おとぎ話の中なら、彼はきっと、王様なのでしょうね

『ひめ、わたしはあなたをいっしょう愛することをちかいます』
『おうじさま、わたしもあなたをいっしょう愛することをちかいます』

まぶたをとじて、ちゅう、愛があふれる



   僕、黒子テツヤは、男であるにも関わらず、夢見がちな子どもでした。幼い頃に読んだ絵本の中で、王子様とお姫様が幸せそうにくちづけをする姿。その素敵なシーンを目にした僕は、恋というものに、とても憧れを抱いたのです。

   僕もいつか、好きになった女の子とチューをするのかなぁ、とポワンと考えて、ほっぺに熱を灯しながら、その物語をパタリと閉じる。あぁ、僕はこれからいったい、どんな恋をするのだろう。星がきらめき、月がほほえむ夜の世界で、瞼をパタリと閉じる度に、憧れの1ページに想いを這わせて、トキメキ溢れる夢を見る日々。

   その夢が、すぐに壊されてしまうとも、知らずに。



「テツヤ、メイレイだ、ぼくに、キスしろ」

   赤い鋏を向けられて、放たれた命令は、いつもと色合いが違い過ぎて、僕をひどく動揺させた。

「えっ……せーくん、どうしてキ、……チューなんかしなきゃ、」
「だまれ、おまえにキョヒケンなんかない」

   せーくんは、ぼくのおさななじみ。なんでもすべてが完璧な神様みたいな男の子は、僕の自慢であり憧れ。平凡で影が薄い僕とまるで正反対なのに、どうして接点があったかというと、両親同士が仲が良くて、生まれたときから一緒だったから。アルバムを広げると、どの写真にも僕の隣には赤い髪をした彼がいる。仲良しだからいつも一緒なのかと、親友の青峰くんに聞かれたけれど、僕は無言で首を捻るしかなかった。だって、

「おまえは、ぼくの、ドレイだから、いうことをきかなければ、シケイだぞ」

ぼくは、せーくんの、トモダチじゃない。トモダチじゃなくて、ドレイなんです。

   唇をキュッと引き結んで、何も言えなくなる。かなしくてかなしくて、言葉が出ない。せーくんはジッと僕を穴があきそうな程見つめている。睨みつける赤と金の瞳は、僕のかなしみなんて、どうでも良いのだろう。大事なのは、

「……テツヤ、ぼくのいうことは?」
「……ぜったい、です」

命令を確実に遂行する事だった、今も昔も。



   ふるえるくちびるは、うすくて赤いくちびるへ、おっかなびっくり、むかっていく。

「テツヤ、はやく、して」
「せーくん、め、つむって」

   君の瞳にみつめられると、心臓バクバク、死んじゃいそう。

「しかたないな、コンカイだけだぞ」
「……すみません」

   パタリ、閉じられた、キレイな、まぶた。まるで、あの、彼のようだ。最愛の姫に愛を誓って、くちづけを交わした。あの絵本の、王子様のように、とっても美しい、せーくん。

   とくん、とくん、とくん、調律が速まる心臓。ここに、ふれたら、どんな気持ちになるのだろう?

   ふれて、みたい

   ちゅ、ふわっ、きゅん

   あっ、くるしい

   しんぞうが、はずかしくて、まっかになっているみたい



「……おい、どこに、キスしてるんだ」
「え、あ、ごめんなさい、きづいたら、まぶたに……」

   心のままに、僕のくちびるは、せーくんの無垢な瞼で、初めてのくすぐったい音を鳴らしていた。おかしくなった胸の奥を、不思議に思いながら、命令を完了して、ひとまずホッとする。だけれど、王様は、何故か、物凄く眉間にシワを寄せて不機嫌顔。その変化に、どうしよう、心に不安が募り始めた時、

「“憧憬”なんて、いらないよ」
「えっ、しょうけい?」
「ぼくが、ほしいのは、」
「せーく、」

ちゅうっ、

「これしかないんだよ、テツヤ」

   素直になれない王様は、もしかしたら、王子様?


くちびる、は、“愛情”











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