あの頃夢見ていた、ボクの世界とキミの世界は、同じだったのかな?
『…ねぇ、黒子は何色の世界が見たい…?』
『…え?……そう、ですね……やっぱり、キミ達のように、キラキラ輝く美しいカラフルな世界でしょうか…?』
『…そう、…カラフルね……黒子はやっぱり黒子だね……』
赤・黄・緑・青・紫、彼等と見た勝利の風景は僕の理想郷だったんだ
最後の戦いの終わりを告げる音が鳴った瞬間、僕は気付いてしまった
これまで『赤司くんに勝ちたい』と、思ったことはない
自分の弱さを十二分に知る僕は、彼の強さを十分に知っていた
死ぬ気で世界をひっくり返さない限り、僕に勝機は訪れないと
そう、知っていたはずだった、
「……テツヤ、お前の負けだよ……」
キミが誰よりも、勝ちにこだわることを
ウインターカップの決勝戦、僕は数々の戦いをくぐり抜けて、再びコート上で赤司君と出逢えた
二回目のさよならを言われたあの日、僕は遠退いてゆくキミを追いかける、僕の想いが届くまで諦めない、僕の世界に色を取り戻す、そう誓った
あれから、我武者羅にチームメイトと日々の練習へ明け暮れて、昔よりも強くなった仲間達を乗り越えて
やっとここまで、キミの視界に入る所まで、汗も涙も枯れそうになるまで、全力疾走してきたのに
「お前は、僕に勝てない……勝とうとする意志が無い……最初から、解っていたよ…この結果を」
僕はゴールを、見誤ったらしい
「僕の背中へ、お前の手が伸びてきても、僕を掴まえることは出来ないよ……正しいことを何も見極められないまま…一生ね」
そうして赤司君は僕を置いてけぼりにする。黄色・緑色・青色・紫色、あらゆる色の鮮やかさを生き返らせ取り戻してきたのに、どうしてこの赤色だけは僕の瞳に映らないの???どうして、どうして、どうし、
「……テツヤ、お前は…本当に欲張りな人間だね……」
汗と涙を垂れ流すだけの人形になった僕へ、この世の苦しみを噛みしめるように渡された置き手紙。それだけ残して去って行った、4の数字を背負った姿は、どこか壊れてしまいそう。そして、僕も粉々に壊れてしまいそう。僕に対する赤司君からの予想外な評価。彼曰く、僕はとんでもない欲張りだという。自分ですら自分のことがよくわからなかった。赤司君に言わせれば、僕が夢を見ることすら欲張りなのだろうか。赤司君の視界に入りたいと頑張ることすら欲張りなのだろうか。赤司君の記憶から僕が消えて欲しくないと願うことすら欲張りなのだろうか。僕の想いを赤司君に知ってもらおうとすることすら欲張りなのだろうか。僕には、彼が言わんとしていることが、全くわからない、わかりたくもない。わかろうとしたら、答えは最底辺の地獄へ行き着く。つまり、黒子テツヤはこの世界で息をしているだけで充分だと見下されているのでしょうか??そうすると、僕はただ生きているだけで幸せなのかもしれない。才能が皆無のくせに、ひとりでは何の役にも立たないくせに、みんなのおかげで大好きなバスケをしているから、もっともっと幸せなのかもしれない。愛した人が愛してくれたやさしい想い出があるからとてもとても幸せなのかもしれない。僕のくせに、なんて幸せ。これ以上、何を望むというのか。この、幸せ者、が。彼は、勝者は、赤司征十郎は、僕を見捨てる。そうして、僕は、敗者は、黒子テツヤは、彼を諦める。
冬は、二人の間で、篭ったまま
春は、二人の間に、訪れず
四季の感覚すら崩壊
吹雪の中で、凍える僕はもう、歩けない
目の前に佇む、氷の海へ身を投げて
今度こそ、さようなら
寂
れ
た
世
界
に
キ
ミ
は
い
な
い
わかっていない
あの子は全然わかっていない
僕の愛を、わかってくれない
“赤司征十郎は、黒子テツヤの色さえあれば、それだけで死ぬ程幸せだった”
お前さえいれば、世界の隅々まで空色一色、あぁなんて美しい
僕だけを求めれば、僕だけのそばにいてくれれば、僕の色だけの世界を望めば、
「……気の多い欲張りな裏切り者……、一度失くした僕だけを取り戻そうともしない、死ぬ気で僕に勝つ気もない、生半可な想いしか向けてこない、そんな間違いだらけのお前を僕はまだ心から愛せない……真実の愛に辿り着くまで、せいぜい後悔の海に溺れて死ぬ程苦しむんだ……そして、正しい答えをその手に掴んだ時は……約束通り、僕だけを一心に愛せ……僕の、愛した、僕の、テツヤ」
ふたりは、あの頃のように、幸せだったのに
(おわりはおわらない、はじまりもはじまらない、かわらないかわらない、ふこうなふたり)