*【空模様】の高智なおさまからのお誕生プレゼント赤黒ちゃん小説です。








「ありがとうございました」

言いたくて聞きたかった言葉は決別に続くものでは無かったのに、目の前から消えてしまった。



手元に残っているのは、俺にとってよく見たもの。何処にでもある封筒に、ぺらりとした紙一枚に見慣れたインクで書かれた細い筆跡が静かに踊っている。
内容が、何度目を這わせても文字を読めても一つとさえ入って来ない。


言葉となって口から出なかった身の内に荒れ狂う形容出来ない苛立ちにも似た感情を持て余している。
溢れることを許さず必死で土を盛って埋めていたのに、薄い紙が降ってきて泥沼へと姿を変えた。


沼に成り切れ無かったものは、ひっそりと頬を伝って水色のそらに落ちていったのをただただ見る。



「それでよかったの?」
「…どうかな、判らないさ敦僕には」
「遠いね、赤ちん」
「お前もな」
「黒ちんね、泣いてた…」
「“俺”が嫌いになったんだよ黒子は、どうせテツヤにも僕は嫌われるだろうな」
「そうかなー」
「そうだよ」


この地を離れる時間が近付いてきた。
そう、“僕”はこの道しか歩く事が出来ない。
同じ道のりを彼に歩かせるのは最初に見て気付いてやめた。


彼とは平行線を歩くしかない。


焦がれたって無駄なんだ。






「……し君!赤司君!」


彼の呼ぶ声は僕の名前を綺麗な何かに変える。
それは、今も昔も変わらない。

WCカップも終わりまた誰も居ない処に帰ろうと独り足を進め、会場を出た直後だった…

テツヤに呼び止められたのは



走ってきたらしく軽く息を切らしている姿は中学の時とそう大差は無い。

唯一、違うのは双方を包むジャージの色だろうか?

多分もっと沢山のものが変わっているはず。


眼なんかでは見えないものが…



「…京都に帰るの何時…いえ、いつですか?」
「今日は帰らないよ」
「そうですか…では」



「君の時間を少しだけ僕に分けてくれませんか?」








待ち合わせたのは、あの帝光中学校の校門前。

私服に着替え待っていれば、時間を経てずにテツヤはやってきた。

夕方になって降り始めた雪が静かに舞う道をテツヤの後ろ姿を追うように歩く。

暫く歩いて着いたのは、ベンチが数基と軽く遊具が置いてあるこじんまりとした公園。
小高い丘の上に在るせいか太陽が近く感じる。


「…テツヤ」
「…すみません…」
「何でまた、お前は泣いているんだ?」


透明なしずくが夕焼けの赤に輝いて、ぽろり落ちては小さく色を変えた。
今日僕に勝ったのは、大輝でも真太郎でも涼太でも敦でも無い、テツヤなのに何で悲しい事がある?

止める方法なんて知らない僕の前で泣かないで欲しい。

テツヤ、涙が勿体ないだろう?


「僕は君に僕の理想を押し付けて、勝手に期待して、勝手に失望してしまいました…でも、君だって僕と同い年の中学生だって事すっかり忘れていたんです」
「ある程度は他人に対してそうなるだろう?」
「いえ、僕は君を神様のように見てずっと見ない振りしていました」
「…何を?」

「僕はずっと神様に恋をしていたんです」
「恋…か」
「気味悪いとは解っているつもりです、でも最後に言えばこの気持ちを無くせると」
「どこに?」
「第四体育館で逢う前の黒子テツヤに戻ります、赤司君は犬が鳴いた程度に思って下さい」
「犬が鳴くには大き過ぎじゃないか」



卒業と同時に気付いた気持ちは寂しいもので、焦がれた彼が同じものを抱えているのを知れば、聞かない振りなんて意味ない。


「僕はテツヤに嫌われているんだと思っていた、だから諦めていたんだけどテツヤから飛び込んで来たなら」



「僕に捕まってくれないか」


「…え?」
「僕の気持ちは要らないの?」
「えっと…そうなら嬉しいですけど…え?」
「予想外の事に思考停止する癖は健在か…好きだよ、捨てないでいてくれる?」
「僕、で良いんですか?」
「テツヤだから良いんだ」
「嬉しい、です」


「返事は?」


「好きです、僕はずっと君に触れたかった」



そっと触れてくる指先を逃さないとばかりに捕えて握り込んだ。
あたたかい体温に、全身が心臓みたいに緊張してしまう。


「…赤司君、赤いですね」
「テツヤもだろう?」


はにかんで笑うテツヤに自然と笑みがこぼれた。



好き、なんて知らなかった。


僕はあの日、




彼に恋をしていたんだ。



end



*感想とお礼

高智さま…お誕生プレゼント赤黒ちゃんを私めに届けて下さいまして、心より感謝を申し上げます!!!!!嬉しいです…目からバニラシェイク現象が起こりました…ありがとうございます。

…切なさと葛藤と色褪せない想いがギュギュッと詰まった両片想い赤黒ちゃんのお話。読み進める度、それらの感情がジワァッと心に広がるような感覚をおぼえました。すれ違いを経てやっと結ばれたふたり…赤司くんの元へ黒子くんが、飛び込んで、捕まって、想いが通じる…良かった、素直にそう思えました。
不器用な赤と黒の平行線がやっと交わった瞬間に立ち会えて、味気ない誕生日が甘い甘い素敵な日になりました(o^^o)

改めて、高智さま、本当にありがとうございました!!


2013.2.24 ニニ子






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