傷だらけの心が、咽び泣いているのは、誰?
「テツヤ兄さん、何も気にする事は無いよ。周りが何を口走ろうと何を勘違いしようと何を疑おうと、真実は僕達の中でしか生まれないのだから。大丈夫、そんな顔しないで。何があってもテツヤ兄さんだけは、僕がこの手で守るから…ね?」
ニコリ、笑う征くんが、あまりにもキレイ過ぎて、逆に違和感をおぼえてしまう
彼の作る完璧な自然体を追及する事が出来ないのは、僕があまりにも薄情で臆病だから
彼の人形のよりも整った顔がそういう表情を作る時は、心に防御壁をはっているように感じていたから
弟からの疎外感に切なくなれども、あえて触れない選択肢を僕は手にとる
むやみに触れてしまったが最後、何かが壊れてしまうと、直感で恐れているんだ
仲の良い“兄弟”で平穏に暮らしたい、それが僕の昔から変わらない願いだった
僕達“兄弟”の異質さを指摘してきた黄瀬くんは、あれ以上何も言わなかった
複雑な表情を痛々しく滲ませながら、乱雑に着替えて部室を出て行ってしまう
待って、という制止の言葉が、危うく出そうになった僕の口は、まだ動けない
潔白な“愛”で僕を”兄”として大切に想ってくれている征くんを、少しでも疑ってしまった自分の浅はかさを嘆いて恥じて
“弟”に対する後ろめたさは、僕を赦さず雁字搦め
絡まった蔦の鋭い棘が食い込みながら、ギリギリと心を苦しめる
だけど、ハッキリと“兄弟”宣言をしてくれた征くんがいなければ、真実は違えど僕は黄瀬くんに論破されてしまっていたでしょう
心の中に芽生え始めていた“弟”に対するちっちゃな疑いの芽が、僕から毅然と立ち向かう力を吸い取って心を弱くさせてしまった
“兄弟”なのに、“兄弟”だと胸をはれないなんて、“弟”を守るべき“兄”として失格ですね
そうして自分の過失を責めながら着替えを再開して、僕はバッシュの靴紐をキュッと力強く結んだ
もう迷わない、もう疑わない
心に誓うように、キツくキツく
「テツヤ兄さん、行こうか」
フワリと微笑んで、僕に手を差し出す“弟”は、とても“兄”想いの優しい子
そう、ただそれだけだ
繋がれた指先が、ほのかに熱いのなんて、気のせいだ