僕の好きな子は、純粋過ぎて、困る


   中庭のベンチで詰め将棋の本を読んでいると、僕が常に待ちかねている気配がする。隣を見やれば、やはり僕の求めていた透明な少年がチョコンと座っていた。いつもこんな風に自分の影の薄さを発揮し、神出鬼没で僕の隣へやってくるテツヤは、意外にも寂しがりやだ。バスケへの情熱や読書家な一面、バニラシェイクへのこだわりを抜かせば、一見何事にも無関心な人間に見え易い。人付き合いもそこまで好きな風には見えず、どこか一定の距離感をあけているように思えた。

   ただそれは、自分自身の存在を周囲の人間に気付いてもらえない事が起因していたのだと、テツヤと一緒にいる時間が増えるにつれて解り始める。人へ期待するのに疲れたらしい。自分の存在を気付いてもらえるという期待をしても、結局は期待ハズレに終わってしまうから。

   そんな傷だらけのテツヤは、僕だけに心を開いてくれている。どんなに空気に溶け込んだテツヤも、絶対に見逃がさない力がある僕は、“特別”だ。元々生まれ持ったこの瞳のおかげもあるのだろうが、それ以上に僕のテツヤに対する意識が誰よりも強いせいだろう。

   いつだって、心には愛しいお前しかいない。だからこそ、僕の瞳は必ず黒子テツヤを見つけ出してしまう。

「……赤司くんの隣、安心します」

   僕のキモチなんて知らない、かわいいかわいいテツヤ。知らないから、そんな言葉を呟きながら、僕の肩にしなだれかかって、甘えてくるんだろう?

「赤司くんだけは、僕を自然に……空気じゃなく、人間として受け入れてくれるから。僕も僕でいられる……ありがとうございます」

   ほら、そんなフニャリと気の抜けた、警戒線が完全に解けた、誰も知らない笑顔を、よりによって僕に見せてしまうなんて。無知という純粋さは、危険だよ、テツヤ。

「……そんな赤司くんと、友達になれて、僕は本当に良かったなぁって、最近つくづく思うんです……」

   隙だらけで、その隙につけ込みたくなるじゃないか。お前の云う友達は、心安らぐ友達という稀有な立ち位置を確立しながらも、そんなもので満足などしていない。その無防備な関係を利用して、お前の寂しい心の隙間を埋めようと目論んでいる、とても強欲な人間だ。友達のままでいい、なんて、思う訳が無い。

   初めて出逢った時から、性別など無関係にひとりの人間として、テツヤと愛し合いたいとしか考えていない人間なんだよ。だからね、テツヤ、

「やさしい赤司くんが、僕は大好きです……これからも、どうか友達としてよろしくお願いしますね」

   何も知らないで、僕の焦燥に塗れた恋情を煽らないでくれないか?

「いやだよ、」「え、」

   その残酷な唇を、ふさいでしまいたくなるよ。

   ちゅっ、と奏でたふたつのくちびる。

   あわよくば、この裏切りで、僕へ落ちてしまえばいい。

「友達のままなんて、まっぴらだよ、テツヤ」

   僕の“スキ”を“キス”で、思い知れ。










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テーマ「人外ファンタジー」
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