…トン…トン……、
あの時のように、子どものように、うずくまって泣いている自分の背中を、控えめに叩く、誰かの手
涙に濡れた瞳を冷たい手でこすりながら、おもむろに顔を上げて、ゆっくり振り返ると、そこには、
「……、…………」
「……くろ…こ……て、つや……?」
”どうして、泣いているんですか?”と問いかけるような瞳で見つめる、失ったはずのダイヤモンド
黒子は、何も喋らない、口を開きもしない
それでも、不思議な事に、赤司は黒子の瞳のゆらめきで、彼が伝えたい言葉を、読み取れていた
それこそが、赤司の特別な“才能”であり、ふたりにとっての“運命”だったのかもしれない
「…どうして、泣いているのか…訊いているのか…?」
そう、赤司が問えば、黒子は一瞬ヒュッと息が切れる程驚きながらも、すぐにコクリと頷いた
自分が泣いている理由、彼はそれを待っている
その理由を、
「……僕は…せっかく見つけた…消えてしまう大事な宝石を、…上手く大切に…出来なくて…結局、怯えられて嫌われて逃げられた事が…とてもとても…哀しかったんだ……」
赤司は黒子へ解りやすくは伝えなかった
自分だけが解る言葉を、震える唇から紡ぎ出した
黒子に、伝わらなくていい
理解されても、確実に迷惑な感情なのだから
それでも、せっかく自分へ情けをかけ、心配して戻ってきてくれた、心優しい天使へ、
「……どうやって、一目で芽生えた…“運命”としか言いようがない…この愛を伝えたらいいか…解らないけれど……どうしようもなく、愛おしくて、ずっとずっと、大切に、したいんだ……僕の心を救う世界でひとつの“ダイヤモンドの君”を」
愛を初めて知った自分の、最大限の告白を捧げよう
“君は僕が探し求めていた最愛の人だ”
と、心の中で告げた鮮やかな言葉は音にしないで秘めたままに、赤司は黒子へ、やさしくいたましく、微笑んだ
「……あ……か、し……く、ん」
声を失った天使の、奏でた音色を知っているのは、青色と桃色の幼なじみと、今この瞬間、赤色の彼になる
それは、確かな、“奇跡”の歩み
こうして“運命の愛”は、たどたどしくもゆるやかに、回り出すのだった