本能のままに近付けば、壊れてしまいそうで、壊してしまいそうで、こわい



「赤司くん、最近おかしい気がするんですよね…よそよそしいというか……僕、何か気に障る事をしましたかね…?」

神妙な顔をして、俺に赤ちんの事を相談する黒ちんが目の前にいる。黒ちんは赤ちんを、好きらしい。赤ちんは黒ちんを、大好き死ぬ程好き。だから、お互いの心は合致(ちょっとだけ、…う〜ん、けっこうまぁまぁ赤ちんの心がはみ出てる)しているから、何の問題も無いのに、黒ちんは赤ちんの心変わりを心配しているみたい。最近、やっと両想いになれたふたり。普段は傍若無人な赤ちんが黒ちんに対してだけ妙に甘くて優しかった。普段は無表情な黒ちんが赤ちんの背中を見つめる瞳は妙に熱を帯びていたこと、俺は知ってる。赤ちんが自分の気持ちを黒ちんに隠そうと躍起になって我慢し過ぎて遂には爆発して、少し遠回りしたけれど。もとより端から見れば丸わかりなふたりの心のベクトルは、最終的に想い人へ向かってくっついちゃった。

あーあ、つまんないのー。

それが、俺の率直な感想。赤ちんは俺にとって尊敬できるおとうさんみたいな存在だから、何だか寂しい。一番一緒にいたのは、俺なのに。一番一緒にいたから、嫌でもわかってしまったんだ。赤ちんが黒ちんに対しての気持ちを、必死に抑え込んで苦しんでいたことを。俺からしたらバレバレだったけど、赤ちんの気持ちの大きさと元々の気質を考えたら、よく我慢してたのかな?勉強している時、ゴハンを食べている時、バスケをしている時、赤ちんは何をしていても、変わらなかった。ただひたすら、心はずっと黒ちんを探して黒ちんを見つめて黒ちんに恋い焦がれていたのだから。黒ちんは赤ちんのそんな所、知ってか知らずか、いつも通り何を考えてんのかわかんない顔でふつーに生きてて、なんかスゴイムカついた。赤ちんが、部活の時にストレッチの相手を組みたかったのに、しつこくまとわり付く黄瀬ちんの申し出をちゃんと断れなかったり。赤ちんが、昼休みの時間に話しかけたくて様子を伺っていたのに、ミドチンとの白熱した甘味談義でこっちを見向きもしなかったり。赤ちんが、試合の大事な場面で的確なパスをした黒ちんの頭を撫でようと手を伸ばしたのに、峰ちんに抱きつかれて嬉しそうに笑ったり。


何にも知らないで何にも知らないで


「あの、紫原くん…僕の話聞いてますか…?」


俺に頼ろうとするなんて、お門違いなのに


「ききたくないよ、そんなはなし」


わかりたくなんか、なかった

赤ちんの気持ちも、黒ちんの気持ちも

知らなかったら、自分の本当の気持ちをわからないままで、いられたのに

赤ちんは、黒ちんを、好き、大好き、愛してる

そんな人に、勝てるわけない

大事な友だちに、勝つつもりもない

だから、赤ちんには逆らわない

逆らってまで、手に入れたいなんて、思ってないから、何もしなかったんじゃん、俺は

後悔なんて、俺の心にある訳がない

俺のちっぽけな“××”なんて、頑張れば、直ぐに消える、消せる、消えてくれる


「赤ちんは、黒ちんと両想いになれて、嬉しくて、これからどうしていけばいいか、悩んでるだけだから。急に近くなった距離感に戸惑ってるんだよ、赤ちんああ見えてウブだもん。黒ちんが不安に思う事なんて一つも無いから、心配なんて必要ないよ。相談に見せかけたノロケ話なんて、聞きたくない」


黒ちんのバカ。俺の気も知らないで見つめないでよ。不安げに揺れる飴玉みたいな瞳で
俺をこれ以上、惑わさないで。


「そうですか…紫原くんの言葉なら、信じられます……君はまっすぐで、嘘をつかないから……ありがとうございます」


“××”が、生きようとしちゃうから、心の中で、盛大な嘘を捧げる




(黒ちんなんか、嫌い、大嫌い、どっか消えちゃえ)






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