめさせていただきます。

「……あははっ!うれしいな……やっと、手にいれた……」

もしテツヤが僕から離れたくても絶対に離してあげないよ?だってテツヤがあの海で手離した命は僕が拾ったんだ。それを生かすも殺すも、僕次第。黒子テツヤの命は赤司征十郎の命へ帰属したのだから、

「ふふっ、テツヤのいのちは……僕のもの……」

天国でも地獄でもあの海でもない、お前が帰る場所は、僕の元だけ

黒子テツヤの自由は、愛をもって僕がやさしく殺してあげよう



心を殺されて
助かったのかしら?
かわいそうな
こどもたち



*感謝と謝罪

千架さん…相互記念作品が大変遅くなりまして申し訳ありませんでした。私のヤンデレワールドを展開させて書いていいとの事でしたが、最近ほのぼのばっかり頑張って書くようにしていたせいか、意味不明に狂った牙が削がれてしまい、かなりのちゃんちゃらおかしいヤンデレ仕様で申し訳ありません…無駄に火葬と海岸の描写ばかりこだわってしまいました…私の亡くなった祖父の家が海の近くだったもので、幼い頃そこの砂浜で見つけた貝殻やガラス片が大好きで印象的で、それを思い出しながら書かせて頂きました…最後の最後でどんでん返しのヤンデレをぶちかましてみましたが、如何だったでしょう…とにもかくにもこんな身勝手サイトと相互リンクをして下さり、改めてありがとうございました!千架さん、どうかこれからもよろしくお願いします!!

2013.10.13.ニニ子











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