手を繋ぎたい。

 そう、不意に思った時、するりと伸びてきたのは僕より少し大きく美しい手。

 弱くもなく強くもなく、自然な力で結ばれる、ふたりの指先。

 生まれた時から、あたかもふたりは繋がっていたかのように。ジワジワと絡まりだす、ほのかに甘い微熱の情。

 フワフワ、浮遊。クラクラ、眩暈。揺れて回って混じり合って。さながら、夢の最中か。

 願っていた非現実の事象。今まさに人生の確変が起きている。

本当に、これは、ボクの現実なのだろうか?

「……ねぇ、テツヤ……今、僕が考えている事が……わかるかい?」
「……え、……っ、と……わ、……わかりません……すみません……」
「そう……残念だな……僕は、テツヤの考えている事、分かったのになぁ……相手に向ける愛情の大きさの違いかもね」
「そんなことっ!……ないです……絶対、ボクの方が……赤司君を……、」


 いつかは醒める夢ならば、この内に秘め続けた想いを伝えても、キミは構わないだろうか?


「待って、テツヤ……口で言わなくても、いいんだよ……ほら、感じて?」
「……感じる?」
「……そう、僕の指先から、溢れ出ているだろう?」


 馬鹿な夢を見たくはなくて、未だ信じられずにいた、希望のひとかけら。

 ボクはキミを想い過ぎているからこそ、一人歩きする不安と恐怖に襲われ、真意を読み取ることすら拒絶していた。

 だけど、ボクはもう逃げてはいけない。

 どんな結末だろうと、醒めない現実から目を背けてはいけない。

 スゥッと透明な空気を吸って、感覚を研ぎ澄まして、知り得ていく。赤司君の中に流れている、赤司君の気持ち。

 僕の指先へ伝達してくる、赤色の脈動と呼吸。

 生きている、生きている。

 確かにこの世界で、脈を打ち、息をしている、ひとりの想いがそこに在った。

 信じてもいいのでしょうか?この夢心地の感覚を。


「……赤司君……これ、夢じゃないですよね……?」
「痛覚を刺激してあげようか?……その白い首へ思い切りかぶりついて」
「……痛いのは、御免蒙ります」


 夢か現か、わけがわからなくて、足元が覚束ない。そんな僕を支えるよう、ギュッ、心地良く強められた、ふたりの結び目。やけに涙腺を刺激してくる温かさに、僕は嬉し涙をひとつこぼしました。



 循環して流れ込む
 “す”と“き”の赤い二文字




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