大切な影は、一生僕のものだと、信じて疑わなかった、あの頃

絶望の透明な空気へ、消えかけていた黒子テツヤの中に、異質の輝きを見つけ出した自分の瞳

手を伸ばした、このまま、消えて欲しくない、消えさせてなるものか、打算抜きに本能のままに、この手を伸ばした

そうして、奴の潜在的なパス能力は、僕の手によって見事に開花していく


『テツヤのおかげで、僕達の勝利が揺るぎないものになった…ありがとう』


僕が磨いた透明に光り輝くダイヤの原石は、僕の創り出す勝利に必要な影となる

僕に救われたと云うテツヤから向けられるのは、純粋な感謝の心

嬉しかった、そんな風に人に感謝されるのは、初めてだった

バスケが誰よりも大好きなテツヤ、だけれど、バスケで誰よりも苦渋を舐め悔しい思いをしてきた、敗北しか知らないテツヤ

大丈夫、もう、僕が、お前を敗者になんてさせない、絶対に


『テツヤに最高の勝利を味合わせてあげる、ずっとずっと』


心底バスケが大好きなお前へ、僕が必ず完全無欠の勝利をプレゼントする

だから、いつでもどこでもどんなときも、変わらずに、僕のそばにいてくれないか?

黒子テツヤの為なら、僕はもっと強くなれる

あの時、お前を見つけた時、きっと、本能で解ったんだ

僕にとっての特別は、唯一無二、黒子テツヤ、だけ

初めて、こんな気持ちになった

バスケの仲間としてだけじゃない、それ以上に、生涯のパートナーとして、そばにいて欲しい

一生、片時も、はなれたくない、と


『赤司くん…僕は君のそばにいます、ずっとずっと』


恋しくて愛おしくて、黒子テツヤの言葉を信じて疑わなかった、盲目的な赤司征十郎

特別な人の為、なりふり構わず完璧過ぎる勝利を重ねる度に、変わっていく心が在る事に気が付かなかった

特別なあの子の心に、かなしみとさみしさが募って生まれたある決意

その芯を読み解けていなかったんだ、愚かな事に



退部届け、離別の証、赤司征十郎からの離反、それは、黒子テツヤの裏切り

味わったことのない、苦くて辛くて痛くて狂いそうな、愛のかなしみの反作用、それは、憎悪


『裏切り者』


テツヤの心に広がる絶望なんて知る由も無い、最弱の心を持った僕は、そう罵る事しか出来なかった

絶望の淵に落とされたような表情を朧げに認識しても、愛憎の海で溺死しかけている自己の心を可哀想としか、感じなかった

これ以上、耐えられない、僕を裏切るテツヤなんて、見たくない、消えてしまえ、

死んでしまえばいい、突き刺した鋏は黒子テツヤの身代わりの心臓を貫通

自我の崩壊を防ぐ、自己防衛反応の結果、


『さっさと、消えてくれないか、お得意のミスディレクションで』


本当の、心にも無い事を言い放つ、弱々しいひねくれた赤い唇

それこそ、真っ赤な嘘だ

本当は、消えて欲しくない、離れて欲しくない、ずっとずっとそばにいて欲しい、僕のそばにずっと、お願いだから、嫌わないで、愛してくれ

真っ白な真実は、ひとりさみしく、自分の心の中へ、秘められたままに






[] []





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -