*あんけーと:溺愛+ゲロ甘赤黒ちゃん
※軽微な性描写有り





   王様のいうことは、“絶対”になってしまう



「おい、お前たち、練習後に体育館を完璧にキレイにしておけ。サボった奴は、どうなるか解っているだろう?逃げるなよ、特に大輝。あ、僕の可愛いテツヤ以外の、みんなだからな」

   あぁ、どうしましょう。また、僕の不用意な発言のせいで、みんなに被害が出ています。僕の友人でありチームメイトである赤司くんは、とっても極端な人です。何故か、みんなにとっては厳しくて辛辣で横暴、まるで貧民に圧政を敷く意地悪な王様のよう。だけれど不思議なことに、僕にだけ本当にやさしくてやさしくて。特別に甘やかされている感が否めないのです。部活では一軍のみんなに比べて体力の無い僕を労わって作られた特別メニューを一緒のペースでこなしながら励ましてくれたり。勉強ではいつも僕の苦手な教科をとっても解り易くまとめたノートを作ってくれて付きっきりで解説してくれたり。とにかく人並み以下な僕をいつだって嫌な顔ひとつせずに助けてくれる。僕の言動ひとつひとつに対して瞬時に反応し即時に対応する、ちょっと過剰な心遣いをする彼に、なんだか僕はくすぐったいようないたたまれないような、何とも言えない気持ちになりますが。

   今日は、部活中に僕が床のゴミを見つけて、『体育館、ちょっと、汚いですね……』ポツリと微かな声で何の気なしに呟いてしまい……そのせいで、僕以外のみんなは地獄のような練習の後に強制的大掃除をさせられることに。みんなとっても悲愴な顔をしていたので、事の元凶である僕は申し訳なくなり、自分も掃除をすると赤司くんに申し出ましたが、

「ダメだよ、テツヤ。そんな汚らしい作業を大事なお前にさせるなんて……僕が僕を許せないよ。それに、お前は部活が終わったら、塵ひとつ無い清潔で綺麗な僕の部屋に来る予定なんだから、早くいっしょに帰ろう、ね?」

   え、そんな予定ありましたっけ?少なくとも僕の頭の中にあるスケジュール表にはありません。おそらく、いつも突拍子もない赤司くんの頭の中だけで勝手に決められたのでしょうね。だって、僕は今日の練習後、赤司くんを除いたキセキの面々とマジバへ寄る約束を一方的にされていましたから。ですが、

「……涼太、真太郎、大輝、敦……お前たち如きが、この僕を出し抜いてテツヤを4人占めにしようと目論むなんて……いい度胸だな。お前たちに限っては罰として一ヶ月間の居残り体育館大掃除を命ずる……それをサボる命知らずはいないだろう? 僕の瞳は誤魔化せないからな。しっかり反省してその邪心の清浄化に精々勤しめ」

   それを果たすのはどうやらずっとずっと後の機会になりそうです。“絶対王政はんたーい”ぶーぶーブーイングが響き渡る体育館。主に黄・緑・青・紫の4人から非難の声が上がっています。あああ、それに比例して、赤司くんはどんどん黒い笑みを濃くして額には青筋が……。

   グサッ……!!! 刺殺されたのは、誰の頭?

「……おい、騒がしい愚民共。これ以上この僕に反抗するならば、こうしてやらなくもないぞ……?お望みならば、この鋏で頭蓋骨にキレイな風穴をあけてやるが……どうする?」

   足元に転がっていたバスケットボールをガッと掴み、勢いよく鋏を突き刺しました。彼の優雅な佇まいからは想像出来ない荒ぶりように、僕もみんなも青ざめて言葉を失ってしまいます。王様に逆らったら、脳天直下の鋏貫通地獄。そんな暴虐を、暴君の魂が宿っている彼ならやりかねません、僕以外のみんなには。

「さぁて、テツヤ。なんだか疲れちゃったし、そろそろ帰ろうか、うん、帰ろう、僕たちの家へ」

   え、君だけの家ですよね?僕たち、って、かなりの語弊がありますよ、赤司くん。勝手に進んで行く話に困惑して頭がついていかない僕は、彼の為すがままに手を引かれて行きました。しかしその途中、どうにか勇気を振り絞ったあの4人はそれぞれ赤司くんの独走を妨害しようと奮闘。しかしながら、やはり、王様は王様だった。「あ、あああ赤司っ、貴様、俺達の可愛い可愛いテツヤ姫を誘拐して、一体何をするつもりなのだよっ?!」と、問い質す緑間くんを「何って、決まってるだろ。テツヤと愛し合うんだ、邪魔するな野暮メガネ」とメガネに目潰して一蹴し、ヤダヤダと幼稚園児並みの駄々をこねる紫原くんを大量のまいう棒で宥めて買収し、その隙に僕を抱えて逃げようとした青峰くんに大量の鋏を投げつけ足止めをして僕を奪い返し、お姫様抱っこにしたまま僕を持ち帰ろうとした彼の脚にしつこく纏わり付いて「赤司っちぃぃいいいっ!!! 黒子っちの貞操を奪うのは勘弁して下さいっス!!! 後生っスからぁああああ!!!」と、涙ながらに食い下がる黄瀬くんの頭を無言で思い切り踏みつけて、最難関ステージを軽々攻略してしまいました。さすが、ヒエラルキーの頂点に君臨する赤い大魔王様ですね。




「……テツヤ、ほら、そろそろ、観念して、僕の隣においで」

   そう、何時の間にか僕はお城のような赤司家にいた。あれよあれよという間に、豪華な夕食を食べさせられ、豪華なお風呂に入らせられ、豪華なベッドで眠らせられようとしている僕は、おそらく危機的状況なのかもしれない。バスローブをはだけてしなやかに鍛え上げられた胸板がなんだか心臓に悪い王様は、ゆるりと妖艶に微笑みながら、近う寄れと、僕の投降を心待ちにしている。

「……怖がらなくて、いいんだよ、テツヤ……怖いことなんて、しないから。安心して僕の胸に飛び込んでくれ……僕がお前の湯冷めしたカラダを温め直してあげるから……さあ、来るんだ、テツヤ」

   僕にだけ、甘い甘い蜜のような声色で誘い込むなんて、ズルい。根っからの甘党な僕は、その甘ったるい香りによって、頑な自己防衛能が誤作動を起こし、罠と知っていながら、フラフラと惑わされて釣られてしまうんだ。

「ふふっ……なぁんだ、テツヤったら、本当は僕に甘えたかったんじゃあないか……そんなに、僕の胸で、窒息したいの?」

   本能に従って、赤司くんの待つキングサイズのベッドに入ると、すぐさま僕のカラダは勝手に彼の胸へ吸い寄せられた。僕の心を甘やかに刺激する、赤司くんの全てを統括するのは、その胸骨の奥で呼吸する赤い心臓。伝わる、ドクドクドク……余裕たっぷり悠然とした笑みとは裏腹に激しい音を刻む、本当の赤司くん。何故だか、それが妙に愛おしくて、僕は一度深く埋めた顔を少し離し一拍置いて、ちゅう、やさしく触れた。そうすれば、赤司くんは、ビクリとカラダを大きく震わせ、心臓は一瞬呼吸を忘れたらしい。珍しく動揺した彼の姿に新鮮さをおぼえていれば、赤司くんはドサリと僕を押し倒し、ガバリと僕のバスローブをはだけさせ、僕の露わになった胸に顔を近付けてくる。

「……この僕を、その可愛らしい唇で、殺そうとするなんて……テツヤは無垢な性悪だな……参っちゃうよ、本当に」

   お返しと言わんばかりに、柔らかくやさしく触れた僕とは違って、僕の心壁へ鋭く激しく触れる。ピリリと薄い皮膚に痛みが走り、ちょっと顔を歪めながらくぐもった声を漏らせば、顔を上げた赤司くんは満足そうな笑みを見せて、

「これで、テツヤの心臓は、僕のモノだね……ちゃんと、僕の赤いシルシを付けておいたから……これが、消えないように、これからずっとずっと、愛を吸い付けてあげるよ……僕の可愛い可愛いテツヤ」

王様の愛撫が、はじまる。



   チリッ、チリッ、君に、触れられたところが、ジリジリ熱くて、消えない跡になってゆく。さながら、一生治らぬ火傷のように。

「……テツヤ……、やさしくできなくて、ごめん……でも、もう……おまえが、すきすぎて、おかしくて……てかげん、できない。すき、すきだよ……テツヤ……あいしてる……」

   自分でも気付かないままに、逆らう気も起きない程、僕の身体も心も自然と彼を受け入れてしまう。君に傷つけられても、その痛みが辛くないのは、僕が君のモノになりたい、そんな潜在意識が、自ずと生まれていたんだ。きっと、僕は、君のいうとおりに、

「……おねがい、テツヤ……僕だけのテツヤでいて……」

“絶対”に、赤司征十郎のモノ以外にはなれない人間に、なってしまったのでしょう。

「……赤司くんも、……僕だけの、赤司くん、で、いて……くださ、い」



やさしい王様の
甘いあまい毒
僕の心臓へ
密やかに浸食












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