灰色の空から、真っ赤な恋文



あたたかな太陽、爽やかな風、澄んだ空気。最近では珍しく穏やかな空だった。

「今日は気持ちの良い天気ですね……あ…」

中庭のベンチに座りながら何か一生懸命に作業している赤色の少年を発見。反射的にミスディレクション発動。そ〜っと背後に近付けば、

「赤司君、何しているんですか?」
「えっ、…わあああっ!!て、テツヤッ!!だ、ダメッ!見ちゃダメっ!!」
「え、あ、…す、すみません…」

あの赤司君が僕に隠しごと、不意に寂しくなった。普段、開けっぴろげなアプローチをしてくる彼だからこそ、こんな気持ちになるのだろうか。それでも、自分がちょっぴり傷ついていることに、少なからず驚く。その心情を上手く隠せずショボンとしてしまう僕に気付いた赤司君は、

「…あ、…ご、ごめん…テツヤ……でも、これは、まだテツヤに見られたくなくて……ごめん、ね?」

モジモジ、頬を赤らめて恥じらいながら謝るもんだから、何も言えずに頷いてしまった。卑怯だ、こんな顔されたら、大人しく待つしかない。

「…(もう…なんなんですか…可愛いんですけど)…わかりました…。」
「ありがとう…もう少しで完成するから…それまで待ってて、テツヤ」

ニッコリと今日の空みたいな穏やかな微笑みでドキドキさせる彼のこと、僕はどう思っているのでしょうか。わからない、わかりたくない、心臓の音だけは、ドクドクとハッキリ主張しているというのに。



うっすら、灰色の雲が空を覆う。何が起こるのか、予測がつかない空模様。そんな風に心がザワつくある日のこと、僕の元へ届けられたのは

「あれっ?これは…、」

自分の下駄箱に入っていたのは白い手紙。カサリ、手にとって宛名を見れば、

「……(“愛しのテツヤへ”…って、…まさか、赤司君…?もしかして、あの時書いていたのは…僕へのラブレターだったのですか?)」

キュン…、放心したまま、やわらかなときめきを感じていると、

「おーい、テツ、何やってんだ??」
「えっ、あっ、青峰くん!」
「お?なんだそれ?」

バッ、隙を突かれて、親友にとられてしまった大切な手紙。

「あっ、それはっ…!ダメですっ…!!」
「…おい、これ、ラブレターじゃねぇか!!テツ、お前結構モテるんだな!」
「ちょっ、青峰くん、やめて下さいっ…!その手紙は…、」

空間の隅々までよく通る彼の声に、周囲の生徒達が反応して、数多の耳と目がこちらに向いている。そんなことお構いなしに、デリカシーをお母さんのお腹の中に忘れた青峰君は音読をし始めたのだった。

「あー、なになに?

“いつもテツヤのことばかり考えて心臓が痛くて苦しい”

“僕の瞳にはテツヤだけが映っている”

“こんなに人を好きになるのは僕の人生の中で後にも先にもテツヤただひとりだ”

“好きだ、どうか僕の愛を受けいれて欲しい”

“永遠に愛している、テツヤ”

…って、スッゲー熱烈な告白だな…テツのこと死ぬ程めちゃくちゃ好きじゃねーか。台詞が甘々ベタベタでクッセーけど。」

してやられた、白い便箋にひとつひとつ心を込めて愛を綴ったのかも思うと自然と込み上げてくるモノがある。

「(…赤司くん、こんな情熱的な告白…僕をおかしくする気ですか…!もう…普段のゴロ司くんとのギャップでドキドキが止まりません…)」
「おい、テツ…カオ真っ赤っかだぞ?」
「そ、そんなこと、ありません!」
「はぁ?どー見てもトマトかリンゴかタコだろ。つーか、これ書いた奴って……え、…」

ブルブル、手紙を持つ手が震え出した青峰君。やっと気付いた、その時にはもう、手遅れだった。

「…“テツヤを愛する征十郎より”…って、差出人、もしかして、もしかしなくても…」

ガシッ、ギリギリギリ、力強く掴まれて潰されそうになる、アホ峰くんの左肩。

「オイ…青峰ェ…一体、何を、そんなバカ大きい声で読んでいるんだい???」
「赤司くんっ!」
「ギャアアアア!!!出たぁぁあああっ!!!!!」

額に青筋を立てて絶対零度の笑みを浮かべる赤司様がそこにいらっしゃった。

暗雲が立ち込める、空は暗い。





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