僕の世界が翳りだしたのは、きっとあの瞬間から
『いっそ、消えてくれないか』
ジリジリジリ、追い詰められた震える足に、鮮やかな血液は巡らない
断崖絶壁、生きるか死ぬか、極限の状況にもう耐えきれなかった
キセキたちの進化の過程、まるで光の矢のようにあっという間、輝きを増しながら未来へ向かっている
僕だけ、日陰に、おいてけぼり
痛々しく目に染みるほどの眩さを放っていく、かつての優しい淡い光たち
それに相反して、僕の影は力強く色濃くなるどころか、黒色が力なく霞んでいったのだ
ただただ、薄暗く錆びくさい存在へ、退化の一途
嫉妬心・疎外感・絶望視、あらゆるものが、僕を汚らしく酸化させる
既に使い物にならない、廃れたシックスマン
そんな僕にも、命綱のよう、微かな希望があったのに
その昔、ただの苔の生えた石ころだった僕を、ダイヤの原石だと見出してくれたのは、神様のこどもだった
赤色の少年は、僕と正反対の、神のご加護を一身に受けた非の打ち所のない人間
何の気なしに人々から足蹴にされる日々を送っていた無力な僕を、美しい手でそっと拾い上げてくれたのは赤司君だ
彼は優しい、僕にとっても優しい、最愛の恋人
今も昔も、なんの見返りもなく、僕の隣にいてくれる
穏やかに微笑み、やんわりと手を握ってくれている
だけど、ただひとつ、ガラリと変わったこと
コートにひとたび立てば、その手の結び目は、スルリと解かれてしまうのだ
バスケットボールのフィールドで、僕は彼の、そばに、隣に、いる資格がない
その辛辣な哀しい現実をぶつけられる、心臓に叩きつけられる、容赦なしに僕をひとりぼっちにする
ひ弱でちっぽけな影を必要としない、色とりどりの光が自己の輝きだけで勝ち進んでいく世界は、僕にとっては生き地獄そのもので
諦めざるをえなかった、自分を諦めることは、彼の隣を諦めることは、瀕死の心を救う唯一の最終手段だった
僕が大好きだった、影と共鳴し合うカラフルな世界
それはもうどこにもなく、全てが寂寥感に包まれていた
ある日、残酷な現実に憔悴し切った僕は、目の前に佇む赤い少年へ、ゆらりと伸ばした手から最期を告げる白い手紙を渡す
感情を虐げられた、自分だけが傷付いたと思い込んでいた僕は、彼の一辺倒な無表情から真意を読み取る余裕なんて、全く残っておらず
一刻も早く、この崖から飛び降りて、暗い海に沈んで、楽になりたかったんだ
ジイッ…と、僕の虚ろな瞳を真っ直ぐ見つめる、今はもう遠い彼方の人は、部室の窓を背にした逆光の中、とても神々しく見えた
やっぱり、キミは、僕とは違う人間なんですね
そう、全てを割り切り、格差を悟った僕は、力なく自分を嘲るように笑った
すると、一瞬、赤い神様は、瞳を見開いて、ビクともしなかった表情が揺らぐ
どんなカオをしていたか、輝かしい光に目の眩んだ僕には、解らなかったのだけれど
そうして、彼は、ひとこと、
「さよなら、黒子、愛して、たよ」
ぽとん、
黒子テツヤは、モノクロームの寂しげな世界へ、真っ逆さまに、落っこちた