*20000打企画:犯罪スレスレの愛の確かめ合いをする赤黒ちゃん(+黄瀬君の友情出演)[千架さまへ]














   ただ「愛してる」の言葉だけじゃ、無味乾燥、ただの愛でしかない。

   「死ぬ程愛してる」ならば、有言実行、死ぬ程愛してくれないか。

   その尊い命をかけて、全身全霊、その尊い愛を証明せよ。





“××を、×して”

   時々薄い鼓膜にチラつく、いつかの誰かが泣き叫んだその言葉。確か、彼の声色は僕らを非難していた気がする、“狂ってる”と。

   それって、僕らが、異常ってこと?
   じゃあ、僕らの、普通って何?

   必死な愛情表現は、僕らにとって、ただの習慣なのに。

   取り分け、特別な儀式でもない、日々の愛情確認。呼吸の意義に等しく、あくまで自然なコミュニケーションだ。お腹が減ってご飯を食べるように、眠くなって床に就くように、基本的欲求を満たす行為のひとつ。

   自分への愛について知りたい君がいる。だから、いつものように、君への愛を知らしめてあげるんだ。そう、こんな風に、


「……僕、赤司くんの手だったら、首を締められてもいいですよ……死ぬ程の力で」
「そうか……じゃあ、遠慮なく、テツヤを死なせてもらおうかな」


一生懸命、にね。

   穏やかな殺意と苛烈な愛慕は表裏一体。

   ころしたいほどに、いとおしい。

   赤い少年が、真綿で包むように、やさしくやさしく、締めつけていくのは、空色の少年のか細く白い首。

   ぐっ…ぎゅうっううぅうぅ……ぎり、ぎりぎりぎり……、

   殺人鬼の美しい手は、愛する人へ真実の愛を示すよう、一心不乱に力を込める。その圧搾力が増せば増すほど、儚い笑みを浮かべる絞殺体の心は、緩やかに痛々しく満たされていった。想いの強さに比例するこの苦しみは、最上の喜びでしかない。

   恋思う余りに、止められない殺人衝動。

   みるみる、溢れ出す力
   ぐるぐる、深みに嵌って
   ぐりぐり、食い込んでゆく指先

   段々と遠退く意識、段々と近付く死期。ぼんやり霞み始めた痛覚とは裏腹、はっきりと伝わるのは、赤い少年の偽りのない愛情。


愛してる
愛してる
愛してる
愛してる
愛してる
愛してる
愛してる
愛してる
愛してる



   僕は、愛されている、君に、愛されている。

   嬉しくて、嬉しくて、泣き喚きたくなるんだ。

   瞳に映る世界は色褪せていくのに、君を映す心は華やかに色付いていく。君という世界は、こんなにも美しいのだと、心の底から感動してしまうよ。

   気道の閉塞に伴う、ふたりきり、閉じ込められた感覚。君と僕だけの孤独は幸福の絶頂。もうすぐ、天にまで手が届きそうだね。

   呼吸音が、途切、れ途、切れ、
   意識の…フラ…フラ綱渡り
   生きるか死ぬかの、シーソー / ゲーム

   あぁ、なんて、心地よい。

   殺されてもいい程、君を愛している。

   愛する君に殺されるなら、幸せ以上。

   君を、死ぬ程、愛しているから、君に、殺されても、いいよ?

   ほら、僕の愛は、


「ゲホゲホッ……ヒッ、ァ……ハァッ、ハァ……ハッ……ゴホッ……ぁ、……かしく、」
「……テツヤ、ありがとう、お前の想いがドクドクと脈打って伝わってきたよ……死ぬ程、僕を愛してるって、嬉しい、嬉しい、幸せだ……」


死の半歩手前で、明快に証明された。


「……ふ、……は、っ、……よか、った……ぼくの、愛が……げほっ、げほっ……あかし、く、……に、つたわって……うれしい」


   首から手を離して、そのまま僕の身体を絞め殺すように抱き締める、赤司くんの全てが、凶器。痛くても痛くても、僕は赤い刃を、とてつもなく、欲している。早く、僕を散々に愛して惨殺してくれたら、いいのに。もう少し、手を離すのが遅かったら、きっと、完璧な愛になれたのだろう。

   惜しかった、けれど、仕方がない。一発勝負、最後の証明には、まだ早いのだ。いくら楽しみでも、焦らず、じっくり愉しもう? ハラハラドキドキドクンドクン、心臓が休まらない毎日を。さぁ、ひとまず、


「……じゃあ、次は……僕の番だね……おいで、テツヤ」
「……はい、赤司くんを、信じています……僕を、死ぬ程、愛していると……」


ぐっ……ぎゅうっううぅうぅ……ぎり、ぎりぎりぎり……、代わりばんこ、証明者交代。

   酸素が行き渡らない震えた指先、赤い少年の喉元に触れて、しなやかな首を両手で包み、真摯に愛情を注いだ。

   愛する人の酸素を奪っていく過程で、思い出すのは、いつかのふたりの他愛のない会話。

“生まれる人は選べないけれど、殺される人は選びたいな”

   そうだね、殺されるならば、君以外にあり得ない。

   そうだよ、君を殺すのも、僕以外にあり得ない。

   ふたりの少年は一途に心中を望んでいる。その最期の瞬間まで、愛を伝達し合うのだと、高らかに宣う。

   彼らは、いつも安らかに笑って息をしていた。けれども、生きているのに、どこか仄暗い死臭が香るのは、ふたりの間に健全な生への執着が存在しないからだ。


   愛する為に生きていない

   愛する為に死のうとしている


“ねぇ、どうして、やさしく生きようとしないの?”


   とある彼らの友人は問いかけ続けていた。綺麗な顔を悲嘆の情で、グニャリと歪ませながら。


   赤司っちと黒子っちは、とてもとても愛し合っている、らしい。

   歪んだエンドラインまで、共に死の苦しみを這いずり回り、手繋ぎゴールを企てる。

   ふたりの殺人未遂現場を何度目撃したか、俺にはもう解らない。唐突に始まる、ふたりの愛情交換は、心臓に毒だ。

   いつか、ふたりとも、愛し合いながら死んじゃうのかな、って。ふたりは無神経に笑っているけれど、俺は考えただけで涙が出るんだよ?

   お願いだから、お互いの、身体を痛めつけないで、心を疑わないで、命を自分のモノにしようとしないで。お互いの、身体を労わり合って、心を信じ合って、命を支え合って、やさしい愛になればいいのに。

   何度泣き叫んでも、部外者の俺の声なんて、ふたりには全く届かないのだけれど。どうしたら、俺の言葉を、心に刻んでくれるの?? もし、俺がふたりの目の前で、人間の死をぶちまけたら、ようやく解ってくれるのかな??

   ボロボロボロボロ、

「黄瀬くん、」「涼太、」

“どうして、泣いているの??”

   なんて、どうせ、自分の大切な命を、無駄にするだけなんスけどね。

   あぁ、どこまでも、報われない。大事な友達をどんなに思いやっても、その心を無下にされるのがオチ。ふたりの鼓膜に過擦りもせず、消えていく涙声。それでも、いつかふたりが息絶えてしまうその瞬間まで、俺は音が死ぬまで叫び続けるよ。


“自分を、愛して”


   自分を愛せない、自分の命に愛を持てない人間は、他人を愛せない、他人の命に愛を持てるはずがないのだから。

   神様、どうか助けて下さい、


「赤司くん、」「テツヤ、」

“心臓、貫いてもいい??”


愛せない自分を愛してくれる人を愛して狂ってしまった、不幸なふたりを。










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