*あんけーと:依存するヤンデレ赤黒ちゃん










テツヤが死んだ、その死因は××







「……テツヤッ……!!!……は、ぁ…はぁ……、また、…夢…か……」


今日もまた心臓を握り潰す悪夢が終わり、涙と汗に塗れ全身が痺れている自分を認識して朝が始まる

僕の片想いがやっと実を結び、晴れて恋人になった、黒子テツヤ

彼は最近ずっと、僕の目の前で無惨に死んでは、僕の目の前に何食わぬ顔で生きている

深い黒色に支配される夜、睡魔に騙された僕の瞼が閉じられ、望まずとも繰り広げられる、血錆び付いた擬似世界

そこで生まれるのは、愛くるしい恋人の死体

どこか見覚えのある誰かに、殺された、僕の大事なテツヤ

命の危険が迫る彼を助けたいのに、僕は黒の空気に囚われ、身動きがとれない

殺すなら、僕を殺せばいい、テツヤの為なら死ねる

鋭く光る刄を手にした殺人鬼へ、必死にそう叫んでも、殺されてしまうのは、いつも必ずテツヤ

愛する恋人の死に、咽び泣き人格破綻していくのは、いつも必ず僕

ただ結局の所、それは夢でしか無い事は、毎夜の殺戮現場で、知り尽くしている

だがしかし、夢であればいい、なんて、そんな悠長な事は言えない

たとえ、温度も感覚も無い、嘘で彩られた幻の世界であっても、僕はそれを良しとはしないんだ

どうして、幸せに満ちているはずの僕が、そんな痛ましい夢を見るのか、それ自体が問題なのだから

テツヤが死んでしまう、そんな考えが僕の脳の一部に巣食っている

あのテツヤがそんな簡単に死ぬ訳が無い

現実ならば、僕が身を挺してでも、テツヤを守る

こんな血生臭い夢を見るなんて、僕はどうかしているんだ

なんて、馬鹿馬鹿しいのだろう、バカバカしい、本当に

まるで、僕が、テツヤを……××したい、なんて、あり得ないのに

完全にイカれた推測に、凍りつくような寒気が走る

認めたくない、そんな意思を糧にして、ガクガク震える指先を抑え付けるように、手をグググと握りしめ、衰弱しかけた自分を奮い立たせた

そうして、どうにか、現実の一歩を踏み出す僕

未だ後遺症を抱えながらも、本来の“赤司征十郎”へ身支度し、足早に学校へ向かえば、


「…あ、おはようございます、赤司くん」


誰よりも早く体育館へ来て、大好きなバスケの自主練で軽く汗を流していた、傷一つ無いテツヤが僕へ朝の挨拶をする


「…あぁ、…おはよう、…テツヤ…」


そうして、やっと、僕は心臓の震えが止まるんだ

テツヤが生きていて、良かった

心臓が凍死しかける僕へ、試練を与える大嫌いな神様に、心から感謝する、雪融けのような朝







「赤司くん、今度の土曜日の夜、僕のうちへ泊まりに来ませんか?」


それが、僕を紐解く、きっかけの一言



珍しくテツヤからのお泊りのお誘い

何でも、ご両親がふたりで旅行に出掛ける為に、僕を呼べる環境が出来たらしい

付き合う前には、キセキの連中と一緒に僕の家へ泊まりに来た事はあったけれど

付き合い始めてから、ふたりで一緒の夜を過ごすのは、初めてだった

テツヤと僕、ふたりきり

いつもより練習のピッチが自然と上がってしまうのは、はやる気持ちのせいだ

部活が終わった帰り道の途中夕食の買い物をし、夕焼けの最中ふたりでひとつの買い物袋を持ち、影を結ぶ

ふたりで一緒に台所に立ち、不慣れな作業を助け合いながら、ひとつの料理を作ろうと、手を結ぶ

いつかはこの光景が、特別な当たり前になるのだろう

そんな風に、心がふやけるあたたかな良い夢を見ていたんだ、あの強迫観念から目を背けて





あれから、テツヤとふたりで穏やかな時間を過ごしていた

ふたりで作った少し不恰好なあたたかい料理を食べ、ふたりでゆっくりお風呂に浸かり何気ない話をして、ふたりでソファに座りながら、テツヤはバスケの試合のDVDを見る傍ら、僕はそれを見るフリをして真剣な眼差しをテレビへ向けるテツヤを見ていた

画面に映し出される多種多彩なプレーの数々へ釘付けになる、僕の大好きな純粋無垢で美しい瞳


誰よりも、バスケが大好きで、
誰よりも、バスケに打ち込んで、
誰よりも、バスケを生きがいにしている


テツヤは、そう、いつも、一生懸命なんだ、バスケに、バスケだけに

解っている、わかり切っていた






そんな状態が1時間程過ぎると、だんだんとうつらうつら眠気が増して、脱力したテツヤが僕の肩へもたれ掛かった

眠気という重力に負けた瞼を、なんとか開こうとしている姿に、笑いがこみ上げてしまう


「テツヤ、リビングで寝たら風邪をひいてしまうよ。そろそろ、ベッドに移動しよう」

「…ん、…だいじょ、ぶ…です……まだ、ねむく、……ない、です…」

「…眠くないなんて、あからさまな嘘をつくな。ほら、立ち上がれ、寝るぞ」


眠いはずなのに眠くないと強がる、こどものようなテツヤ

瞼をゴシゴシ擦りながらおぼつかない口を動かすけれど、彼の全身から重だるい眠気が伝わってくるのだから、変な意地を張らないで欲しいのに


「…まだ、…あかし、くん…と……いっしょに、いたい……」


なんて、可愛らしい意地っ張りなんだろう、僕のテツヤは

自分だけじゃなく、テツヤもふたりきりで過ごす夜を楽しみにしていたのだと知った僕の胸は、ホワッとあたたかくなった


「………、大丈夫だよ、いつかは、ずっと、毎日、いっしょにいられるから…」


そう、微かな声で呟いた時には、テツヤは夢の中へ浮遊してしまっていたけれど

耳には届かなくても、僕の揺るぎない未来への想いが伝わっていたのか、安心したように眠る柔らかな寝顔のテツヤ

起こさないように優しく、普段なら恥ずかしいと嫌がるお姫さま抱っこをして、僕はテツヤの部屋へ向かった


「…おやすみ、テツヤ」


電気を消して、髪を一撫でして、額にひとつキスを落として、一足先に眠りについたテツヤを追うように、スッと瞼を閉じ、夢の中へ躊躇わず、足を一歩踏み出した










真っ黒の世界に、赤い曼珠沙華

赤と黒の、美しくも残酷なコントラスト

どうやら、この花は、この空間でしか、生きられないらしい

黒の地面から、一本引き抜けば、瞬時に枯れてしまう、誰かに似ている脆弱な花よ

黒の中へ、枯れた花びらがハラリハラリと涙のように、寂しげに落ちても、この世界は変わらない

赤が泣く泣く死んでも、黒は淡々と生きて行くように


あぁ、どうして、赤だけ、
死んでも、死んでも、赤だけ、
好きでも、好きでも、赤だけ、


“ひとりよがり”


そう、僕だけが、願っている
そう、僕だけが、溺れている
そう、僕だけが、恐れている


“孤独死”


いやだ、ひとり哀しく死ぬくらいなら、



“ボクが××してしまえ”



哀しげに嗤う、赤い髪のオッドアイ、手には赤黒い鋏、見慣れた殺人鬼、それは、もう一人の、









「赤司くんっ!!!しっかりしてください!!」


僕を、呼ぶ、愛しくて憎たらしい声


「…は、……っ、…ハァ……ハァ…、…ぇ、…テツ、ヤ…?」


目覚めると、目の前に、険しい顔で涙ぐんだテツヤがいる


「…びっくり、しました……呻き声が聴こえたと思ったら……赤司くん、が……夢に魘されながら、涙を流していたから…、」


夢、あぁ、いつもの、夢、いや、夢?現実なのか、深層心理、僕の、心の闇、うしろめたい、狂気、ただ、愛している、だけなのに、どうして、どうして、どうして、


「て、つや」

「あかし、く…、…わっ!!」


思い切り、テツヤを抱き締めた

夢から醒めても、今も夢じゃないかと、不安で不安でたまらない

生きているテツヤの方が、夢なのかもしれない、と

一歩間違えば、殺されたテツヤが、現実なのだから

強く強く抱き締めて、テツヤの生きている証を全身で感知しても、僕の心臓の震えは止まらない

こわい、こわい、こわい、




「こわい、テツヤが、こわい、ぼくを、こんなにも、くるしめる」





テツヤへ愛狂う、赤司征十郎が、こわい





「ぼくをふあんにさせないでよ、テツヤ」






死因、それは、ボク











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