それから数日、赤司は青峰のアドバイスを参考に黒子の事を考えていた。またもや、ウ〜ンウ〜ンと中庭のベンチで悩んでいれば、沢山の女生徒に囲まれていた黄瀬涼太がこちらに気付きキラキラを飛ばしてやって来る。ストンと隣に座り、興味津々に赤司へ問いかけてきた。


「どーしたんスか、赤司っち?いつにも増して気難しいカオしてたッスよ!何か悩みでもあるんスかぁ?」
「…チャラ瀬か……」
「え、いや、黄瀬ッスよ…」
「チャラい人間から学ぶモノなど微塵たりとも無いと決め込んでいたが、チャラければチャラい程、恋愛というモノに触れているのだろう?チャラ瀬なんぞに相談するなんて俺のプライドがズタズタズタボロだが…この際、背に腹はかえられない……でも、…ハァ…嫌だなぁ…胸糞悪い」
「あの…俺……全力で泣いていいッスか…?」
「泣く前に、俺の一刻一秒を争う問題解決に協力しろ。これは命令だ」
「…はぁ、まぁ、いいッスけどぉ…それで、赤司っちは何を悩んでるんスか?」
「好きな子と仲直りするにはどうすればいいんだ」
「えっ?赤司っち、好きな子なんていたんスか?意外っスね…誰か訊いてもいいッスか?」
「黒子テツヤ、俺の初恋の君、未来の花嫁」
「えっ?!…ええっ?!?!…初恋?…花嫁…?…そ、そうなんスか…(赤司っちに恋されて勝手に婚約されて…黒子っち、ご愁傷様ッスね…)」
「ここ一週間、この苦境の打開策を一睡もせずに考えていたのだが…どうにもこうにも考えれば考えるほど答えが見つからなくて…」
「そうなんスか…あの赤司っちがこんなに苦労するって…相当ッスね…」
「あぁ…恋愛とは難しいものだな…」
「え、あぁ…まぁ、そうッスね……だけど、ゴチャゴチャ考えてもしょーがない面もあるッスよ!考えるな感じろって言うじゃないッスか!赤司っちの感じたままに行動してもいいんじゃないッスか??」
「!!!」


黄瀬は知らなかった。まさかあの熟慮断行型の赤司が突拍子もない行動をとって黒子に絶交されていたとは知らずに、言ってはいけないアドバイスを与えたのだ。おそらく赤司の頭の中では、考えてから行動すべきだという理性と感じたままに行動してしまえという本能が一進一退の戦いを繰り広げていたのだろう。どちらかといえば、青峰の助言により、理性の軍勢が半ば優勢だった。しかし、ここで思わぬ援軍が寄越される。青峰よりも恋愛経験が豊富そうな黄瀬の言葉が、本能という炎に油を注いでしまったのだ。火の回りは存外速い、理性という水の消火は追いつかず、


「やはりな…黄瀬ェ…一生に一度はいい事を言うじゃないか…」
「え?…あ、ありがとうッス」
「俺はもう迷わない…決めたぞ…ここは自分の直感を信じて…」
「……(…あれ?嫌な予感しかしないッス)」
「黒子と仲直りのディープキスをするべきだな!!」
「え」
「そうだ…そうに違いないっ…!あの時きっと、黒子はバードキスなんかじゃ不満だったんだ…!!」
「えええっ…?!」


黄瀬は耳を疑った。まさかあの赤司がそんな大失敗をしでかしてしまっていたとは。そして彼は今にも、それ以上の大問題行為をおっぱじめようとしている。どうしてそんな答えを導き出したのか、理解不能だった。それは黄瀬のみならず赤司以外の人間ならば同様に、彼の思考回路にドン引きながら驚愕する発言だろう。どうしよう、このままでは黒子が危ない。ここは身を呈して赤司の暴走を止めるべきか悩んだ。この人物の恐ろしさは日常垣間見る理不尽さで熟知している為、意見する事を躊躇われ考え込む黄瀬。だがしかし、自分の教育係としてお世話になり、ひとりのプレイヤーとして尊敬し、大事な仲間であり飼い主の黒子テツヤが、この恋愛音痴バカ司の餌食になるのだけは決して見過ごせない。青峰にヘタレワンコと揶揄され続けた汚名を返上、ここはバシッと番犬として魔王の暴走行為を止めてみせる。ギュッと目を瞑りながら、意を決して黄瀬は赤司へワンワン叫んだ。


「赤司っち!黒子っちはバードキスが不満だったんじゃなくて不快だったんスよ!!だからディープキスなんて以ての外、不快過ぎて黒子っちに完璧に嫌われるッス!!だから考え直して中学生らしく交換日記から始めるべきッスよ…!!俺の飼い主へ迂闊に唇を突き出すのは勘弁して欲しいッス!!!」


言った、言ってやった。言いたい事は言えたが、残虐非道の魔王様の反応が怖い。恐る恐る閉じていた瞼を開き、赤司の様子を伺えば…、


「…え?……赤司っち……?」


いない、自分の隣には、誰もいない。先程までは確かに、赤司がいた。本能任せの解決策、とどのつまり、下心満載の失策を、目を輝かせて掲げていたバカ司が。状況が掴めず呆気に取られた黄瀬だが、すぐさまサーーッと血の気が引いて最悪のシチュエーションが頭に浮かび上がる。きっと、いや、ぜったいに、奴はルンルンとヤラカシに行ったのだ。


「く、黒子っちの唇が犯されるッスーーーー!!!」


飼い犬の悲鳴は飼い主には届かず、中庭に虚しくこだまするだけだった。


◆◆◆◆◆◆


本当のバカにつける薬はどうやっても作れないのだよと、誰かが言った。


「黒子」
「……」
「黒子」
「……」
「あの時は悪かった…お前の気持ちなんて考えずに…生半可な事をして…ひどく怒らせてしまったね…すまない」
「…赤司くん?」
「今度は絶対に、間違えないよ……黒子、好きだ…」
「え…ちょっ、…あかしく、」


ぶっちゅううう〜!!!



二度目のくちづけは、豪快なディープキス、これでもかという位の舌のねじ込みは圧巻そのもの。

ただ、その後すぐに聴こえた、凄まじい打撃音と悍ましい断末魔のコンチェルト。

誰もが耳を塞ぎたくなるようなひどい演奏だったと、偶然現場を目撃した緑間真太郎はゲッソリしながら口述していたという…。

希代の恋愛音痴・赤司征十郎の生死、そして初恋の結末は如何に…?!








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