クリスマス・イヴは、特別な日、特別な人に、


『……会いたいな、テツヤに』


会いたくなる

だけどもう、会いたくても、会いになんて行けない

ウインターカップ後、京都へはすぐに帰らず、冬休みを実家で過ごしていると、数日も経たない間に、世間が浮き足立つイベントがやって来た

それと共に、僕の元へやって来たのは、今も昔も変わらず僕を慕ってくれている紫原敦

いつも通り、奴の好きなお菓子をたらふく食べさせながら、色々な話をしていた

そこで、やはり、話題に出たのは、黒子テツヤ

敦と共に、過去の記憶から先日の試合までのテツヤと自分を振り返っていると、燻り続けていた想いが容易く再燃し始めてしまう

記憶から消すのは無理なんだ、想いを鎮火出来ない、好き過ぎてもう限界だから

ポロリ、漏れたのは、愛しい影の子に会いたい、純粋な気持ち

複雑な心の本音なんて、親が子どもの前で、漏らすものでは無かったのに

大切な人と過ごす日、特別な空気感にあてられて、すっかり油断していた


素直に黒ちんに会いに行けばいいじゃん。無理だ。なんで〜?別に本気で嫌がられないでしょ、お互い好きだったくせに。…そんなの、僕にとって都合の良い解釈に過ぎない。え〜、客観的な事実じゃない?…いずれにしても、僕らはもうそばにいるべきではない、もう仲間ではなく敵同士だ。…離れて戦って負けて、大好きだった黒ちんの大切さを再認識したのに?……とにかく、さっきの言葉は不用意な発言だったな、忘れてくれ。やだ、忘れない、黒ちんに伝える。ダメだ、そんな事したら、敦でも怒るぞ。別に怒られたって、赤ちんと黒ちんが幸せになれるなら、俺はいいもん平気だもん!…敦、僕らはもう幸せになんかなれない…。なんで、どうして、そんな風に決めつけるの?…テツヤは僕の創る勝利に…いや、僕自身に嫌気がさして、僕の元から離れて消えたんだ……僕の事なんか、もう、とうの昔に嫌いになっているんだよ…いくら、僕が好きでも、今更、想いが通じ合うはずも無い。ねぇ…赤ちんは、黒ちんの心、全部読めているの?…さあな、そんなの、知らな…。バカ、赤ちんのバカ、黒ちんの本心を知るのが怖いから、ちゃんと向き合わないで、はぐらかして、逃げているくせに。…そんなことは、無い…。ある!黒ちんもバカだけど、赤ちんはもっとバカ!!あの時、俺は見てたよ…赤ちんに裏切り者って罵られて消えろって吐き捨てられて、赤ちんには見えないように背を向けてから涙を流して消えていった、黒ちんの悲痛な姿。……テツヤが、泣いていた…?…そうだよ、あの黒ちんが涙を流してたんだ…あんなに深く、黒ちんの心を傷付けられるのって、きっと…、赤ちん、だけだよ……黒ちんを幸せに出来るのも、…きっと、…ううん、絶対に、赤ちんだけ。……テツヤ……。だから、今度こそ、素直なって、黒ちんへ、赤ちんの想いを、ちゃんと伝えよう…?ほら、黒ちんに会いに…。行けない、それでも、まだテツヤには、会えない。


「赤ちん、いいかげんにしないと、俺だって、怒るからね」


僕に対して幼子のように鳥のヒナのように従順な敦の、珍しく凄まじい怒気に一瞬怯んでしまった時には、もう既に遅かった


「…ふぅ〜、よかった、これで大好きな黒ちんへのクリスマスプレゼントの完成だ〜」


おい、まて、ふざけるな、ほんとうに、かんべんしてくれ、まだ、ぼくには、テツヤとむきあう、こころのじゅんびができていない、やめてくれ

口を白い布で塞がれた僕の必死な叫びは、ルンルンと楽しそうな紫色のサンタには届かない


「鉄は熱い内に打て、テツヤは会いたい内に会え、そうでしょ赤ちん」


え、なんだそれ、そんな諺をもじっても、はいそうですねとバカ素直に頷けるはずも無いのに

ヨイショ、と僕を軽々と俵担ぎした敦へ、ジタバタと暴れて抵抗しながらも、僕は届け元である黒子テツヤの事を想い出していた





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