恋の∞番勝負・其の三のキーワードとなった【愛の巣】事件について緑間視点のおまけ話




何が敗因かと言えば、俺がツンデレで奴がバカデレか、という違いなのだよ





人事を尽くして天命を待つ、それが緑間真太郎の信条だ

バスケに誠心誠意励み、スリーポイントシュートという己の武器を磨き上げる

その地道な鍛錬の繰り返しが、自分を勝利の栄光へと必ず導くであろう

そんな努力を欠かさない自分に、あらゆる事象の命運を握る神様から、ずっと待ち望んでいたご褒美が降り注いだ


「緑間くん、お隣いいですか?」


俺が密やかに淡い恋心を抱く、黒子テツヤの隣をゲットしたのだよっ…!!


部活の休憩中、大抵黒子は我等がキャプテン…いや、ただの恐怖と暴虐の象徴である魔王・赤司征十郎から徹底的に囲われている為、部員の誰もが簡単には近付けない

その中でも俺を含めたキセキの面々は比較的接触し易いが、黒子を寵愛している赤司がそれを容認する訳が無く…

加えて常時周囲に対し邪悪なオーラとハサミを刻む音で威圧するのだから、余程の勇者かただの阿呆でない限り、赤司の独占欲に立ち向かう事など出来ない

黄瀬は、学習能力皆無な駄犬で黒子への熱愛スキンシップが異常に激しい為か、躾という残忍な制裁を容赦なく喰らう

紫原は、お菓子の妖精であり赤司曰く“僕とテツヤの愛息子”である最良ポジションである為に、赤司に一番甘やかされ、黒子にくっつき過ぎていれば多少注意される程度だ

青峰は、黒子の親友かつ相棒として一目置かれている為か、奴自身が黒子を恋愛対象として見ていない為なのか、赤司からは特にお咎めは無い(しかしながら赤司からは陰で異様にヤキモチを妬かれているらしい)

そして、俺はと言えば…胸の奥でひた隠ししていたはずの黒子への想いを早々に赤司に悟られてしまい…『真太郎…お前は、あの脳無し駄犬と違ってとっても利口な奴だろう?本能に任せてむざむざ地獄を選ぶような命知らずではないと、僕は信じているよ…ふふふ(シャキンシャキンシャキン…)』…ブラック・スマイルで脅されている

赤司は見抜いている…俺が非常に小心者な人間である事を…黄瀬のように毎回命を賭してまで赤司に逆らう勇気を持ち合わせていない事を…悔しいのだよ、高尾(他校の幼なじみ)

普段、赤司のアプローチを嫌がる黒子を助ける事すらも怖くて出来ず、ラッキーアイテムを握り締め、心の中で悔し涙を流している情けない俺だが、黒子が可愛くて仕方がないのは事実だ

そんな俺の純真な想いが神様に通じたのか、千載一遇のチャンス到来

赤鬼の居ぬ間に天使へ大接近なのだよっ…!!!


黒子は俺の右隣に座り、しばし黙々と2人でスポーツドリンクを飲んでいた

身体の右側面が敏感に感知する、透明感溢れる黒子の存在に、俺の心臓は異常化してギャロップ音を奏で始めていた

すると、


「ふぁ〜〜……むにゃ…はぁー…」


珍しく、黒子が大きな欠伸をして、深い溜息を吐いた(おまけに、目がトロンとして可愛さ倍増なのだよぅ!)

よし、ここは睡眠不足を心配する優しい言葉を…、


「なんだ黒子、いくら休憩時間だからといって部活中に欠伸なんかして…だらしないぞ」

「あっ…すみません、緑間くん」


おい、俺のツンツン口よ、一体何を言うか

…うっ、うっ、また、やってしまったのだよ

どうして俺は、頭では分かっているのに、こうもキツイ言い方しか出来ない人間なのだろうか(高尾には『真ちゃん、ツンデレメガネだからな!』と笑われる)

今、俺の目の前で、隙の無い鉄壁天使と崇められる黒子が、可愛らしい欠伸をするという無防備状態を発動してくれているというのにっ…!

くっ…折角、あの横暴凶暴魔王の赤司が席を外している今が、普段圧政に苦しむ臣下である俺の貴重なチャンスだというのにっ…!

俺は結局黒子に謝らせてしまう態度をとらせてしまった…こんな自分が腹立たしいのだよ…


「…緑間くん?どうしたんですか…眉毛だけが縦横無尽にグニャグニャ動いてますけど…そんなに僕の欠伸が不快でしたか?」


ジッ、大きな瞳が、俺を映す

ズキューン!!!

や、やられたのだよ…不安げないじらしい表情で、俺を上目遣いで見つめるMy angelに、ハートの矢で心臓を打ち抜かれてしまったのだよ…どっ、動悸・息切れ・萌え汗が止まらないっ…!!交感神経よ、鎮まりたまえっ!ヒッヒッフー!(動揺の末のラマーズ法)


「…緑間くん、そんなに真っ赤になって興奮して…お怒りになって…そこまで僕のような怠け者がお嫌いなんですね…」


ちっ、違うのだよぉぉおおお…!!

どうして俺はいつも肝心な場面で肝心の黒子に誤解されてしまうのだよ…

否定したくても、ショックで唇がガクブルして何も言えないのだよぅ…

高尾、俺は情けないただのツンツン真ちゃんに他ならないな…うっ、うっ、うっ…


「なんだか残念です…僕は緑間くんを好きですけど…」


ピシリ、メガネにヒビが入ったのだよ、TAKAO

す、す、す、す、すき、だと?!?!

黒子が俺を、SUKIだとぉぉおおおっ…?!?!?!


「…チームメイトとして、頼りになりますからね。普段は全く反りが合わない人事天命待ちぼうけツンメガネですけど」


大ショック・メガネ・パリーン!!!



「黒子ぉぉおおおっ!!貴様っ、簡単に好きなどと抜かすなたわけ者っ!!!」

「あの…緑間くん、メガネ割れてますよ…それにどうして泣きながらブチ切れてるんですか?」

「…俺は泣いてなどいないのだよ。あまりにもお前が罪作りで怒りが頂点に達し交感神経が狂い目から汗が出てしまっただけだ」

「…はぁ、そうですか。やっぱり緑間くんってナチュラルに面白い人ですよね。僕の変人リストでもTOP3に入りますよ」

「変人だと?!お前は俺をその天使の皮を被って侮辱するのか!この小悪魔めっ!!」

「いえ、別に、ただ緑間くんは見ていて飽きないですよね」

「な…に…じゃあ、お前は俺をいつも見ていて…」

「たまに見ると面白いB級ドラマみたいな存在ですよ、例えるならば」

「…………(泣きそうなのだよ)」


こう、たまに話しても俺は全く素直になれず、黒子は黒子で何食わぬ顔で俺の心を翻弄する

赤司がいてもいなくても、俺達はどうも上手く噛み合わない事実が悲しい

悲愴感に打ちひしがれながら、俺は今日のラッキーアイテムである抱き枕をギュウッと抱き締めて深い深い溜息をひとつ

していた時、ジーっと興味津々といった視線を肌に感じた


「緑間くん、その抱き枕、使い心地良いですか?」


と、俺が手にしているウサギちゃん抱き枕を見つめながら質問する黒子


「これか…?あぁ、まぁまぁ良いと思うのだよ。このフィット感と柔らかさは安眠に適していると宣伝されていたが…」


黒子がこういったモノに興味を示すのは珍しいな、と感じながらそう返すと、いつものポーカーフェイスを深刻そうに変化させた黒子がやや沈んだ声で話してきたのは、


「最近、(赤司くんの)悪夢に魘されて安眠出来ないんですよね」


先程の欠伸の原因といえる悩みの相談だった

ハッ、これは、もしや、チャンスか?!

俺の抱き枕を黒子にプレゼントして優しさをアピールする大チャンスなのだよっ…!!

行け!脱・ツンツン緑間真太郎ッ!!!


「そっ、そうなのか…な、な、ならば、このウサギちゃん枕を使っ…、」

「おい、緑間」

「あ、青峰くん、」

「…え、……な、」

「赤司がいねーんだから、副キャプテンのお前が仕切れよ。休憩時間とっくに終ってんじゃねーか」

「あ、本当ですね。次は確か紅白戦ですから、準備しないと…それにしても、赤司くん遅いですね。平和過ぎて逆に気持ちが悪いですよ」

「いつもはアイツが火種で戦争が始まるもんな、テツの貞操を奪おうと躍起になって。つーか、何時の間にか黄瀬の野郎もいなくなって、ボコる奴がいなくてつまんねぇ」

「まぁ、いずれ戻りますよ2人とも。それまで平穏なバスケを満喫しましょうよ」

「それもそうだな。さーて、今日もリングをぶっ壊すか」

「ダメですよ、アホ峰くん。せっかく駄犬モデルがカラダを張って保護者のおばさま達から頂いた寄付金がパーになるじゃないですか」

「チッ、つまんねーの」


ひとりポツンと取り残された俺は、心の中で叫ぶ


『アホ峰ェェェエエエッッ…!!!貴様までもが俺の険しい恋路を邪魔するのかァアアアァ!?!さては魔王の手先だな極悪非道のザリガニめがァァァアアアアッッ…!!!!』


そうして、俺がこの世の不条理さに憤怒と悲哀を抱きつつも、それをメガネの奥に押し込み、紅白戦でスリーポイントを決める事に徹していた

唯一の救いは、愛しのMy angelから寸分の狂いもない素晴らしいパスを貰える事だ…(ちなみに、悪のザリガニは敵チームであり、黒子からはパスを貰う事は無い…ざまあないのだよっ!)


「緑間くんっ!お願いしますっ!」

「黒子っ!!(好きだァアァア!!)」


あぁ…言葉の交流は難しくとも、バスケではこんなにも容易く心が繋がれる…黒子の…いや、テツヤの手から俺の手へ、愛情イグナイトパス炸裂ぅ!!

幸せだ……、俺はコートがお花畑と化すような昂揚感に酔いしれていた

だが、そんな時、突如として、美しい花々が、踏み荒されるような凄まじい音が鳴り響く


バァンッ!!!!

体育館の重いドアが勢いよく開いた

部員の皆がそれに驚くのも束の間、夕焼けの逆光を背に、見覚えのあるシルエットが視界に入る

イヤな予感しか、しないのだよ


「テツヤッ!!僕達の愛の巣だよっ!ここで僕が深い安らぎと愛情を注いであげるから安心してベッドへ一緒にダイブしよう…!!」


現れたのは、やはり、赤司征十郎だった

だがしかし、ただの赤司では無く、後ろにとても大きく高級そうなピンク色のベッドのオプション付きだ(それを運ばせられたらしいパシリ犬は汗と涙を流しながら床に倒れている)

なんだ、この、敗北感は

俺はウサギちゃん抱き枕を渡すのすら出来ず終いであるのに対し、奴は強引かつ壮大に愛のプレゼントを黒子へぶつけている

愛の威力が、桁違いだ


「赤司くんが地獄にダイブするならそのベッドにダイブしてあげます」

「本当かいっ?!テツヤの為なら地獄ダイブなんて容易いものさっ!!待ってて、テツヤッ…地獄の中心で愛を絶叫してくるからね!!!」

ダダダダダダ…!!!

「あぁ…やはりバカに付ける劇薬は無いようですね…それにしても、赤司くんは地獄が何処にあるのか分かってるのでしょうか…魔王様だから交流があるんですかね。…ハァ〜…赤司くんはつくづくオカシな人ですね…」


赤司の盲目暴走行為にウンザリしている黒子

だけれど、俺には解る、黒子が好きだから解るんだ

赤司の想いは、黒子の心へ、確かに響いている、と

言葉や雰囲気は嫌悪感を醸し出しているように見えるが、地獄へ弾丸のように走り出して行った赤司の背中を見つめる瞳の奥には、


「…あの超絶バカには、ある意味勝てる気がしません……ほんと、バカ」


微かな甘い熱を読み取れるのだから


「…バカデレにツンデレは勝てないのだよ……高尾ぅ……」


“真ちゃん、ドンマイッ!!”

幼なじみのそんな幻聴が、俺の耳だけに響いていた







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