*20000打企画:黒子を甘く落としていく赤司と自分の一番が青峰から赤司になってしまった黒子の戦略的甘々な赤黒ちゃん[Dickさま]
舐め続けるならば、苦いより塩辛いより、甘いものを好むのは、甘党の人間ならば致し方ない事でしょう
「やあ、テツヤ」
「……赤司くん、」
閑散とした薄暗い図書室。突然の来訪者は、窓から見える真っ赤な夕陽よりも輝きを放つ、神々しい王様。
部活休みの月曜日、僕は図書委員としてこの場所に身を置いている。先程までパラパラと疎らに利用者がいたのに、このお方がお出でになるのを先読みしたかのよう、何時の間にやら誰もいなくなった。
彼、赤司征十郎の貸切状態。年季の入った蔵書達が傅き、王様は僕の前へ優雅に闊歩してくる。
報われない現実から逃れたくて、本の世界に没頭していた僕。呼び覚ましたのは、僕を苦しめる青ではなく僕を甘やかす赤。
やけに耳触りの良い声に呼びかけられて、目がかち合った彼はいつものように微笑みかける。僕と赤司くん、二人きりの時でしか見せない笑顔は、最近張り詰めがちな僕の心を和らげる作用があった。
自然と僕の表情が微かに緩むと、彼は僕の頭をフワリと一撫で。心臓の波長が一瞬乱れたのも束の間、隣の席にサラリと座り僕を見つめてくる。赤司くんは所作のひとつひとつに気品があって、その動作の軌道を追っている間に僕の懐へスルリと入り込んでしまう。
昔から人と深く関わりたくはなかった。人に期待するのは無駄な事で、ひとりでも生きていけると思っていた。
僕の背中を元気に叩いて、拳を楽しげに突き合わせてくれる、とある“光”が無責任に現れるまでは。
『テツ、バスケ辞めんな。俺はお前のパスを受けてダンク決めてぇ。お前と楽しいバスケがしたいんだ』
嬉しかった、そして、愛しかった
彼を、好きだと、知った
きっと、ずっと、大好きだと、そう思った
彼のそばにいよう、そう決めた
『やったな!テツ!これで一緒にバスケ出来るぞっ!!』
僕の性格は頑固だ、と思う。一度心に決めた事を変える事は出来ない。
掴みどころのない印象から流されやすいと思われがちだけれど、実際は融通のきかない人間。
だから、何があっても、誰が関わってこようとも、僕の心が自由に操られる事は無いと、根拠の無い自信を持っていた。
もし、僕の心を揺るがせられるとしたら、ただ一人。
ひとりぼっちだった僕に、屈託なく笑いかけてくれた、
『テツ!!パスくれ!パス!!』
僕の一番大切な人、青峰くんだけだろう
『俺を倒せるのは俺だけだ』
絶対にそうだと、僕はとんだ思い違いをしていたのでしょうか?
「……テツヤ、泣く場所はここにあるから、我慢しないで僕の胸においで?」
ブワッと瞳から溢れる悲しみを感じながら、僕は反射的に彼の胸へ飛びついた。限界だった、もうあの頃には戻れない事を悟って、傷付いた。青い少年が僕の存在を認識してくれない日々は、心がすり減らされていくには十分で。それを補ってくれたのは、紛れもなくこの赤い少年。僕がひとり、絶望の淵に座り込んでいると、わざわざ探して見つけて慰めてくれる。時には黙ってそばにいたり、時には優しい言葉で労わってくれたり。そして、いつもいつも、力強く抱き締めてくれるんだ
“お前はひとりじゃない、僕がいる”
そう、教えてくれる
“僕はひとりじゃない、赤司くんがいる”
青色のぬくもりが消えても、赤色のぬくもりが僕の心を包んでくれる。無能で役立たずな影の僕なんかの為に、
「…言っておくけど、僕はただテツヤの心を支えたいから、こんな風に抱き締めているんだ…だから、余計な事を考えないで、僕に甘えて?」
ほら、赤司くんは何でも気付いてくれる。僕の心を無視する青の人とは違う、全然違う。ああ、そんな事を比べるのは、もうやめよう。わかり切ったことじゃないか。
「……僕なら、こんなに健気で可愛らしいテツヤを手放したくないけれどね……絶対に」
赤いリボンで強く強く結びつけるかのような抱擁が、僕を繋ぎとめる。信じられるのは、赤色だけ、赤司征十郎くんだけ
「……テツヤ、心をリセットするおまじないを…僕がかけてあげようか?」
コクリと頷けば、ニコリと満足気な表情。彼の笑顔を見ると、心に火が灯る。そのあたたかさが僕を生かしてくれるんだ。
「…じゃあ、僕の目を見て、テツヤ」
導かれるがまま、彼の美しい赤い瞳を見つめる。その目に映る僕の顔、心なしか熱に浮かされているようだった。赤司くんは、綺麗だな、ずっと見ていたい、赤司くん、赤司くん、赤、
「……テツヤ、」
触れたのは、赤い唇。瞬間、心は真っ白。後に、真っ赤に染め上げられ、
「……ね?僕の事しか、考えられなくなるだろう?」
僕の心は、甘い甘い蜜のような赤司くんで満たされてしまった。
思い返せば、出会った頃から、心のどこかに潜んでいたこの色。青色に埋め尽くされていた心に、小さな染みを作っていた、赤色。僕の力を見出してくれた赤い眼光は、心に深く突き刺さっていたのだろう。いつも、赤い棘は僕へ存在を主張していた。チクチク痛むのに不快じゃない、ここにいると示してくれる。適度な距離で僕を見守り、必要な時に僕を助けてくれる赤司くん。頭を撫でてくれる手や僕を見つめてくれる瞳、僕を受け止めてくれる胸は、いつも変わらずそこにあった。そうして、時折訪れるふたりきりの時間。優しく名前で呼び、優美な笑みを向ける赤い彼。彼のおかげで、僕は自分を保っていられた。大切な人を救えない自分を捨てずにいられた。けれど、結局僕はあの人に手放され捨てられてしまったのだ。ひとりぼっちの図書室でふたりの歩みを思い出している内に気付いてしまった、過酷な現実。押し寄せる悲しみから逃れようと本のページめくって藻掻いても、ひとりではどうすることも出来ずに。そんな時、やはり現れたのは、僕の救世主・赤色の神様。青い色をした人、確か××くんのせいで苦渋を舐めさせられ塩辛い涙を流していた僕へ与えてくれたのは、とってもとっても甘い秘密の“おまじない”だ。ちゅ、と優しく触れた赤い唇、初めてのキスの味はまるで蜂蜜のように甘ったるい。忘れられない、心にまた深く深く棘が刺さった。それからというもの、僕は赤司くんの事ばかり考えてしまう。ドキドキドキドキ、心臓の動揺は鳴り止まない。それを感じながら頭によぎるのは、疑問と不安。赤司くんは僕を特別に想ってくれているのだろうか?あのキスは彼にとって他愛無いただの“おまじない”でしかなかったら、なんだかとても悲しくて苦しくて辛い。ズキンズキン、心臓の奥が痛い。どうしてしまったのだろう、僕は、遂におかしくなってしまったのか。彼の僕に対する行動ひとつひとつに特別な意味を持たせたい、僕に対して特別な感情を抱いて欲しい。そんな風に、期待して思い悩んでしまっている。どうしよう、きっとこれは、ふつうじゃない。ふつうの感情なんかじゃない。心の片隅で、恥ずかしげに囁かれるのは、ほのかに赤く色づく答え。もう否定出来ない、僕はもう、自分の想いに気付き始めてしまった。ああ、一方通行だったらどうしよう。君の心は一体どこへ向いているの?僕をどう思っているの?赤司くん、赤司くん、赤司くん、君は、僕の事を、
「好きだよ、僕は、テツヤのことを」
「そして、きっと、絶対に、好きだよ、テツヤも、僕のことを」
「だから、お前の出る幕はないんだよ…僕をテツヤに引き合わせてくれて一度テツヤの心を奪って散々に傷つけてくれてテツヤの心を丁度良く弱らせてくれて…真摯に愛を注いだ僕を盲信してくれるようお前がうまく出汁なった事には感謝するよ。そのおかげで、テツヤの心は僕のものになった、ありがとう、お前はもう用済みだ。今後一切、テツヤには近寄らないでくれ。いくらテツヤが僕しか心に存在しなくても、お前の存在自体が邪魔なんだ。僕はテツヤとふたりの世界で生きていきたい……もし、お前が少しでも僕の命令に背いたら、」
「この手で××すぞ、青峰」
グシャリ、苦虫を潰した顔、ケッサクだな。失ってから気付くなんて、本当に馬鹿な奴だ。あの子を一度手放してしまうなんて、どうしようもない愚か者だよ、お前は。僕としては好都合だったから、それは良しとするけれど。まあ、コイツが馬鹿でも愚か者でもなく、テツヤを大切にしていたとしても、過程が異なるだけで結果は同じだったろう。青峰よりも僕の方が、テツヤを愛して欲していた。だからこそ、力尽くでも何がなんでも、僕は運命を定めようとしたのだ。あの時、テツヤに出会った瞬間、全身に走った衝撃。今にも消えそうなほど、儚く美しいシャボン玉のような少年。本能的に感じた、手に入れたい、渇望。黒子テツヤ、彼を僕のものにする。お前は赤司征十郎のものになる。心からその想いを瞳にのせて、強く強く見つめた。僕の鋭い光が、視線を結んだ彼の瞳を伝って、心に突き刺さればいい。赤い棘を植え付けて、ひっそりと侵食していけ。いつもそばで見守り支えて甘やかして、棘が抜けぬよう存在を主張する。どんどん蔦を絡ませて、心を支配していくんだ。僕なしでは、生きられないように。そうして、極め付けは、“おまじない”だ。信頼しきった小さな唇へ、優しく噛みついて触れる。僕だけしか考えられないよう、甘い蜜を流し込む。
“テツヤ、あいしている”
真っ赤に染め上がるテツヤの頬、とてもとても愛おしくて、
「テツヤを幸せにするのは、お前なんかじゃない。この僕だ、赤司征十郎なんだ」
一生手離さない、死んでも手離したくない
何がなんでも、僕のそばにいてもらうよ
出逢った瞬間から、黒子テツヤの未来は決められていたんだ
赤色の愛は、遅効性の猛毒
ジワジワと毒に慣らされてしまったお前は、きっとその恐ろしさに気付かないままだろうね
かわいそうでかわいらしいテツヤ
僕の愛に侵されたが最後、絶対に逃がしてなんかやらないよ
愛の為、蝶のように振る舞い、蜂のように刺し殺す