どうすれば、心から笑えるのか、わからなくなっていた



テツヤと両想いになってから、わかったことがある。この世界は、僕とテツヤ、ふたりだけではないこと。世界はひとつでも、人それぞれ持っている、自分の世界。その中で特に僕は、テツヤを想う余りに正常な思考は投げ捨てていたらしい。片想いをしていたあの頃の僕は、無意識に他の人間が背景へと変わってしまっていた。まるでテツヤと僕のふたりきり。不可思議な感覚に陥り、届きそうで届かないテツヤの影を必死に追いかける日々。だからだろうか、黄色、緑色、青色、紫色、桃色の何かを、踏み潰して傷つけていたなんて、あの頃の盲目的な僕は知らなかったんだ。僕が愛した人は沢山の愛を向けられていた人。自分の世界は自分の中だけで完結しない。人と人が繋がるように、ひとつの世界は沢山の世界と繋がっている。僕も含めて、いくつかの世界の中心にいたのは、黒子テツヤというひとりの人間。自分だけじゃない、この感情がいつか彼の心へ届いて欲しいと願っていたのは、僕だけじゃなかった。密かに隠されていた敦の気持ちに気付いたことを皮切りに、ボヤけて真実がハッキリと瞳に映り出す。グサグサと心に刺さってくる現実、彼らの心の傷を思えば、痛みを感じる資格なんて僕にはない。自分の幸せの為に誰かを不幸にした罪。犠牲はつきもの、その冷たい非情な言葉で片付けられれば楽だったのに。彼らはあまりにも大事な友人達だった。おめでとうッス!おめでとうなのだよ。…おめでとう。おめでと〜。おめでとう!テツヤと両想いになった後に、かけられた言葉達。テツヤも僕も恥ずかしがりながら心から嬉しそうに笑っていた。正常な感覚を取り戻した今となっては、僕は心からなんて笑えなるはずもないけれど。テツヤの笑顔を曇らせたくない、彼らの心情をこれ以上無視出来ない。複雑な僕の気持ちを知られたくなくて、強張った笑顔を無理矢理貼り付け、どうにかその場をやり過ごしている。わからない、テツヤに対しても彼らに対しても、これから僕はどうすればいいのか、わからないんだ。笑えばいいのか泣けばいいのか謝ればいいのか手放せばいいのか、何が正しいのか、僕にはもうわからない。






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