タラッ、肌から滴った液体は、一体何色???


「黒子っ!大丈夫か?!」


誠凛高校にて他校との練習試合、そんな中で頭に雑念が降り注いだのが、悪かった。敵チームにベッタリとマークされた際、ある人物へパスをした。僕の目の中に入ったのは、彼の髪の色。ズキリ、トラウマを負った心臓が疼いて、望まずとも過去の映像が流れ込む。強敵との激しい攻防の最中、僕の決死のパスを受け取り、やんわり穏やかに微笑んでシュートを打った彼は誰か。彼は一体どんな人間だったのか。昔の彼は僕をどのように思っていたのか。今の彼は僕を、激流のように僕を飲み込む疑問の数々。一気にとある人物の幻影に占拠されて、僕の頭は思考停止。フリーズした身体へ勢いよくぶつかる、対戦相手の身体。目の前の戦いから意識の逸れた僕に、踏ん張る力なんてありやしなかった。体育館の床へ倒れこみそうになる。反射的に身体を庇おうとした右腕、擦り切れて摩擦熱が熱い。所々血が滲んで、特に衝撃が強かった部分からはトロトロと血が流れていた。ポタポタ、床に垂れ落ちる点々を見て、僕は泣きたくなった。あぁ、また、この液体の正体を経験則でしか確認出来ない、と。僕の麻痺した頭は自身の状態についてすら正常に把握出来ず、過去との境目に立ちすくんで、ボンヤリとしていたけれど、


「何ボーッとしてんだ、黒子!保健室行くぞっ!!」


しっかりと現実へ引き戻す人間がいる。グイッ、左腕を引っ張りあげて、有無を言わせず僕を体育館から連れ出したのは、僕の新しい相棒・火神大我君だった。応急処置なら、体育館でも出来るのに。呆気に取られている監督や先輩たち、他校の生徒を置いて、僕らは保健室へ向かった。



「まぁ…こんなもんで、いいだろ。不恰好なのは、大目に見てくれよな。」

「…はい、ありがとうございます。火神君。」


結局保健室の先生は不在で、火神君が慣れない手つきで一生懸命手当てをしてくれた。不器用ながらも僕の怪我を心配してくれる彼は本当に優しい人だと思う。この高校を選んで彼に出会えて良かった。そう、良かったんだ、これで。未練がましい後悔なんて、しちゃダメなんだ。


「…おい、大丈夫か…痛いのか?…身体、震えてんぞ……黒子、」

「えっ、…あ、はい…もう、大丈夫ですよ……火神君の、おかげで…、」


下を向いていた僕は声をかけられて、パッと顔を上げた。かち合う視線、視界に入る彼は、おそらく、みんなの話を加味してもあの色をしている。微かに解るけれどハッキリとは解らない。系統の異なる色味の違いが、どうにか確信を与えてくれる。そう予想する度、胸の中に渦巻く切ない痛み。


「…なぁ、黒子…どうして時々お前は…俺を見る度、泣きそうなカオをするんだ?」


火神君は、鈍くて鋭い。何にも知らないくせに、何でも気が付いてしまう。僕が高校で出会った火神君は、青峰君と決別した僕にとって、願ってもない頼りになるバスケのパートナーになった。だけど僕は彼と共に学校生活を過ごしていて、ふとした時にどうしても涙腺が弱くなってしまう。不思議そうに問いかける火神君の言葉、僕の胸に突き刺さって流れるはずのない赤い血液を感じる。

ドクドクドク、ドロリ

そう、赤だ。赤がいけないんだ。火神君の炎が燃えたぎるような赤とは違う。だけど、赤は赤なんだ。きっと、あの赤なんだ。その痛ましい色。僕を苦しめるこの色は、


「…ぼく、“赤”が嫌いなんです。とても愛していた“赤”の人を思い出してしまうから…この瞳が、認識したくないみたいなんです…。」


神様の血のように、神聖なあの人の“赤”


「だから、とても見え辛くなってしまいました………僕の心を殺すあの“赤”を…もう今の僕は、上手く感知出来ないのです。」


白黒化したこの世界で、一番に消えてしまった色、それは僕の心を奪ったままの神様の子ども、彼を示す鮮血の“赤”なんだ






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