*【色違いの指先】のミートさまから頂いた相互記念赤黒←紫小説です。
オレはそれほど気が長い人間ではない、自覚している。更に愛しい彼に関しては特に過敏になってしまい、例えば黄色い犬が彼に抱きつこうものなら、引き剥がしてドブ川に蹴落としてやりたくなるし、例えばガングロが彼のシャツに手を突っ込み白い肌に触れようものなら、襟首をひっ掴んでバスケットゴール目掛けてぶん投げ叩き込んでやろうかと思うし、例えば占い眼鏡がお得意のツンデレを巧みに使い、怪しげなアイテム片手に彼に近寄り構って貰おうとしようものなら、肩に手を置き、オレの出せる限りの低い声で脅してやろうと思う。
しかしあの無邪気な巨人はどうしたものか。オレの愛しい黒子テツヤにぺったりとくっつき、小さな頭の上でサクサクサクサク菓子を貪っている。
「紫原くん、頭に食べかす落とすのやめてください」
「あれー、落ちてたー? ごめーん」
「どうしてぎゅってするんですか」
「だって黒ちん抱き心地いいしさー、俺、黒ちんすきだよ」
長く大きな腕でぎゅうぎゅうと黒子の小さな身体を抱き締める紫原。おいやめろ黒子が潰れてしまうそもそも黒子お前はオレの恋人だろいくら一番無害な紫原と言えどもくっつきすぎじゃないのか……!
腹の中で沸々と煮えくり返る得体の知れないどす黒い感情が体内を満たしていく。ああ、なんて居心地の悪い。
「黒ちん、これおいしいよー。一袋あげる」
「ありがとうございます。今は練習したいので、後で頂きますね」
「じゃー俺も練習しよっと。黒ちん、これポケット入れときなよ。よいしょ」
「わっ、おしり触んないで下さい」
「おしりのポケットに入れようかと思って」
「どうしてそこのチョイスですか、潰れてしまいます」
「あ、そっか」
……もしかしてわざとじゃないのか、あいつ。もしそうだとしたら、どうやらオレの認識は間違っていたようだ。なにが無邪気だ、邪気いっぱいだ。
「黒ちん、それね、何味だと思う?」
「……白いからミルクですか」
「ブー、正解は期間限定バニラシェイク味」
「えっ」
途端に目を煌めかせ、ポケットのお菓子を取り出す黒子。然して気にしていなかったその袋をまじまじと見つめ、藍玉色の瞳をきらきらと輝かせた。
こら、食べ物に釣られるな。ああ、そんな愛らしい表情に無防備な姿でべったりと……。
「さすが紫原くん、お菓子のプロフェッショナル、ありがとうございます」
「うん、いいよー。てか黒ちんと食べようと思って買ったんだし」
「どこに売ってるんですか?」
「一緒に買いに行く?」
「はい、是非」
あ、付いてます、と付け加えて、紫原の口元の食べかすを細い指で弾く黒子。視界の暴力だ。限界だった。
黒子は何よりも誰よりもオレを思っている。オレはしっかりと愛されている。分かってる、分かってるんだ、そんな事は。
だから、今更紫原に邪魔されたところでこの恋の支障になるとは思っていない。そもそもあいつの黒子に対する好意は目に見えて分かるものの、オレに従順で逆らうことは考えられないし、スキンシップは他の連中に比べればかわいいものだ。出来るだけ、我慢するつもりだった。
部活も終わり、今残って練習しているのは、青峰と、それを追い回す黄瀬、黙々とシュート練習に励む緑間、そして黒子と紫原だけ。
腕で額の汗を拭い、深く息を吐く。
少し頭を冷やした方が良いのかもしれない。こいつ達ももう帰るだろうが、きょうは一足先に一人で帰ろう。
そう思って体育館を後にする。
「赤司くん、あがりですか」
……なんて目敏い奴だ。ああ、と短く返して、振り向きもせず進む。
悪いが今は、こんな苦い感情を抱いたまま、大すきな黒子といたくない。
小走りでオレの隣に辿り着いた彼は、ポケットから先程紫原に貰った菓子を取り出し、「たべますか?」と問いかけてきた。
「いらない」
「めっちゃ美味しいですよ」
「ふうん」
顔の陰りを黒子に悟られたくなくて、なるべく目を合わせない様に逸らした。黒子は上機嫌でオレの様子をあまり気にしていなかったのが、せめてもの救いだった。
歩を進める。黒子が早歩きでついてくる。
よほど紫原に貰った菓子が嬉しかったのか、幸せそうに、無表情を少し緩めて。
チリ。
チリ。チリ。
胸が変な音を立てた。何かが焦げる様な、何かが失われていく様な、細い音。
焦げ臭い。ありもしない臭いを嗅いだ気がした。そして大切な恋人を見ると、沸々と熱い何かがオレを満たしていく。
ドアを開け、先に黒子を部室内へと促した。オレに頭を下げて入った黒子が振り返る。オレは、ドアから一歩だけ部室に入って、背後で戸を閉めた。
「……赤司くん?」
何も言わずに突っ立っているオレを疑問に感じたのか、黒子が近付いて来る。
オレは、ドアの鍵をカチリ、と閉めた。
「っ、赤司くん!?」
黒子の腕を掴んで椅子の方へ連れて行き、押し倒す。
「っ……」
固い椅子に倒れた衝撃で、黒子が声を漏らした。黒子の首筋に唇を這わせる。
「あ……っ、赤司くんっ」
黒子がオレの肩を押して離そうとする。だけどそんなの、無駄な抵抗だ。
右手を黒子の服の中に入れ、胸に触れる。唇は鎖骨を嘗める。
「や、やだっ、赤司くん! 離して下さい!」
「…………っ黒子……」
大きな瞳の縁に涙を浮かべた黒子と目が合って、オレの肩を押しやる手が震えている事に気付き、ゆるりと身体を離す。
荒い呼吸音が、薄暗い密室に積もっていく。
黒子が息を吸う。乾いた喉が鳴り、声に変わる。
「赤司くん、どうしたんですか……。きょうの君、変です」
黒子の瞳はもう警戒の色を消していて、オレを気遣うものに変わっている。
黒子の冷えた掌が、頬に触れる。
オレは、黒子の手を振り払った。驚いた黒子の顔。それでも、その瞳に怯えは無い。
「あかし……くん……?」
オレを呼ぶ甘い声が、何故だか無性に腹立たしくて。
「……お前が鈍くて、本当に困る」
「え……」
「紫原と随分仲が良かったじゃないか。あいつが相手だからとオレがせっかく身を引いて見逃そうと思っていたのに、お前はこうして無神経にオレに寄って来る」
心に巣くう黒い靄を払ってしまいたくて、見逃してやるはずだったのに、オレの中だけで消化してしまうつもりだったのに。つくづくばかな奴だ。
傍らのカバンを掴み、部室から出た。
「すみません、きょうはもうあがりますね、お疲れ様です。またあした」
「じゃー俺も……あらら、行っちゃった」
赤司くんが体育館から出て行ったから、追いかけた。確かにいつもそろそろあがっている時間だけど、黙って出て行くなんて珍しくて。
ボクの目はいつも気付けば赤司くんの方を向いている。毎日毎日、飽きもせず、彼の姿を追いかけるのだ。
「赤司くん、あがりですか」
走って、隣に並んで、共に部室に向かう。憧れて憧れて、ボクなんかじゃ到底届かなかったこの背中、肩を並べて歩けることが、こんなにもこんなにも嬉しい。
ボクの大すきな君が、ボクのことをすきで、嬉しい。
さっき紫原くんに貰ったお菓子をポケットから取り出す。凄く美味しかったから、君にも食べて欲しくて。いらないって一蹴されたけれど、本当はこの気持ちを分け合いたかった。
それでも赤司くんと二人きりが楽しくて嬉しくて、頬が自然と緩む。
運動後で火照った頬を掠める風。それに靡く愛おしい赤髪。月明かりが照らす横顔は前髪の影が落ちて読めないが、それでも十分に美しいその顔を盗み見て、幸せを噛み締めていた。
この時に彼の様子がおかしいことに気付けていれば、良かったのかもしれない。
部室に入った途端、赤司くんが鍵をかけた。その理由を問う暇もなく腕を引かれ、押し倒される。
部室の真ん中にあるベンチに倒れた衝撃に咄嗟で目を閉じる。そしたら首筋に生温かい感触を感じて、瞼を上げると、赤司くんの舌が首筋を這っていた。
「あ……っ、赤司くんっ」
違う、いつもと何かが違う、いつもの赤司くんじゃない。なんか、変だ。
ありったけの力で赤司くんの肩を押すも、ボクの力じゃ到底適わない。
ボクが必死で押し返そうとしている間にも、赤司くんの手は服の中に入ってきて、胸元を撫で回す。
「や、やだっ、赤司くん! 離して下さい!」
じわりと目頭が熱くなる。視界が滲んだ。懇願するように赤司くんを見ると、薄闇の中、赤司くんがはっと目を見開いて、ぽつりとボクの名を漏らし離れた。
そしてボクは漸く彼の様子がおかしいことに気付いた。なにか、あったのか。なにか思い悩んでいるのなら、話してほしい。
「赤司くん、どうしたんですか……。きょうの君、変です」
そっと赤司くんに手を伸ばす。頬に触れたボクの手を、赤司くんは振り払った。今まで、こんなことなかったのに、どうして――?
「あかし……くん……?」
「……お前が鈍くて、本当に困る」
「え……」
俯いてそう吐き捨てた赤司くんの顔が上がり、力強い双眸に捕らえられる。呼吸も忘れて見つめる先には、淡々と続きの言葉を紡ぐ赤司くん。
「紫原と随分仲が良かったじゃないか。あいつが相手だからとオレがせっかく身を引いて見逃そうと思っていたのに、お前はこうして無神経にオレに寄ってくる」
しばらくオレに近寄るな、と言い残し、カバンを持って部室から出て行く。
バタンと音を立て閉じられた扉。その音に我に返り、酷く悲しい気持ちになった。
すぐさま自分のカバンを掴み追いかけ、もうフェンスの向こう側に小さくなっていく赤司くんの下へと走る。
手を伸ばし、赤司くんの腕を掴んだ。
ぜえぜえと肩で息をして、胸元を押さえ、出来るだけ息を整える。
「はぁ、は……、あの、」
「聞こえなかったのか? 近寄るな」
「……嫌です、近寄ります」
「おい……」
「離れたくないです。……君の側にいます」
鋭い視線に負けないように、グッと力を込めて赤司くんを見つめる。歯を食いしばって、半ば睨み付けるような目になってしまっているかもしれない。それでも気を抜くと吸い込まれてしまいそうな赤に負けないように、ひたすらに見つめる。
はぁ、と赤司くんがため息を吐いた。
「……本当に頑固だな」
「褒めてるんですか、ばかにしてるんですか」
「ばかだよ、黒子」
呆れたような声音にむっとして眉を寄せると、赤司くんがくすりと笑声を漏らした。やっと、やっと笑ってくれた。
柔らかな笑みに、心が解れた心地がした。
くしゃりと髪を混ぜられて、少しびっくりして身体が強張る。
「なんだ、急に固くなって。もう何もしないよ。……多分」
「多分って言いましたね」
「うるさい。だいたい手を出されて困るような間柄じゃないだろう」
随分とまあ、あっけらかんと言ってくれるものだ。これまでの妙な態度はいったい何だったのかと問い質してやりたい。
しかし赤司くんの台詞にまた頬が熱くなるのを感じて、ボクは蚊の鳴くような声で「それはそうですけど……」と呟く事しかできなかった。
「黒子、お前は相当な鈍感だ。普段からばか共にべたべたされ過ぎて感覚鈍ってるんじゃないかと思うくらい」
「……そんなことないと思いますけど」
「自覚のない所が余計にたちが悪い。……本当は、成る可く腹を立てずにいようと、そう思っていたんだ。しつこいあいつらをいちいち気にしていては身が保たないしな」
「……? 赤司くん、なにが言いたいのかよく分かりません」
淡々と紡がれる言葉に、ボクは首を傾げた。話が見えない。
しかしそんなボクを気に留める事なく、赤司くんは先を紡ぐ。
「乱暴にして悪かったとは思うが、もちろんオレも我慢しきれない時もある。たとえば、天然で鈍感で無表情で呑気な恋人が、毎日毎日自分以外の人間とべたべたべたべた……。それを引き離しもせずしれっとした表情で、終いには食べ物に釣られて嬉しそうに受け入れるばかとしか言い様のない姿をひたすらに見せつけられた時とかな」
「えっと、それってどういう……」
混乱の極みに達した脳内。頭上では数多の疑問符が飛び交い、ボクは先程とは別の意味で動きを止めてしまった。
思考は手の施しようもない程に絡まり、ボクは無意識に呻いていた。しかし、「そういうわけで」と呟いた赤司くんが次に取った行動で、その呻きごと吹き飛ばされる事となる。
「え、っ」
ぐっと肩を掴まれ、赤司くんの顔が落ちてくる。
(キ、キスされる……!)
反射的に目を閉じた。けれど震える唇には何の感触も訪れず、あれ、勘違い?と少し恥ずかしげな気持ちで目を開ける。
「ひゃっ……!」
その瞬間、首筋に吸い付かれ、ちゅう、と恥ずかしい音がした。痛みを伴わないやさしいマーキングを残した彼に、何故だか分からないけれど、とてつもない愛しさがこみ上げてきた。
そのままぎゅうっと赤司くんを抱き締める。すきだ、すきだ、きみがすきだ。大すきだ。
「赤司くん」
「……なに」
「ボク、赤司くんがすきですよ」
「……知ってる」
「そうですか。……でも多分、君が思ってるより、ずっとずっと、ずっと。ボクは君がすきです」
「…………」
「赤司くんをすきになって知りました。ボク、結構独占欲が強いみたいです。君がボク以外と談笑していたり、誰かが君に触れる度、実はみっともない嫉妬をずっと胸に抱いていたわけです。……赤司くん。我慢しきれないって……君も紫原くんにやきもち……だったり、しますか?」
「…………」
「……違うなら別にいいです。睨まないで下さい」
途端に剣呑な空気を纏う赤司くんに、聞くんじゃなかったと嘆息する。
少しの間、黙って歩いていると、やがて決まり悪そうに呟いた。
「……悪いか」
「え?」
「違いやしないけど、何か悪いか」
ボクはその言葉に二、三瞬きをして、唇をぎゅうと引き結んだ。
違いやしない、という事は、つまり。
「……わ、悪くない、です……」
「そうか」
せっかく落ち着いてきた体温が再度上昇し、頭の芯が痺れたような心地がした。
赤司くんの方を見ていられず、おもむろに天を仰ぐ。
まったくこの人は、迂遠な言い回しを用いるのだから憎たらしい。分かりにくい言葉に本音を託して、後の解釈はこちらに投げっぱなしなのだ。その言葉を都合良く捉えてもいいのかと尋ねるのも気が引けるし、実際訊いてみたところで、すきにすればいい、だのとはぐらかされるのが関の山だろう。
本当に、タチの悪い男をすきになったものだ。悔し紛れに歯噛みしながらも、込み上げる感情を飲み下す事はできなかった。
ボクの胸に湧いた衝動は、ただひとつ。
「赤司くん……全然人通りませんね」
「そうだな」
「……今、ボクと君しかいませんよ」
その言葉に足を止め、赤司くんは振り向いた。街灯の光が射した端正な顔に、思わず零れ落ちそうになった吐息を吸い込む。
「……黒子、誘うならもっと上手く誘え」
「さそっ、……ってますけど! そうですけど!」
もっと言い方ってものが……!
誘ったのは確かに事実だ。だって触りたいと思ってしまった。喜びやら愛しさが込み上げて、ただ触れてみたいと、そんな感情が口を動かしてしまったのだ。
「仕方ないから、誘われてあげようかな」
にやりと笑ってそう言ってのけた赤司くんに、ボクは心の中で悪態をついた。本当に、タチが悪い。
ボクが目を閉じるのと同時、赤司くんはボクの頬に手を添えた。
冷たい掌が、いつの間にか熱く火照っていた頬を包み込む。
やがて重なる唇は、いつもと同じ、やさしい赤司くんの味がした。
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end
*感想とお礼
けしからん…!いいぞ、むっくん、もっとやれ!!赤ちんをヤキモチでまっ黒焦げにしてやって下さいお願いします!!!(狂喜乱舞の土下座)…ふぅ、熱狂的にむっくんを推して荒ぶり過ぎて良い汗をかきました…。
ミートさま!大きな期待を百倍返しで萌え殺す相互記念作品を頂きまして、感謝の極みです!!
冒頭の黒←紫のくだりで、天使なふたりに顔面崩壊させて頂いただけでも本望なのに、その無邪気なやり取りへ嫉妬しまくる赤司さまあああああああ…!!!!!本当に、ご馳走様です…嫉妬という怒りに駆られて黒子くんを押し倒して襲いかけるシーンなんか、私の超絶大好物です…しかしながら、ミートさまの黒子っち、可愛過ぎですよね…?赤司さまだけでなく、私も何らかの嫉妬に狂って押し倒したいレベルの可愛さです(そんな事したら即刻赤司さまの鋏の餌食ですが…)「君の側にいます」といういじらしい黒子っちマジ天使…私の表情筋がフニャフニャです。そして、なんやかんやありながらも、一分の隙もなくラブラブ両想いな熱愛カップル赤黒ちゃん、末長くお幸せに…!!
改めて、これから相互さまとして、何卒よろしくお願い致します!本当にありがとうございました!!
2013.2.24 ニニ子