僕が昔からずっと、密かに大切に守ってきたもの、


『征くん、だぁいすき』


それは可愛い可愛い幼なじみ・黒子テツヤ。征くん、征くんと盲目的に慕ってくれる、僕の愛しい宝物。いつだって僕らは同じ時を共に過ごしていた。まるで雛鳥のように、僕の背中へついてきてくれるテツヤは誰よりも愛らしく、絶対に誰にも渡したくなかった。元来、影の薄いテツヤを見つける奴は少なかったけれど、見つけたが最後、ドップリ浸かってしまう中毒的傾向があり、一部の人間からは大変モテてしまう。そこで、テツヤに気付かれないよう、昔から害虫駆除をし続け、むやみに人を寄せ付けぬよう、手を回したのは幼なじみの僕だった。おかげで、大切な宝物は純粋無垢のまま、僕の手元にある。だけど、年を重ねるにつれて、テツヤは僕の背中を追わずともひとりで歩けるようになり、幼い頃のように『好き』という言葉を滅多に口にしなくなった。一抹の淋しさを覚えながらも、僕はある事を信じて疑わなかった。自分がテツヤの一等特別な存在だと。そう、昔からテツヤは僕を絶対に誰よりも好きだという自負があった。ずっと心の中に蓄積された“好き”・“大好き”の言葉達が、僕自身に揺るぎない自信を与える。その積み重ねがあったからこそ、テツヤが好意の言葉を伝えてきた時、僕は同じ気持ちをハッキリと言葉で表さなくても大丈夫だと思っていたのだろう。家族同然の仲、近過ぎる距離、素直になれない捻くれた性格、想いが強過ぎてコントロールが難しい恋心。様々なしがらみを言い訳にして、与えられるばかりで返さずにいた慕情。そして、幼なじみから恋人になる為の大事な一歩を踏み出さずに、今の今まで漫然と過ごしていた。そんな僕の頭に絶えず浮かんでいたのは、ありあまる過信に満ちた夢。


“いつか、自然と、結ばれるだろう”


そんな未来が確約されている保証など、どこにもないと知らずに。健気な幼なじみへの愛情の伝達を怠った報いが、僕の人生の歯車を狂わす原因になるなんて、


「征くん……虹村先輩って、バスケが上手でリーダーシップがあって面倒見が良くて…それに、すごく、優しい……本当に素敵な方ですよね…」


こんなテツヤ、僕は見たことがない。陶器のような白い頬をほんのり赤く染める姿、可愛い過ぎて直視出来ない。直面したくない、予想だにしなかったほろ苦い現実を。この春、帝光中学へ進学し、ふたりで入部した名門バスケ部。そこで出会った一つ年上の虹村修造先輩。二年生のリーダーとして部員をまとめながら、入部したての一年生の指導にもあたっている次期主将候補筆頭。類稀なるバスケセンスを持つプレーヤーで、去年は一年生にしてレギュラーを獲得、ミニバスでの全国優勝経験もある人物だ。一応、僕とテツヤも同じチームで去年全国優勝をしたのだけれど、彼の知名度は凄まじいものがあった。一年生の中には彼に憧れて帝光中学へ入学した者も多いときく。しかし、実際本人を目の前にして解ったのは、自分にも他人にもとても厳しく、スパルタ方式で徹底指導し、部内のルールを破ったり自分の指示を利かない奴(特に問題児・灰崎)には鉄拳制裁、一昔前の鬼コーチである事。青筋を立て妙に良い笑顔をした虹村先輩の、地を這うような声が一年生の鼓膜に響く度、皆一様にブルブルと震え上がっている。そんな恐ろしい人物を“優しい”と評するのは、僕が知る限りテツヤだけだった。僕の幼なじみはパスに特化したシックスマンとして密かに名を馳せる唯一無二の才能を持ちながらも、体力だけは昔から人一倍不足している虚弱体質。普通の強豪校の練習を遥かに凌ぐこの学校の練習は、彼にとったら地獄そのもので。毎度毎度汗だく瀕死になって倒れてしまう幼なじみ、その度に率先して介抱したかったけれど、一年生の僕が好き勝手動ける立場ではなく、その役目は何時の間にか虹村先輩になっていた。最初こそ、『おまっ、こんなんでバテてやってけるのかよ!…ったく、しょーがねーな…』と驚き呆れていた先輩。でも今では『黒子!前よりバテなくなったじゃねーか。よく頑張ったな…!』と頭を撫でて褒めるまでになり、目に見えて分かる縮まるふたりの距離。よく目をかけてくれて荒っぽいながらも力強い手で支えてくれる虹村先輩に、テツヤもよく懐いていた。まるで、兄でも出来たかのように慕っていた。そう、ただの“兄”への思慕だと思っていたのに。


「虹村先輩と……もっと、お近付きになりたいです……どうすれば、いいのでしょう……ねぇ、征くん」


まさかの事態。油断したのは、紛れもなく恋に臆病で弱虫なヒーロー気取りの僕だった。








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