*【空模様】の高智なおさまへの相互記念作品:黒子君に気軽に触れる皆に嫉妬しつつも好きだと言えない赤司君と、あんまり好かれていないと思っている黒子君な両片思い赤黒ちゃん










きっと、ではなく、かならず

ぼくは、こわしてしまう

いちばん、たいせつなものを





   弁解する余地もなく、瞬時に生まれた恐怖と悲哀が、僕の喉を拘束する。

「赤司くんは、僕のこと、きっと、……いえ、おそらく、嫌いなんだと思います」

   不意に、聞いてしまった、想い人の言葉。ちがう、ちがう、ちがうのに、否定できない。寒気がする程の歯痒い感情が、全身を駆け巡って、雁字搦めにする。

   いつもいつも、心の奥に秘めたる想いとは、裏腹だった僕の指先。触れたい、けれど、触れられない。特別な感情を抱く、黒子テツヤに対してのみ、運動麻痺してしまう、赤司征十郎の身体。好きなくせに、どうして、その手を伸ばさないの?そう、問われたら、答えはひとつ。

   好き過ぎて、大切過ぎて、ただひたすら、怖かった。激しい恋心を潜ませたこの手で、硝子細工のようなテツヤを、粉々に壊してしまうのが怖かった、から。

   あの子を想えば想う程、心臓がギュウギュウ締め付けられる。そんな現象と比例して、抑止力がこもってしまう自分の手。ダメだ、触れちゃいけない、絶対に。ズキリ、僕の心に痛みを再現させ、安易な行動にブレーキをかけてくれる存在がある。黒子テツヤに恋い焦がれる僕の中心で、静かに暴れ出すのは、一生取れやしない心のささくれ。蘇る、大切な人の大切な宝物を大切に出来なかった、苦い記憶。

   三歳の頃、誤って壊してしまったのは、母様の宝物である美しい硝子細工の白鳥。それは、早くに亡くなられたお祖母様の、大事な形見だったらしい。初めて目にして、その美しさに感動した、幼く浅はかな僕は、

“触れたい”

力加減など知らず、心のままに手を伸ばして、ガシャン、飛び散った、透明な想い出。

   その鋭い破片は、未だ僕の胸に突き刺さったまま。忘れてはいけない、赤司征十郎の罪。母様が怒らず僕の身を案じてくれたからこそ、余計にこの罪の意識は拭い去れない。いつもと変わらない柔和な笑顔で許して下さった母様が、ひとり陰で泣いていた事を、僕は知っているから。あぁ、なんて、切ないんだ。その痛ましい姿を見た時、罪悪感と共に湧き上がったのは、とある恐怖感。いつか、もし、自分の大切なモノを、自分の手で壊してしまったら、と、想像して、涙が出た、ポロポロと。母様に対する自責の念と未来の宝物に対する恐怖、綯い交ぜになって、僕に襲いかかる。

   だから、大切なモノなんて、作りたく無かった。だけど、大切なモノは、わざわざ作るのではなく、自然に生まれてしまうのだと、思い知るのは十三歳の頃。

   黒子テツヤに、出逢って、恋に落ちて、絶望した。知らず知らずの内に、僕の心へ種が蒔かれて発芽して、気付いた時には成長を遂げていたのだ。枯れる事を知らない、不老不死の花へと。透明な硝子細工の花は、純粋に咲き誇る程に、傷を抱えた僕の心を苦しめる。これ以上鮮やかに咲き乱れる前に、いっそのこと、この美しき花を手折ろうか。

   しかし、末期の心臓は、自暴自棄な指先まで血液を送らず、役立たず。想いを殺す凶器は壊死してしまい、僕の自害は叶わず終い。

   そうして、延々と思い煩っている内に、僕は十年越しであの日の罰を受けていることに気付く。因果応報、自分の大切なモノを他人の手で穢される、怒りと哀しみの天罰が僕へ巡ってきている現実。沢山の手が、躊躇いなく、黒子テツヤに、触れていく。好き勝手に触れる黄色の手、たどたどしく触れる緑色の手、思い切りよく触れる青色の手、無邪気に触れる紫色の手、遠慮がちにやさしく触れる桃色の手。美しい硝子細工に、複数の指紋が、僕以外の人間の跡が、ぐちゃぐちゃについていく。

   嫌悪感は、僕の中だけで爆発した。やめろ、きたならしい、ゆるせない、ゆるさない、ぼくの、ぼくのたいせつなたからものに、やすやすと、ふれてくれるな。

   そう、心の中で激しく怒り狂う僕が、一体何者なのか、実際の所、自分自身で解っている。

“ただの嫉妬深い臆病な子ども”

   黒子テツヤはお前のものでは無いのに、何様だ、触れる勇気も無いくせに、触れている奴らを妬ましく思う、卑怯な人間にしかなれない、弱虫な乱暴者のお前は触れる資格すら無いのだから、潔く諦めて消えてしまえ。容赦の無い正論が、脳天へ振り下ろされて、ズキズキと痛み出す頭。全くその通りだ、僕にはテツヤに触れることも、ましてや、テツヤを好きでいることすらも、赦されない。僕が馬鹿みたいに脅えてテツヤを遠ざけている間、彼を想う僕以外の人間達は、素直な指先で温かい感情を表現していたというのに。僕は、テツヤから、逃げて、逆走して、ふたりの心を離すだけの、無意味な時を過ごしていたんだ。

   あぁ、なんて、むなしいの?

   絶望で真っ暗闇、全てが壊死する、そんな恋だった。





※※ここまでが、リクエスト内容です。以下は、私の勝手な考えでハッピーエンドのお話が繋がっております。もし、よろしければ、すれ違うふたりの行く末を見守り下さいませ










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