※本誌226Qを参考にしておりますので未読の方はご注意を







ガシャリ、
あっ、そうか
僕の世界に
神様なんていないのか


いつものように救われない、約数百回目のシュート。ゴールリングに跳ね返されたボールを他人事のように傍観して、やっと気が付いたこと。僕は、無神論者ではなかった。どちらかといえば、神様の存在を信じていたのに、もう限界らしい。バスケが好きだ、大好きだ。バスケの楽しさを教えてくれた彼の笑顔、最後に交わした約束、いつか試合をしよう、僕を支えてくれる大切な夢。諦めない力を与えてくれたのは荻原くん、彼だった。諦めない、諦めたくない。今度出会う時はコート上だ。それまで、僕はこのボールを離さない。才能がなくたって、努力で補えばいい。積み重ねた努力は、裏切らないはずだ。神様が見てくれている、大丈夫、大丈夫、いつかきっと、


『…報われる保証なんか、…どこにも、…僕には、なかったのに…惨め、ですね』


コロコロコロ…、輪っかにはじかれて床に転がったボールは、まるで僕だ。“お前は要らない”そんな幻聴がきこえて、ポロリと流れる涙。どんなにどんなに努力をしても一向に報われない日々。希望を見出す術もなく、自分の運命に絶望。際限ない真っ暗やみ、泥水を飲んでどうにか生きているような感覚で、止まらない吐き気。誰よりもバスケが好きで、誰よりもボールに触れているのに。神様、無力であることが、黒子テツヤの唯一の才能とでもいいたいのでしょうか。チームの足を引っ張るどころか、伸ばし続けた手の、爪先すら擦りもしない。僕がいてもいなくても、何も変わらない。透明な人間は、空気と一緒だ。役立たずな僕の元には、温かくて輝かしい光なんて一生注がれないのだろう。最後は神頼みなんて人はいうけれど、神様からの手助けこそあてにならなかった。努力しては挫折して、命からがら何度も神様に願った。“バスケがうまくなりますように”結果は、どうにもならず、いつだってどん底へ叩き落とされるだけ。この世に生み落とされた僕という種は、芽吹かないまま死に至る。それをようやく悟った日、悪足掻きを止めて、自分自身を諦めて、バスケットボールを手離そうとしていた。あの約束を、僕の大切な友人・荻原くんといつか試合をする夢を捨ててまで、僕は自分の心を殺すことを選ぼうと、


『黒子テツヤ、くん。君には特別な力がある。誰とも似つかない、君だけが生み出せる輝きだ。その才能を引き出す事をここで諦めてはいけないよ。きっといつか、自分の中に希望を見つけ、自分を誇れる日が来る。その姿を俺は見てみたい。俺が見つけた君という種が芽吹いて花開く、素晴らしい瞬間を』


神様かと、思った

偶然か運命か、自殺寸前の僕の前に現れた、赤色の少年。僕が一方的に知っていた、遠目から羨むことしか出来なかったヒトが、今僕の目と鼻の先にいて、あろうことか黒子テツヤを見つめている。驚きや戸惑い、様々な感情が押し寄せ混乱する中、心の片隅で静かに知り得たこと。彼の赤い瞳は、宝石のように高潔で美しいこと。不思議だ、信じ難い言葉なのに、その瞳に見惚れて心が絡め取られてしまう。強い意志のこもった赤色の双眸を信じてみるべきなのだろうか。僕の真っ暗だった世界は、赤い光に照らされ始めている。


『黒子くん、自分を信じる事が、怖いかい?そうならば、まず俺の事を信じてくれないか?君の力を見出した俺が責任を持つよ。だから、ひとまず騙されたとおもって、本当の自分を探す努力を始めてみないか?もし失敗したら俺のせいにすればいい、もし成功したらただ喜べばいい。どうかな?強制はしないけれど、出来たら俺の手をとって欲しい』


神様、やっと僕へ希望を与えてくれたのですね。赤司征十郎くんという、貴方の子どもは、こんな僕へ手を差し伸べてくれた。さすが貴方の血を分けただけある。人々を統べ、人々から崇められ、頂点に君臨する神様のような人間。雲の上に住まう赤司くんに、底なし沼で溺れる僕は、奇跡的に見つけてもらえた。それだけで、死にかけた心が救済されたのです。僕は人とは違う輝きを手に入れる為、四方八方あらゆる方面から答えを模索し、気が遠くなるような試行錯誤を厭わなかった。どうすれば、あの人を喜ばせられるだろう。彼が僕の光り輝く瞬間を望むように、僕もまた彼に対して望むものがあった。その切なる願いが、腑抜けていた僕の頭も四肢も心臓も何もかも、激しくしぶとく突き動かす。必死だった、もう二度と自分を諦めたくなくて、僕の力を信じてくれる彼の期待に添いたくて。無我夢中で這い蹲りながら活路を探して探して。ふと赴いた本屋、吸い寄せられるように手にとった、一冊の本。これだ、無力で目立てない、透明な僕が、輝ける、いや、翳ることで人を輝かせることが出来る一筋の光。やっと見つけた新たな武器、僕の手から放たれたパスがコート上を鮮烈に切り裂いた時、彼は笑った。砂漠の中で、長年探し求めた花を見つけたよう、歓喜に震える瞳に、僕はもう嬉しくて嬉しくて今なら死んでもいい、なんて








「テツヤ、お前を見つけたのは、僕だ。天地が引っくり返っても、黒子テツヤは赤司征十郎のもの、一生変わらない事実。僕がいなければ、お前は光ることも翳ることも出来ずに、消えていたんだよ?お前の全ては僕から始まり、お前の全ては僕で終わる。それなのに、どうして他の奴と縁を結ぼうとするの?僕だけ見ていればいいのに、欲張りなひどい子だね。痛めた身体を引きずってまで、僕以外の人間とバスケをする意味なんてあるのか、ないだろ。ふたりの世界に他の誰かを侵入させてしまうと、僕らの平穏は揺らいでしまうんだ。それをわかってもらえないと、困るなぁ。テツヤがわからず屋だから、わざわざ僕がこの手で邪魔者に裁きを与えなきゃならないんだよ?でも誤解しないで、僕だって好き好んでやっている訳じゃあないんだ。この手は勝利を掴み取り、テツヤを愛でる為にある。だから、あんな身の程知らずな愚か者とバスケで対戦するのが夢だとかふたりの約束だなんて、ふざけた事は二度と口にしないでおくれ。愛するお前に裏切られるのは、もうまっぴらごめんだ。次はきっと、彼に心だけじゃなく体も潰して罪を償ってもらうしかないんだよ。」


11111、再び訪れた真っ暗やみに浮かぶ、彼を象徴する“1”の絶望

僕は、とんでもない、馬鹿者だ。自分を推し量れない人間が他人を推し量れるはずがなかった。ましてや、気の狂った人間、心の奥底は計り知れない。僕は何も見えていなかった。赤い少年の瞳は、綺麗なんかじゃない。汚れた血塊、嫉妬と憎悪のない交ぜ。その赤の中、溺れている僕、気色悪い、吐き気がする。赤司征十郎は、いつのまにか、かわってしまったのか、さいしょから、そうだったのか。分からないけれど、僕は彼を信じた瞬間から、この世界に対する見解を間違えていたのだろう。どうして、僕なんかが救われるだなんて、思い違いをしてしまったのか。僕の世界に、神様なんていない。僕が望む、心優しい神様なんているはずがなかった。あの時差し伸べられた手は、天国ではなく地獄へ導かれていたのだと、今更思い知る。心ない神様の血を受け継いだこの子どもからは、温かさも輝きも感じられない。ひたすら冷たく陰険で、人間味のかけらもない。窮地に陥っていた僕を救ってくれたかに見えたこのヒトの正体は、


「ふたりの幸せを壊そうとする下衆はこの世に要らないからね。テツヤの為なら、僕はなんだってできるよ」


僕以外の人間を消して、僕の心を殺す、ただの死神だったんだ


「ねぇテツヤ、目障りなアイツは排除してあげたのに、どうしてまだ泣いているの?もしかして、過去のくだらないしがらみから解放されて、やっと僕とふたりきりになれて、そんなに嬉しいの?かわいいなぁ、僕のテツヤは」


虫一匹すら殺しそうもない慈愛に満ちた微笑み

僕のおびただしいかなしみを掬おうとするやさしい指先

うそつき、きたない、さわるな

バシッ、と彼の手を払いのけ、そのまま、バチンッ、と彼の頬を力一杯叩けば、鳩が豆鉄砲を食らったマヌケな顔

あぁ、このろくでもない神様の子どもは、本当に人の心を微塵たりとも解っちゃいない

信じられない、というカオで赤く腫れた頬をおさえて涙ぐんでいる姿

哀れだ、同情する余地もないほど、哀れでひどく憎たらしい

何の躊躇いもなく、自分が正しいと信じて疑わず、僕の大切な友を傷つけ、僕の大好きなバスケの楽しさを奪い取った、赤司征十郎というヒト

君に憧れ、君に感謝し、君を密かに愛おしく想っていた僕は、


「赤司くん、君に出逢ったことが、僕の人生、最大の不幸です」


潔く、死んだ方がマシだ







好きでした


密かに葬る花の恋





死体に縋りついて泣き喚かれたって、もう僕の恋は息絶えた

僕の心を、動かしたのも、止めたのも、すべて君のせいなんだ










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