目を瞑った僕は、何も知らない





コンコン、

「…?はい、」

ガチャ、

「テツヤ兄さん、」


その日の夜、日付が変わりそうな時間帯に、枕を手にした征くんが僕の部屋を訪れました


「征くん、どうしたんですか?もう眠らないと明日に響きますよ」

「…兄さんと…一緒に、眠りたくて……ダメ…ですか?」


あの惨劇を起こした凶悪犯とは思えない、儚げな表情で控えめなお願いをする僕の弟


「………そんな顔で、そんなお願いをして……僕が断ると思っているんですか?…全く君は……ほら、早く寝ましょう」


残忍な面を持ち合わせながらも、やはり僕にとっては目に入れても痛くない程可愛い弟

快諾すれば、たちまち彼の表情は、あどけない笑顔へ変わる


「ありがとう…兄さん…久しぶりだから、嬉しい」


普段、みんなから凶悪鬼畜魔王と畏れられているとは思えない程の、無邪気な素顔

おそらく、僕だけしか知らないだろう


「おやすみ、征くん」

「おやすみなさい、兄さん」


電気を消して、一緒の布団に入り、挨拶を交わして、瞼を閉じる

昔はよくこうして眠ったものだと、懐かしい気持ちにさせられた

布団ごしに伝わってくる、征くんの体温が心地良くて、だんだんうつらうつらしてくると、


ギュウウウゥゥッ……


「……征くん…?」

「………………、」


急に、強く強く、僕を抱き締めてきた、とても、強く


「どうしたんですか?……何か、ありましたか?」

「…………、………」


まるで、小さな子どもが、大好きなぬいぐるみを、誰にも盗られまいと、必死に抱き締めているかのよう

もしかして、


「……黄瀬くんですか?僕は別に何とも思っていませんよ。しいて言えば、学習能力皆無の馬鹿犬としか…、」

「…………だって、アイツ、いつも、僕のテツヤ兄さんに、ベタベタ抱き付きまくって……兄さんが穢れる」

「……大丈夫ですよ、今日は念入りに体を洗いましたから、犬の臭いはとれたと思います」

「……そんなのじゃ……ダメだよ……」

ギュウッ、

「……征くん、ちょっと…くるし……」

「僕が、一晩かけて、兄さんを消毒するから……兄さんは僕のものだって、あの犬がわかるように、ね……ずっとずっと、抱き締めるよ…」

「…………征くん、」

「……誰にも触れて欲しくない……僕だけの兄さんなんだから……僕だけが、触れていいんだ……誰にも、渡さない……お願いだから、僕から、離れないでね…?…死にそうに、なるから」


時々、不安になること

僕は征くんを“弟”として、とても愛している


「…僕は、征くんから離れたりしませんよ……征くんが大好きですから」


だけど、征くんは僕を“兄”として愛してくれているのだろうか、と


「…ありがとう…兄さん……大好き」


暗闇でも分かる、あの頃のような天使の笑顔

それを見て、僕は自分を安心させる

僕のおかしな邪推なんて、征くんに対して失礼極まりないだろう

大丈夫だ、征くんと、僕は、愛情深いだけの“兄弟”だ

あぁもう、無意味な意識なんて、手放そう






すぅ……すぅ………、



「…兄さん……テツヤ兄さん………、





テツヤ、あいしてる」





いとしすぎて、あたまがおかしくなる

愛しているよ、僕の優しい兄さん

世界中で一番誰よりも何よりも

“黒子テツヤ”をあいしてる






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