明けても暮れても変わらないもの







帝光高校の近くにある、必勝祈願や恋愛成就で有名な神社

夜中0:30過ぎた現在、そこには新年を祝う、老若男女・沢山の人々で賑わっている

その出入り口に立っているのは一際目立つ、おなじみのカラフルな少年少女

人目を惹く端整な容姿もさることながら、各々の存在を主張する様々な色の頭

黄色・桃色・緑色・青色…、……おや?いつもより色が足りないようだ


「えっ、黒子っちと赤司っち、あの2人まだ来てないんスか!?…紫っちは、通常運転っスね……俺は今日黒子っちに会いた過ぎて頑張ったっス!」


たった今、カラフル集団に合流したばかりの黄色の少年・黄瀬涼太は、白い息をしきりに吐きながら残念そうに眉を下げたが、珍しく時間内に集合した事を誇らしげにしている


「…そうなの…珍しいよね、ふたりともきーちゃんやむっくんと違って、いつも必ず集合時間10分前には来ていて遅刻なんてしないのに…何かあったのかしら?」


白魚のような美しい手を摩っている桃色の少女・桃井さつきは、未だ姿を見せない仲間が近くにいないか、心配そうに辺りをキョロキョロ見回している


「そうなのだよ。遅刻魔黄紫コンビと違い、あの時間厳守赤黒コンビが待ち合わせに遅れるなんて、何かあったに違いないのだよ……あぁ…黒子、大丈夫だろうか…、まさか事故にっ…!!神よっ、黒子を護って下さいませなのだよ〜!!」


冬の冷たい空気により眼鏡が曇り気味な緑色の少年・緑間真太郎は、密かな想い人である空色の少年の身を案じて、今日のラッキーアイテムである染み抜きを手にしながら神に祈り始めたようだ


「おい、赤司は大丈夫なのかよ、まぁ、アイツは最凶魔王だから事故っても不死身か。ったく、アイツらがまだ来てねーなら、もーちっと遅く家を出ても平気だったじゃねーか、さつきのアホ」


緑間の発言にすかさずツッコミを入れたガングロの…ゲフンゲフン、青色の少年・青峰大輝は、恐ろしい生命力を持つ赤色の少年を思い浮かべ安堵する

そうして自分を無理矢理時間内に連れて来たしっかり者の幼馴染み・桃井に身勝手な文句を言えば…、


「アホの子は大ちゃんでしょ!!年越しにマイちゃんのちょっとエッチなDVD見てるなんてエロ峰くらいよ!私が引っ張って来なかったら、絶対集合時間に間に合わなかったくせに!そんな事いうなら、赤司くんに新年早々遅刻の懲罰を受ければ良かったんだわっ!」

「なんだと!?お節介ババアのくせに生意気だっ!!」

「ババアですって?!私がババアなら大ちゃんなんてエロジジイよっ!!」

「あぁっ?!」
「はぁっ?!」


喧々囂々、今にも掴みかからんとする勢いの口喧嘩が始まってしまった

一触即発、険悪なムードを察した意外に空気を読む黄瀬は、冷汗をかきながら、


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと、ふたりともっ!!落ち着い、」


仲裁する為、青峰と桃井の間に割って入ろうと、バッ、飛び出した時、


「勝負だ!さつき!」
「勝負よ!大ちゃん!」


どビシッ!!「グワッ!!」
どバキッ!!「グフっ!!」


ナイスバッドタイミング、青峰の脳天チョップと桃井の左頬グーパンチがクリティカルヒットしてしまった


「ギャアアアア…!!アタマがっ!ホッペがっ!こわれたっスー!!!」


普段から(主に赤色魔王の暴虐により)生傷の絶えない黄瀬だが、元来の駄犬体質が起因し、こういった喧嘩に巻き込まれトバッチリを受けてしまう事もしばしば


「黄瀬!」
「きーちゃん!」

「邪魔すんな!!」
「邪魔しないで!!」

「哀れな駄犬よ…飛んで火に入る冬の犬…腐れ縁のしょうもない争いに割って入ったが運の尽き…今年初のボコられ損なのだよ…」

「うっ…うっ…うっ…新年早々、理不尽っス……」


身を呈して喧嘩を止めようとしたのにこの始末

黄瀬涼太は今年も駄犬サンドバッグのお役御免には至らないようだ

と、そんな所へノロノロマイペースでやって来たのは、


「みんな〜おまたへ〜」


この場にいる沢山の人間の誰よりも大きな、紫色の少年・紫原敦だった


「あっ、むっくん!もうっ、遅いよ!!」

「ごめんごめ〜ん、家族や親戚と年越しそば大食い選手権やってたら遅くなっちゃった〜今年こそ歴代チャンピオンの親父に勝とうと胃袋の準備に抜かりは無かったのに、僅差で負けちゃったよぉ〜……その後、腹いせにまいう棒を一心不乱にやけ食いしてたんだぁ〜遅れてごめんねぇ…(むしゃむしゃむしゃ)」

「紫原の父ちゃん、スゲーな、ブラックホール腹に勝つなんてよ、尊敬するぜ…」

「…あぁ…恐怖の戦慄で、メガネが震え始めたのだよ…(ガタガタガタ)」


こちらも相変わらず、皆の度肝を抜く程、食欲という本能が人一倍強く、新年早々摂食行動が活発なようだ

それにしても、大量の蕎麦を食べたにも関わらず、大好物のまいう棒を食べる手が休まらない彼の胃袋は底が知れない、まさにブラックホール

そんな異次元の胃袋を持つ紫原は、お菓子に限らず、食に対する執着が凄まじい

そう、食べ物の恨みは恐ろしいとはいうが…、


「スッゲー悔しい、あ〜思い出したらまた腹立ってきた〜……新年早々なんか捻り潰したい。あ、黄瀬ちん、無駄にキラキラして異様にイライラするその頭、破壊しちゃってい〜い?」

「へ、」

ガッ、ギリギリギリギリ…

「ギャアアアアアアアアア!!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬっ…!!!」


これまた理不尽にも、食の戦いで負けた腹いせを、丁度目の前にあった駄犬サンドバッグにぶつけてしまうとは

その巨大な身体に比例した巨大な手で黄瀬の頭を鷲掴み、林檎を握力で潰す要領でそれを握り潰そうとしている


「あ、むっくん、赤司くんとテツくんがまだ来ていなくて…連絡しても繋がらないんだけど、何か知らない?」

「お前はてっきり、赤司が引っ張って連れて来るものだと思っていたのだが…」

「あ〜こんな事ならテツん家に遊びに行ってりゃ良かったぜ。テツに会えねーんなら、つまんねーもん」

「え〜〜…そうなのぉ〜??赤ちんも黒ちんもまだなんだぁ〜さみしいよ〜はやく会いたいよ〜…」

ギリギリギリギリギリギリギリ…、

「イヤアアアアアッ…!!!脳みそ爆発するううううううっ…!!!何で誰も俺の事を助けてくれないんスかああああああっっ…!?!?」


日常は、誰も気に留めない

黄瀬サンドバッグは彼らにとって、日常なのだ

凶悪な痛みに悲鳴をあげながら四肢を苦しそうにバタつかせて助けを求めたって、これはさして取り留めの無い日常の風景に過ぎないのである


「きーちゃん、」
「黄瀬、」
「バカ黄瀬、」
「黄瀬ちん」

「「「「うるさい」」」」

「……うっ、うっ、ひっく、ひっく……年が変わっても俺に対するみんなのゴミ屑扱いは変わらないっス…なんて無情な神様……こんな可哀想な俺をどうか抱き締めて…く、く、黒子っちいいいいいいっ〜!!!!!」


夜空に吸い込まれてゆく、生傷だらけの駄犬の遠吠え、これが愛する飼い主に届けば、


「新年早々、やかましいバカ犬ですね、黄瀬くん」

「え、」


幸薄な黄色い少年も、少しは報われるだろうに


「皆さん、新年明けましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願い致します。待ち合わせ時間に遅れてしまって、本当に申し訳ありませんでした」

「キャアアアアアアッッ!!黒子っちぃぃいぃぃいぃっ!!!」
「テツくん!!」
「黒子ッ!!」
「テツ!」
「黒ち〜ん」


待ち焦がれていた空色の少年・黒子テツヤの思い掛けない登場に、カラフル達は一斉に驚喜する

特に、飼い主のいたわりを求めていた黄色い犬に関しては、嬉し過ぎて凄まじい速さで振る尻尾が見えるかのよう

そう、思わず、


「黒子っち…この世の理不尽な仕打ちを受けた可哀想な俺を抱き締めに駆け付けてくれたんスねっ…!!」


バッ、腕を広げて嬉し泣きをしながら、黒子へ抱きつこうとしたばっかりに、


「勘違いするな、バカ犬が」


ドカッ!腹部に飼い主の拒絶イグナイト発動


「ゲボォ…!!!…く、黒子っちぃいぃ……冷たいっス〜〜!!」


ゴロンゴロン、地面に転がって、尋常では無い衝撃波と痛みに苦悶する黄瀬

だが、某赤色の少年は、普段この数十倍の強さの必殺・イグナイトをラブアタックの数ほど受けて返り討ちにされている

普通の人間ならば天に召されてもおかしくない受傷歴なのだが…ピンピン生き生きしているあの少年は青峰の言う通り全くもって不死身であるといえる


「テツ〜!お前おっせーんだよ、この俺を待たせやがって」

「すみません、だけど青峰くんはいつも僕を待たせてばっかりですから、これ位待つのは至極当然ですよ」


ガバリ、大きな身体で、スッポリ、小さな身体を、包み込んでしまう青峰に対しては特に抵抗をしない黒子

バスケではピッタリ気が合うが、普段は悪態をついたり、赤色の少年の問題で口論したり、私生活における言動では意見が食い違っている相棒

しかしながら、お互いに心を許し合える親友なのだろう、やわらかな2人の表情からそれが読み取れる

そんな関係を羨ましそうに見つめるのは、抱き着くのを許してもらえなかった、涙目の黄色い犬

(自称)飼い犬の自分を邪険に扱ったのに、桃井が飼う黒い大型犬の抱擁はやんわりと受け止めるなんて、ズルいズル過ぎる

と、言わんばかりの瞳で見つめながら、耳をクタリと下げて寂しげにクゥ〜ンと鳴いているようだ



それにしても、まだキセキメンバーが揃わない

あと1人、あの赤色の少年が来てくれれば、やっと全員揃って参拝が出来るのだが…


「あ…ねぇ、テツくん…あのね、まだ赤司く、」


桃井が一向に姿を見せない人物について、黒子に問おうとした時、


ヌチャリ、


「…あ?!な、なんじゃこりゃああああ…!!!」


黒子を抱き締めていた青峰が、触れていた手に感じた異変に気付き、恐怖の雄叫びを挙げながら飛び退いて離れ、


「ちょっ、大ちゃん、うるさ…キャアアアアア!!!」


自分の言葉を遮った幼馴染みを諌めようとした桃井も、青峰の手にベタつくある色を目にし、甲高い悲鳴を響かせれば、


「ぬわあああっ!?…どどどどど、どうしたのだよ……はっ!?…く、黒子っ!?!?その、ダッフルコート…、」


幼馴染みコンビのムンクの叫びに驚いた緑間は、白く曇っていた眼鏡を拭いて黒子を見やれば…、


「あれ〜…よく見たら、黒ちんのコート…赤黒いね〜どこで染めたの〜?」


黒子が着ている黒いダッフルコートに染み付いているのは赤色の液体

二色が混ざり合って、ジンワリ赤黒くなっているではないか


「…く、く、く、くろこっち……そ…の…さびくさい……赤、…どうしたの……?」


鼻のきく黄色い犬が感知した鉄錆の臭いがする赤色の正体は…


「…あぁ、…これですか。先程…足止めを食らって、どうにか振り切って、すごく急いで走って来たので、落とし忘れちゃっていましたね……実は、これが、初詣の待ち合わせに遅れた理由なんです……、」


スプラッタの空気感を漂わせながらも、いつもと変わらず淡々と答える黒子が、やけに怖い

ゴクリ、皆の息をのむ音が聴こえ、一拍置いて、黒子は口を開いた


「…ちょっと、初フルボッコ……を、赤司くんに、してきました」


黒子テツヤに染みついたそれは、赤司征十郎の身体に流れる、赤色


「あの暴走変態野郎……年越しに乗っかって、一線越えをしようと僕に乗っかってきて…鼻息荒々しく執拗にネットリ絡みまくってきたので…、」


新年早々相変わらず、黒子テツヤへ猛烈な熱愛合体アプローチを仕掛けた、


「…生命線を……断ち切ってやりました……ブッツリ、と」


赤司征十郎の自業自得の末路を物語っていたのだった…



ゾクゾクゾク…!!!

寒い元日の真夜中、生臭い血みどろの実話に身も心も凍りつきそうだ


「…だって、…実は…僕、この初詣をすごく楽しみにしていたんですよ……大切な仲間と…大事な友人と…一緒に行きたくて…、」


だがしかし、一方的な死闘を演じたと思われる彼の、


「……黒子っち、」
「……テツくん、」
「……黒子、」
「……テツ、」
「……黒ちん、」


「なのに、あのバカがふざけた邪魔をするからこんなに遅れてしまいました……あの赤恥破廉恥キャプテンはこの初詣には来られそうにないので……そろそろ、お参りに行きましょうか……僕の…大切で大事な皆さん」


ニッコリ、晴れ晴れとした素敵な笑顔に、


ズキュン!!!


(……かっこかわいい……)


カラフルっ子達は、満面の笑みを浮かべる影の子に、新年早々ハートの矢で心臓を射抜かれるのだった


明けても暮れてもいつだって、空色の君は、沢山の人に愛されてしまう運命なのだろう











不変の愛しさ









*おまけ1:不憫メガネのささやかな幸福


「それにしても、このコートに染み付く如何わしい赤色が不快ですね……こんな時、染み抜きがあれば助かるのですが…、」

「…ハッ!……くくくくく、黒子っ!!!染み抜きならこの俺が持っているのだよっ!!!」

「わっ、ありがとうございます、緑間くん。流石ですね(ニコッ)」

「ふ、ふんっ!…こ、これ位…紳士の嗜みとして、…と、当然なのだよっ…!!(恋愛の神様よっ、我に幸せをありがとうっ!!!」

「(…紳士というより……お母さんみたいですけどね)」



*おまけ2:黒子っちのねがいごと


「ねぇねぇ、随分熱心に手を合わせていたみたいだけど、黒子っちは一体何をお願いしたんスか?」

「え…そうですね…帝光バスケ部の百戦百勝の必勝祈願と………あの赤色変態大魔王の完全正常化並びに清浄化ですかね……フフフ…」

「……そ、ソウデスカ…(ガクガクブルブル)」



*おまけ3:赤司征十郎の安否について


黒子の手によって赤司は超絶フルボッコにされたらしい

常日頃、彼等の恋愛バトルを楽しみにしている私だが、今日は神社に居なければならない日だった為、新年早々面白そうな勝負を見逃してしまった

まぁ一応、助手に黒子の部屋へ隠しカメラを取り付けておいて貰ったから、今日のお務めが終わった後その一部始終をジックリ愉しもうではないか

それにしても、ここに来る人間は恋愛成就の願いをする者が本当に多い

そんなに色恋沙汰を神頼みされても、全て叶えられる訳では無いのに

相応の努力を十二分に重ねた上で、最終手段としての活用をして欲しいものだ

恋愛成就を頼まれた場合、その人にとって良縁の見通しがあるのならば、気持ちばかりの力を与えてやっている

普段この世界には平平凡凡過ぎる恋愛模様が溢れており、正直つまらない

そういった中で、赤司征十郎と黒子テツヤの恋愛攻防は非常に刺激的で味わい深い、見るのを止められない止まらない

結ばれるか、千切れるか、この縁は未だ先行きが不透明だ

赤司の攻めが、功を奏すか、身を滅ぼすか

その運命は神すらも知らず、黒子の心の受け取り方次第なのかもしれない

黒子の願いは…赤色変態大魔王の完全正常化並びに清浄化…と、黄瀬には言っていたけれど、


“もし、赤司くんが年越し夜這いなどしない真っ当な人間に更生する余地があるのならば……、”


それだけでは終わらない、密やかな想いが、私には届いた


“ただの赤司征十郎と、真っ当な恋をしてみたい、です”


あぁ、なんて、可愛らしい願い事なんだろう



う〜む、やはり、この2人からは目が離せないな

どうしても、赤司の安否が気になる気になる気になる…、

うむ、ちょっとだけ神事をサボって、赤司の元へ行ってみよう




そうして、神社を抜け出して黒子の部屋を訪れた、私の目に映ったのは…、



“テツヤ、あいしてる”



非業の死を遂げかけている赤色の少年の、血文字の大告白だった



ふむ、先行き不安だが、これからもこの2人を、影ながら見守ってゆくとするか

このエキサイティングな恋の勝負に、決着がつくまで



語りべ:とある恋愛の神様







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