※本誌第220・221話を参考、未読の方はご注意を














“雨の日、相棒と決別して、ノコノコと体育館へ戻ったら、恋人が消えていました”



僕の心は、空っぽだ。大切な相棒と同時に失ってしまったのは、最愛の恋人。彼を消した人間が憎くて憎くて、気が狂いそう。バスケを通して友情を育んだはずの青峰くんの辛さを、僕は理解出来なかった。彼の心に寄り添い共感する事すら、完全に拒絶されてしまった。僕は彼と違って、一人では勝てない役立たずの影だから。奇跡の進化を遂げた彼のように、息をするだけで勝ててしまう事が辛いだなんて、無能な僕には一生解らない。それでも、決別した後でも、青峰くんの姿は、見える。あれから、ほとんどの練習をサボり、時々気まぐれに顔を出して、ちゃんと試合には出てくれる。僕のパスを必要としない、青峰くんは、いる。ただ、僕とは目すら一切合わないだけで、そこにいる。なのに、彼はいない。赤司くんは、そこに、いない。どこにも、いない。何度も何度も探し回っても、見つけられない。チームプレーを信条とし、仲間を大事にする、とても真っ直ぐで思いやりのある人。バスケを諦めて自分の弱さに絶望した僕を救ってくれた神様は、どこかへ消えた。あの時、あの人は、現状に失望して体育館を飛び出した青峰くんの元へ僕を送り出してくれて、説得するも結局どうにもならなくて、そんな無力な自分がふがいなくて、雨の中惨めに体育館へ戻って、それから……、あ、れ、記憶が曖昧。信じたくない何かが起きて、過去の映像が歪む。ズキリ、頭が、いたい、何かを拒むように、ズキズキする。いや、そんなの、どうでもいい。それよりも、大事なのは、


「赤司くん、」


赤司くん、赤司くん、君はどこにいるの?僕を残してどこへ行ってしまったの?お願いだから、戻ってきて。はやく、はやく、かえってきて。こわいのです、おそろしいひとがいるのです、たすけ、


「テツヤ」


来た、イヤだ、逃げなければ、助けて、赤司くん、あのひとが怖い、いやだいやだ、ぼくを壊そうとする、あの汚い赤色が、きらい、だいきらい、


「テツヤ、今日も、愛しているよ」


赤司くんの器をのっとった、キチガイじみた破壊者は、ぼくを愛して心を壊そうとする







赤司くんが消えて、赤司くん擬きが現れて、早数ヶ月。悪夢に耐えかねて『きみはいらない』と本音を告げたある日、僕はこの人に喉元へ鋏を突き付けられた。『黙れ』と威圧しながら、カタカタと震える手は、臆病なのか何なのか、興味は一切無い。僕を見つめる瞳はいつものように、強気な二色。どうしても愛せない、偽者の目障りな特徴。赤司くんのようで、赤司くんではない人間。見た目は赤司くん、中身は別人。チームプレーを放棄した最低最悪な人間だ。あの赤司くんとは、似ても似つかない。それでも、その手で殺されてもいい、なんて、馬鹿げた妥協をしたのが愚かだった。探し疲れて諦めるように瞳を閉じた僕はきっと、死んでしまったかもしれない赤司くんの元へ逝きたくてしようがなかったのでしょう。こんなに探しても見つからないならば、この世の流れに任せて、死んでしまえばいい。最期のカウントダウン、心臓はただただ静かにその瞬間を待っていた。その時、


『テツヤ』


モワリ、妙に、熱のこもった声で呼ばれた自分の名前に、ゾワリ、寒気がして、パチリ、思わず瞳を開いたら、ドクリ、僕は一瞬で死んだ。偽者の赤に、唇を奪われて、心臓が凍った。どうして、こんなことを、するのか。きもちわるい、しんじられない、こんな死に方、死んでも死に切れない。


『ふざけるなっ!…あかしくんを……僕の、赤司くんを、かえせっ…!!』


バチンッッ…!!彼の頬を思い切り叩く、怒りに震える僕の手。せめてもの、仇討ちだったのだろう。確信していた、この偽者のせいで、赤司くんは消えてしまったのだと。ひたすら純粋に赤司くんを愛し抜く僕を汚した罪も重ねて、はじめて人に暴力をふるった。ジンジン痛む僕の手のひらより、赤く腫れあがった左頬はずっと痛んでいるはず。こうして、どうにか、一矢報いたのに、


『…ひ、…ひどいよ……テツヤ………ボクは……ボクは……×××××なのにっ…!!』


ボロボロ、子供のように泣きじゃくるなんて、ズルい。悪魔のような人間は、卑怯な弱さを、急に見せつける。深く傷付けられたはずの、僕の唇や心臓の方が悪いみたいに。勘弁して欲しい、泣きたいのは、僕の方だ。この厄介なコドモが咽び泣きながらも主張したかったこと、それは彼の正体。しかし、僕の恋人を殺した犯人の実名はピーーーーッと伏せられる。×××××という名前、嘘っぱちなんて聞きたくも無い。神聖な名を口にする唇が憎い。それが僕の唇に接触して、汚らわしい。はやく、僕の唇を、赤司くんの唇で綺麗にして欲しい。会いたい、あいたいよ、赤司くん、



“黒子、好きだよ”



聴こえないよ、見えないよ、触れられないよ、僕の赤司くんは、一体どこにいるの?








寝ても覚めても、鮮やかな悪夢は、延々と


「テツヤ、まって、テツヤ、どうして、ボクから逃げるの?ねぇ、どうして、ボクの愛を拒絶するの?僕らは愛し合っていたのに、どうして、どうして、どうして、どうして、ボクを愛してくれないの?ボクはこんなにもテツヤを愛しているのにっ…!!」


昨日も今日も明後日もずっとずっと、僕は赤のストーカーに、追い回されている

どこまでも忍び寄り、手を伸ばしてくる偽者

僕の心を喰らおうとする、赤い影から逃れられない


「ボクを愛してくれないなら、テツヤでも殺すぞ…!!」


ねぇ、お願い、僕を、助けて、赤司くん

殺したい人間に、殺されたくなんてないのです

愛した人間に、殺されてこそ、本望だ

まだ、死にたくない、まだ死ねない

僕の心臓は、君の手を、いつまでも、待っている


「テツヤ、テツヤッ、テツヤァァアァアッ……!!!」


君が、かえってくるまで、ずっとずっとずっとずっとずっとずっと









お菓子と同じくらい、好きでしようがない

紫色の少年は、どうしても空色の少年が欲しかった

だけど、空色の少年は赤色の少年のもの

赤色の少年はとてもとても強く、紫色の少年は逆らうことなんて出来ない

そう思っていた、けれど、ある日、そう思えなくなった

みるみると力がわいてきて、誰にも負けないような感覚

そう、あの赤い少年にさえ、勝てるような、底なしの力

限界だった、あの子が、欲しくて欲しくてたまらない

涙を流すような我慢なんて、もうしない



“俺が勝ったら、赤ちんの黒ちん、ちょうだい”



“赤司征十郎”の失踪の原因は、最愛の恋人を賭けた勝利への、異様な執着だったらしい



「黒ちん、ゴメンね、赤ちん、消えちゃった」



傍観者である紫色の少年は、この悪夢を見届けながら、ヒッソリと悲しげに呟いた






犠牲なくして勝利なし












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