*本誌の黒子テツヤバスケ部退部後から始まり、帝光中学卒業式に繋がっていくおはなし
※話の捏造が嫌いな方、コミックス派の方はご注意を









あの夏の涙、消えない冷たい傷、凍結した赤色の瞳



あんなに頑張った部活動は、あの日自ら辞めた。一時期、学校へも行かなかった。出席日数や高校受験のことを考えて、最近は仕方なく息苦しい箱庭の中へ重い足を運んでいる。元々影が薄く、友達も少ない。大衆からすれば、ほぼ空気と一緒の存在。かつての仲間達から時折探されることもあるけれど、ある一色を除けばミスディレクションを使って追っ手を難なく躱していたのに。本当に厄介なことに、一番厄介な人間が、まだ僕を諦めていないらしい。昼休み、僕の教室へやって来る赤色の人。元・帝光バスケ部主将であり生徒会長の赤司征十郎。彼を知らない生徒はこの学校にいるはずがない。勿論、その恐ろしさも十二分に浸透している。威圧感のある綺麗な笑顔で、ゆったり歩いてくる彼を怖れて、瞬く間に人がいなくなる閑散とした教室は、僕への拷問部屋へと化す。


「やあ、テツヤご機嫌いかが?」
「……最低最悪です」
「…そう、それは残念だ」
「……で、要件は?」
「じゃあ、単刀直入に…これからどうするつもりだい?」
「…君に話す理由はありません」
「理由はある。お前を見出したのは僕だ。すなわち、お前は僕のものだ。所有物の所在は明らかにしておくべきだろう?」
「……未定、です。ハッキリしているのは、君と同じ道を歩くつもりは微塵たりともないことでしょうか」
「…そう。まぁ未定だから、どこでどうなるか…分からないよね、テツヤ」


何もかも見透かしたかのように目を細める彼が憎たらしい。僕をモノ扱いするのはどうでもいい、今更。ただモノはモノでも、僕はひとりの人間として自分の意志を持っている。好き勝手に、手の平で操られたりしない、絶対に。この世の全てを支配しそうな君にだって、僕の気持ちは変えられない。もう二度とあんな思いはしたくないんだ。人を傷つけるような最低最悪のバスケをする君の背中についていくことは、もうしない。


「あの…赤司くん、お願いですから、もう僕の教室には来ないで下さい」
「どうして?」
「迷惑だからです」
「それはテツヤが?それとも周りの人間が?」
「そんなの…どっちも、ですよ」
「ふうん…迷惑なのか…でも、僕はお前に会いに来ることをやめないよ」
「…そうですか。じゃあ僕がここから消えます。これ以上、クラスメートに不快感を与えたくないですし…君の顔を見ると殴り倒したくなりますから」
「…消える、か…バカだねテツヤ」
「…何が、バカなんですか…」
「ここから消えたって、僕から逃げたって…絶対に僕の瞳は黒子テツヤを見つけるから無意味なのに…おバカな子」


売られた喧嘩は買ってやる。僕の頭の中でプツリと何かが切れた。神様だろうが恩人だろうが初恋の人だろうが関係ない。今の僕にとっては、ただの仇敵。ここで怒り任せに綺麗な顔をシャーペンの先で抉ったって、彼自身のダメージは無に等しい。そこまで僕を馬鹿にするなら、消えて逃げて貴方の瞳を欺いて、心底馬鹿にしてやる。


「本当の馬鹿はどっちか、赤司くんに解るはずもないです。だって馬鹿は馬鹿と云う人ですよ」


そう、意地悪く言葉を返せば、赤司くんは何故かとても嬉しそうにカラカラと声をあげて笑った。何だろう、この人、本当に馬鹿なんじゃなかろうか。馬鹿だ、馬鹿みたいに、あぁどうしよう、雪崩のように押し寄せる悪寒が僕を襲う。マズイ、赤司征十郎という人間に、怒られるよりも笑われる方が、よっぽど怖い。


「…やっぱり、テツヤはそうでなくちゃな……そんなお前が、昔も今も未来も、好きだよ」


僕はわざわざ自分で赤司くんの手をとって、己の首を絞めさせてしまったのか?最強の追っ手のクルマにわざわざガソリンを注いで、アクセルを強めさせたのだろうか。しくじった、逃げ切れるのかどうか、不安で吐き気や眩暈がする。それでも、追い詰められた僕には逃げるしか選択肢がない。そうと決めたら、何がなんでも逃げ切るしかないんだ、三月の別れの日まで。



赤と黒の、追いかけっこの、はじまり











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