自分の中だけで思い悩み苦しみ続ける事に疲れてしまった僕は、ある人物に相談してみることにしました。それは、なんでもわかる神様のような赤司征十郎くんへ。

   彼は物事の本質を見極める双眸と、多方面から深慮する判断力、そして何よりも相手の気持ちを理解してくれるやさしさを持ち合わせた人物だ(ただし、キセキのみんなに赤司くんは優しいですよね、と同意を求めると、何故か引き攣った苦笑いを返されますが)

   そんな彼へ、僕の恐怖心を伝えようと自分が打ち出した考えを述べてみれば、若干険しい面持ちで簡素な質問を返された。

「え? どうして、って言われても……思う、って、故意にするようなことじゃないですから、はっきりとは分かりません。故意に思うのは、多分思い込み、ですしね」
「じゃあ、テツヤは思い込んでいるんだよ……確かに夜は死をイメージしやすい色合いがあるかもしれないが……そこまで思いつめる必要は無いだろう。人間の生命について悲観的に捉えることが正しいと決めつけていないか? いや、正しいというより、気持ちが楽になるからか…人の生死を安易に無意味だと考え、全てを放棄しようとする怠慢さが所々に滲んでいて、僕はその意見に賛成しかねるよ」

   ズキリ、思いがけない鞭がとばされ、弱々しい胸が痛む。赤司くんは、こんな僕をいつも助けてくれる心強い最強の味方ですが、今日はなんだか少し突き放されているような気がして、ちょっぴり悲しくなりました。

   確かに僕は、心のどこかで歪んだ心象を増悪させています。自分自身が今どうにか生きていること、自分自身がいずれ死んでゆくこと、それらを総括して人の生死に意味など有りやしない、どうせ消失する自分ならば何を努力しても無駄だと。こんな絶望視のみに偏った考え、間違っていると、解ってはいるんです。ただ、生命倫理に適った道理を鵜呑みにしたって、僕の不条理な思考を抑制しきれない、むしろ悪化させてしまう。

   あぁ、お願いですから、こんな僕を見捨てないで。人として誤った感情を持て余し、孤独に閉じこもる僕を、

「……赤司くんは、怖くないんですか? どう頑張って生きたって、いつかは死んでしまう儚い結末が来る運命が。僕は、怖いです。太陽が出ている間、どうにか前向きに生きていても、太陽が沈んで真っ暗になると、どうしても自分が死に向かっている感覚が襲って来ます。目を瞑ったら、もう目覚められない、と不安になってしまうんです。そんな恐怖に脅かされ続けるのでしょうね……生きている限り、ずっと、僕はっ……、」

君だけには、受け止めて欲しくて。

   ジワリ、水溶性のかなしみが、溢れ出す。頬にこぼれ落ちた水滴をゆっくり拭えば、自分の手が死人のように、冷え切っていることに気付いて、自嘲気味に嗤った。

   なぁんだ、死を恐れて生きている僕は、死んでいるのも同然じゃないか。

   感情が決壊した僕とは対照的に、何の感情も読み取れない彼の瞳が、今日はなんだか憎たらしい。

   もう、いい、もういいんです、だれにもぼくのきもちなんて、わからない。

   ひとりで怯えて、ひとりで死んでゆこう。

   もう、自分にも誰かにも、ヒカリを期待したくないんだ。

「……すみません、赤司くん。お見苦しい姿を晒してしまって。僕の口走ったくだらない戯言は、忘れて下さい。それでは、失礼します」

   ふたりきりだった、夕暮れの図書室の隅。

   徐々に橙色の空が壊死していく、窓から見える世界。

   タイムリミット、さよなら、僕の神様。










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