ふたりきり、穏やかな空気、落ち着くのに彼を見つめるとドキドキするのは、何故でしょう?


「テツヤ、ここ、間違ってる」

「あっ…すみません」

「この言い回しは、こっちの文法を使って表現するんだぞ」

「はい…ありがとうございます」


僕の家庭教師・赤司征十郎くんは小学生、ただし本物の天才。まるでお人形さんのように綺麗なお顔は幼いかと思いきや、ふとした時に大人びいて不意に僕をドキリとさせる。年下の、それも同性の男の子に、ドギマギするなんておかしいのだけれど。この子の場合どんな人間も魅了してしまう何かを持っているから仕方ないとも思う。鮮やかな赤色の髪の毛には一本一本艶があり、軽く伏せた長い睫毛はクルンと愛らしく、肌は陶磁器のように美しい。小さな丸い頭には沢山の知識がいっぱいいっぱい詰まっていて…あ、やっぱり、赤司くんの瞳、キラキラ、宝石みたい


「…テツヤ、僕の顔に何かついてる?」

「…へっ?…ぁ、すみません…君に見惚れていました…」

「え…?」

「…赤司くんって、とても綺麗ですよね。よく言われませんか?」

「………」

「…あかしくん?」


あれっ?珍しいですね。赤司くんがスッと目を逸らして戸惑っている表情をするのは。いつも自信に満ち溢れ、僕より優位な立場にいる彼の意外な反応が可愛い。褒められ慣れていそうなのに、照れているのだろうか。微かに紅をさした頬が彼の本当を知らせてくれる。つい、フフッと笑いがこぼれてしまうと、ギロリと僕を睨みつけてきたので、慌ててお口にチャックをした。が、時すでに遅し。


「…僕のこと、可愛いなんて思っていたら、今に痛い目をみるぞ…テツヤ」

「…えっ、痛い目って、何するつもりですか?赤司くんが可愛くて笑った罰として…渾身の力でデコピンとかチョップをするんですか?」

「…やっぱり、思ってたのか……それにしても、その発想…テツヤはまだまだコドモだね。僕がそんなお子ちゃまなことをする訳ないだろ…」

「…え、じゃあ、何を…」

「…もっと、痛くて、…すごく気持ちいいこと」


あっ、と驚いた時には小さな肩越しに部屋の天井が視界の端に見えた。押し倒された?と頭が状況整理をし始めた頃には目の前を埋め尽くす綺麗な綺麗な赤司くんの顔。これから、することは、なんだろう。ジックリ考える暇なんて与えてくれない事を、ジワジワ教えてくれるのは、近付いてくる赤色の唇


「…テツヤは知らないだろうね。僕がお前の言葉ひとつでどんな気持ちになっているか、知ろうとしないんだ。綺麗なんて言葉、どうでもいい人間に腐る程言われ続けてきたけど…初めてだったんだよ…」

「…え……ぇ、…何が、」

「……本当に、嬉しかった、のは…」

「…!……赤司くん」

「…僕がこんなに動揺するのは、テツヤのせいだ…僕の心を弄ぶ質の悪い唇は、こうしてあげる」


あっ、塞がれる。赤司くんの唇が、僕の唇に、触れ…


ピンポンピンポンピンポーーーン!!


「………」

「……、すみません、誰か来たみたいなので…」


そうになる寸前で、来訪者を知らせる耳障りな音が鳴り響いた。あと少しで、僕らの何かが変わってしまいそうな予感がしていたけれど、赤司くんは顔を顰めながら渋々僕の上からどいてくれる。何となく、助かったと思って一息つけば、それを見ていた少年はますます機嫌が悪くなっていた。


「……ハァ……テツヤは運が良いね…僕はきっと今日の星占いで最下位だな…絶好のチャンス、そこで寸止めなんて、最悪な気分だ」

「…えっ?…す、すみません…」

「謝らないでよ…本当に運が良くて助かったみたいな態度、傷付くだろ。さっさと邪魔者を追い払って、この続きをしようか…」

「…あ、はい…まだ英文の問題を解いている途中でしたね…今度は集中して正しい文法を使って解答します」

「は?……ハァ〜…全く、テツヤは本当に僕より年上なのか?…ここまで色恋沙汰に疎いとは…まぁ、僕が初めてのオトコになるからいいか別に…」


何かを思い悩みながら独り言を呟く小学生の男の子。それにしても、彼は僕をどうしようとしていたのか、気になるけれど深く突っ込んじゃいけない気がするのはどうしてでしょう…?


「…赤司くん?何ひとりでブツブツ言っているんですか?」

「…何でもない。とにかく、空気の読めない重罪人を排除しに行こうか、テツヤ」

「…ちょっと、赤司くん、どうしてさりげなく鋏を隠し持ってるんですか」

「ん?護身用だよ護身用。万が一、相手が危険人物だったら危ないだろう?テツヤは華奢で儚げで非力な天使だし、僕はいたいけな小学生だからね」

「…ツッコミどころ満載ですが、


ピンポンピンポンピンポン!!


とにかく玄関へ向かいましょうか」

「あぁ…煩い蠅を潰さなきゃね…」

「だから、物騒です赤司くん…君、いたいけな小学生のはずですよね?」

ボソリ「……テツヤを守るためなら殺人鬼にだってなれるんだけどね…」

「…えっ?何か言いましたか?」

「ううん、何でもないよ、テツヤ」


階段をふたりで下がる頃には、ニッコリと笑顔を浮かべて僕の腕にギュウッと抱きつく彼は、可愛らしい小学生に戻っていた。あぁ良かった、年相応の赤司くんだ。先程の熱に濡れた瞳と赤い唇は僕の気のせいで、大丈夫ですよね?









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