どうして、生まれて、しまったのだろう



   ひとり、そう考えることは、僕・黒子テツヤの習性になっている。自分の生まれた意味。それは、一体何なのか、知りたかった。だけど、中学生になり強烈な天才達と出逢ってからというもの、知らない方が良かったと、愚かにも気付いてしまう。何故なら、僕の生は“無意味”だと、反論の余地もなしに悟ったからだ。生まれてこのかた、僕は薄暗い“影”の中でしか、生きていない。どんなに努力を重ねて勝負に挑んでも、独力では“敗北”しか手に出来ない。僕の敬愛する、眩い光に満ちた絶対的勝利者の瞳から見れば、黒子テツヤなんて最高につまらない滑稽な人間に違いないだろう。光の瞬きは、誰の心も惹きつけるのに、影の揺らめきなんて、誰の心も繋ぎとめない。光が必要とされる理由が色とりどりの魅力的な価値であるならば、影である僕は真逆のレッテルを否応無しに貼られてしまう。黒子テツヤは、不必要で無価値な全く色味の無い人間だと。悲しくて辛くて苦しくて、どうして?! どうしてっ?! と、発狂しそうになっても、この世界もこの僕も何かが変わるわけでも無く。僕にとっての現実は、生まれながらにして残酷極まりない。もし仮に、僕がキラキラ光り輝く才能に満ち溢れた“キセキ”に生まれていたのなら、汚らしい泥漬けの惨めな人生とは無縁だったはずなのに。血が滲むような、吐き気がするような、涙が止まらないような、そんな弛まぬ努力を働き蟻のようにせっせと積み重ねたって、“天才”の何気ない一歩の力でグシャリと無残に踏み潰されてしまう。それが、この世で定義された、平凡以下な人間の結末なのだ。途方もない絶望感に打ちひしがれたって、神様に愛されない僕が、彼の優しさに救われる事は一生無いのだろう。哀れだな、無能な透明人間、黒子テツヤは。

   そんな風に自分自身を諦めている僕には、悪辣化し続ける虚しさが頂点に達する日がある。それは、毎年巡ってくる、公開処刑日のようなもの。今年もやって来たのは、死ねない命日。明くる日、1月31日は、僕の誕生日。めでたくも何とも無い、誰にとっても僕にとっても、本当に意味の無い日だ。真夜中、布団にくるまって、もうすぐはじまる苦行のような一日を、恐る恐るジッと待ち構える影の情けない姿。真っ暗な底冷えの空間には、素知らぬ振りでさっさと進む時計の秒針と、嫌に寒気がする僕の震えた吐息の音だけ。チッチッチッ、ハッ…ハァ、ハハッ…あぁ、もうダメだ、結局また、何も見出せないまま、何も掴めないまま、何も誇れないまま、自分が終わって、自分が始まってしまう。惨めだ、こんな底辺のガラクタ、生きる意味なんて、ましてや、一等愛された神様の子どもを特別に想う資格なんて、有りやしない。それでもしぶとく生き延びようとする、身の程知らずな慕情。僕の不幸な運命が増悪する由縁は、心の奥に秘めた罪過への懲罰なのだろう。もう、いっそのこと、粛清するべきか、この身も心も全て。絶望の中の密やかな恋慕それすらも、泣く泣く自害、無に還すんだ。ほら、迫る、迫ってくる、カウントダウン、

ご、

よん、

さん、

に、

いち、

ぜろ、おわり、

しんで、さよなら、








‘プルルルル’

「……え、っ?」

   その時、死後硬直から呼び醒ますよう、綺麗に鳴り響いたのは、

「……もし、もし?」

   思いがけない人物からの予期せぬ電話。

「……あかし、くん?」

   発信者は、僕が尊敬し恋い焦がれ愛してやまない、赤司征十郎くん。

   理解不能。どうして、君が、僕なんかに。

   未だに状況を飲み込めぬまま。無意識下でその着信音に応じると、数秒の空白を経て、彼はひとこと口にし、潔くプツリと電話を切る。

   ただ、赤い少年は、神様に堕胎された死にかけの僕へ、ひどくやさしい音色で与えて下さったのです。



『黒子テツヤは、赤司征十郎の、命そのものだよ』



   僕がこの世に生まれた意味、一心に貴方を愛して生きていく希望の光を。




死なせはしない
ぼくらふたりの
愛のキセキ



はじまる、僕と君の、生命がつながる、幸せな愛のものがたり




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「テツヤ、おめでとう」
「ありがとう、赤司くん」

赤黒ちゃん、末長くお幸せに!










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