※雰囲気文章、赤→→黒←緑
ちょっとずつ進んでいけば、いつか幸せの駅に着くだろう
人事を尽くせば、いつか必ず、と
ガタンゴトン、ゆっくりゆっくり、進むのは、のんびり各駅停車の箱
何気ない会話で相手を知り自分も知ってもらう積み重ね
時折渡す相手のラッキーアイテムは自分なりの小さなアプローチ
ちょっとずつ、相手の心に、俺の存在が近付いていけばいい
途中、鼓膜へ“はやくはやく、はやくしないと追い越されちゃうよ”焦った幻聴
急がば回れ、むやみに快速に乗り換えてもしようがないだろ
一駅、一駅、確実に歩み進めて行くべきなんだ
初恋、大切な気持ちなら尚更、慎重に事を進めて成就させていきたかった
と、後悔と共に言い訳をしてみる
本音は、恋に苦しみながら目的地へ終着するのが怖かった
わざわざ遠回りして、ささやかな恋を育んでいたい
のらりくらりと寄り道して、一直線に駆け出す事を放棄したのは、“時間”があったから
ライバルより先に自分が相手へ恋をしていた事実
アイツより自分の方が相手を長く長く想っているという自負
恋をしていた“時間”を盾にして、
『僕はテツヤが好きだ。初めて人を好きになった。だからこそ、この恋を叶えたい。たとえ、誰より遅いスタートでも、勝つ自信がある。いや、勝つ為の気概があるんだ…想いの強さは誰にも負けない…傷ついてもいい、嫌われてもいい、心が死んでも…僕はテツヤの心へ会いに行き、この想いを伝えるよ』
傷つきたくないから、自分を守っていた、それだけのこと
乗り換えなかったことが、その怠慢の判断が、結局命取りになっても、それは自己責任
人波に押し潰されて酸素が上手く吸えなくても、相手の気持ちを知ろうと愚直に向かって行く勇気が無かっただけ
「…もう、遅いのだよ……失恋が怖くて…止まってばかりじゃ、追いつけない………あ、ぁ…黒子、」
足踏みする各駅電車を知らん顔で追い越して行く特急電車
その中ただひとり、前だけを見据える強き者の横顔
失う恐怖へ立ち向かう、赤司征十郎その人だった
ガタン…、
ゴトン、…
プシュー…
静かに降りた初恋電車
「…テツヤ、お前と出逢う為に、僕は生まれて…人を愛する喜びを知り…ここまで生きてこれたんだ…ありがとう……愛してる」
遠く遠くの終着駅、空色のプラットホームで、ふたつの心がひとつになる
静かに溢れた涙は、自分さえも拭ってくれず、コンクリートに染みを作った