高校生黒子くんの家庭教師として天才小学生赤司くんがやって来たお話






可もなく不可もない、平均点は60〜70点前後、平々凡々な成績。勉強は好きでも嫌いでもない。唯一テストで高得点をとれるのは読書好きがこうじて読解力に自信がある現代国語。そろそろ将来について考え始めた、高校二年生の春。これまで赤点をとった事はなく、赤点常連の黄瀬くんや青峰くん達のように困った事はなかったけれど、現時点で志望している大学のレベルを考慮すると全体的に勉強が必要だった。バスケの名門校である帝光高校の部活はとてもハードで、中々勉強時間がとれない。それでも今からコツコツと受験勉強対策をしていれば後々楽だろうと僕は考え、両親に相談した。自分の中では部活の後に予備校へ通おうかと既に受験勉強を開始している緑間くんに情報を得たりしていたのだけれど…「テツヤにピッタリな家庭教師候補の人がいるのよ!私と仲が良かった同級生のお子さんでね…とーっても優秀らしいのよ!むしろ、あちらが是非ともテツヤに教えたいと仰っているし、この際お言葉に甘えてそうしましょ!」結局、強引で突っ走りやすい母親の勧めで家庭教師を頼む事になった。初めての訪問日、どんな人が来るのか、多少緊張しながら約束の時間になるのを待つ。特に人見知りはしないけれど、両親が共働きで中々帰ってこない我が家に初対面の人とふたりきりになるかと思うと、平静ではいられなかった。優しい大人の先生がいいな…と、勝手に理想の人物を思い浮かべていれば、ピンポーンと鳴ったインターホン。足早に玄関へ向かい、鍵を解いて、ドアを開ければ、僕の家庭教師がそこにいた…はず。あれ?自分の背丈よりも上に合わせて視線には、誰もいない。僕の目には、見慣れた外の景色が広がっている。ピンポンダッシュ?いや、まさか、そんなはずは、と不思議に思っていると視界の下方でチラついた、赤色。え、何だろう、ゆっくり視線を下げていくと、ニッコリと天使の笑顔がそこにあった。驚くべき事に、僕の元へやって来たのは…


「こんにちは、黒子テツヤさん…僕があなたの家庭教師となった赤司征十郎です。これから将来に向けて二人三脚で共に頑張っていきましょうね」

「え、……ぇ?…あの、…失礼ですが…君は…見るからに、小学生ですよね…?」


黒いランドセルを背負った小学生だったのです。え、え、え、あれれ?僕は実年齢より下に見られがちでも一応高校2年生・16歳ですから、少なくとも僕より年上の、出来れば大学生以上の人に大学受験に向けた勉強を教えて貰うべきですよね?母はちゃんとその同級生のお子さんの年齢を知っていたのでしょうか?どうして僕よりもずっと年下の男の子が家庭教師になってしまったの?困惑を隠しきれず顔が強張る。すると、利発そうな少年は僕を見上げながら、先程までの口調を変えて詰問してした。


「何だいそのカオは。あなたの家庭教師、僕じゃ不満なのか?」

「いや、…だって、…お、おかしくないですか?この構図…普通、逆ですよ…」


玄関先で僕の目の前に佇むのは、どこからどうみても小学生・10〜12歳位の赤色の少年。ただ、この男の子から漂う有無を言わせない威圧感は、僕の物言いを自然と弱々しくさせる程で。それでも誰から見ても明らかな疑問を口にしない訳にはいかなかった。高校生が小学生に勉強を教えるのは現実的に有り得る事だけど、小学生が高校生に勉強を教えるなんて見た事も聞いた事もない。いや、でも、この少年はそれをやってのける力を秘めている気がするのだ。綺麗に整った顔はまさに美少年、身なりも良いところのお坊っちゃま、幼い頃から英才教育を施されてきた特別な人物だと推測される。そして何よりも、僕の心を見透かすような鮮やかな赤い瞳が訴えかける、絶対的な自信。それは勉強を教える事に対するものなのかどうなのか。僕は本能的にそれだけではない予感がして、妙な不安に駆られる。この小さな男の子の存在に恐れを抱いて、バクバクする情けない心臓。そんな僕の心を知ってか知らずか、赤司征十郎と名乗った小学生は、


「…ふふっ…大丈夫だよ、怖がらないで、安心して?…僕が手取り足取り腰とり、あらゆる事を教えて…ちゃんと満足させてあげるから…」

「え?…えっ?!」

「さて、早速、はじめようか…テツヤ」


不敵に微笑みかけて、声変わりもままならない凛とした声で僕の名前を呼び、小さな手で僕を導き出したのです



こうして始まった、僕と赤司くん、一つ屋根の下ふたりきりのお勉強


「…だから、この公式を使用して…こう、代入すれば…ほら、簡単に解けるだろう?この一連の流れを覚えれば、応用問題も難なくクリア出来るんだ」

「……」

「…テツヤ?どうしたの?訝しげなカオをして…」

「赤司くん…君、本当に、何者なんですか…?小学生なのに、高校生レベルの問題をこんなにも的確に分かりやすく教えられるなんて…」

「…何者か…しいて云うなら、テツヤの恋人候補かな?」

「え」

「さて、次の問題にいこうか」

「あ」


謎だらけの天才小学生・赤司くんに翻弄されながら、僕は今日も必死にシャーペンを動かしてます





*おまけ*


「テツヤ…今日は差し入れを持ってきたんだ…はい、これ」

「え…!これは!入手困難なプレミアムバニラシェイクっ!!ど、どうしたんですか、これ!?」

「いつも頑張ってるテツヤにご褒美だよ」

「!…ありがとう、ございます…赤司くん…これからも僕、一生懸命頑張りますね!!」

「ふふっ…期待しているよ…あ、今度は僕にご褒美をくれると嬉しいなぁ」

「いいですよ!赤司くんのおかげで成績が格段に良くなりましたし…何がいいでしょうか?」

「テツヤ」

「え?」

「だから、テツヤがいいな」

「ぼ、ぼく、って…どうすれば…え?」

「ダメ?」

「だ、ダメというか…君は、一体、僕に、何をするつもりで…」

「……なーんてね。冗談だよ、僕の大好物は湯豆腐だから、今度の夕飯にそれを用意して貰えたら嬉しいな」

「あ…、…はい、わかりました(赤司くんの瞳が本気だったように見えたのは、僕の見間違い、ですよね…?)」

「(もう少しおあずけかな…でも、はやく、可愛いテツヤを食べたい)」










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