それから、吹雪の最中、愛を契る
ホワイト・クリスマスイヴというより、ホワイトハリケーン・クリスマスイヴ
12月24日、今日はカップルが浮き足立つ、クリスマスイヴ。去年まではそんな彼らを尻目にいつも通りマジバでバニラシェイクを啜る僕でしたが、今年はそういう訳にはいかず…『テツヤ…!!ハァハァ…僕が…ハァ…テツヤの為に…ジュル、…素敵な性夜、…ゲフン!聖夜になるよう、素晴らしい計画を立てるからね!』…計らずも非常に面倒な彼氏?が出来てしまったから気が重い。性的に興奮して鼻息荒く涎を垂らすオッドアイのオオカミ。イヤだ、みすみすヤツの餌食になってたまるか。いくら両想いなったからといって、この身体を簡単に許す気にはならない。そんな僕に、お天道様は味方した、いや、天候を操る彼の荒ぶりようが願ってもない悪影響を及ぼしてくれたのか。外は東京ではあり得ない吹雪、大雪と強風がコラボした、真っ白な激しい世界だ。交通機関は麻痺し、ニュースでは外出は控えるべきとのことで、学校は当たり前のように休み。これなら、僕は彼が計画している性夜の被害に遭わなくて済む…、
ビュウウウ…「わ…すごい風の音…外は真っ白ですね…何も見えませ、」ドンドンドン!!「えっ?!…ドアを、叩く音…?まさか…」…ガチャリ、「…ハァ…ハァ…テツヤ、ハッピーメリークリスマスイヴゥゥウウウッ…!!!」「…マジですか、よく生きてここまで来れましたね、命知らずのバカ司君」…なんて、この人には通用しないのがオチでした。
ビュゴオオオオ…「…風の強さが増してますね…」「…テツヤ、シャワーをありがとう」「いえ、風邪を引いたらいけませんから…あ、さっき作ったんですけど、ホットミルク飲みますか?」「…テツヤ、マジ僕の嫁」「はい?」「いや、なんでも」「はい、どうぞ」「…ありがとう、あったまる…」「…赤司君、ニュースによるとこの吹雪は朝方まで続くそうです」「…そうか、夜通し吹き荒れるのか」「…今日、僕の両親は仕事場近くのホテルに泊まるみたいなので…僕はこの家にひとりですね」「…そ、うか…まあこの吹雪の中を帰って来るのはとても危ないしね」「はい、仕方ないですよね…それで、赤司く、」「テツヤ」「はい?」「…こんな恐ろしい吹雪の中、テツヤをこの家にひとりぼっちにするのは僕の良心が痛む…それに、今日は恋人達のクリスマスイヴ…だから今日はずっとそばに…一緒にこの白い夜を越そ、」「あの、いつお帰りになるんですか?赤司家の皆さんが心配されますよ?僕の家まで生きてやって来た不死身のキミなら難なく帰れますよね?」「え」
オオカミの交感神経を断ち切った、そんな瞬間だった
「じゃあ、僕は帰るよ…テツヤ、気を付けてね」「……」
なんなんだろう、この気持ち。追い出し成功したと思ったのに、玄関先まで来たら急に嬉しさが急降下。ションボリとした赤司君の寂しげな背中が、なんだかとてもかわいそうで。全然嬉しくも、なんともない。むしろ、悲しいような、苦しいような、不可思議な切迫感が胸に。
“はやく、はやく、素直にならなきゃ、後悔するよ”
ガチャリ、赤司君がドアノブを回した瞬間、舞い降りた幻の白い声に、僕は触発されて、
ギュウッ…!!「…え?!てっ、テツヤ?!?!(えええええ?!?!あのテツヤが僕の背中ギュウウウ?!?!?!)」「……帰っちゃうんですか?」「えっ、だ、だって…テツヤが…」「…素直じゃなくて、ごめんなさい」「…テツヤ…?」「…ほんとは、赤司君が来てくれて…ちょっぴり、嬉しかったんです……いつも、ほんとは、僕だってキミに毎日会いたいし…不安な時にはそばにいて欲しい…どうしても恥ずかしいし怖いけれど…恋人らしいことも、してみたい。こんな吹雪の日に、家の中ふたりっきりで寄り添って過ごしてもみたい…キミが思ってるよりも、僕はキミのこと、大好きなんですよ…バカ司君?」
今まで見たことのない、聖母のような笑顔のテツヤを見て…頭も心も真っ白、ホワイトアウト。それからのことは、よく覚えていない…ただ、白い荒くれ者が真夜中に東京を過ぎ去り、カラリと晴れた青空と穏やかな銀世界。目覚めれば、僕とテツヤはピタリと肌を寄せ合って、ひとつの毛布にくるまっていた。雪のように白い肌から伝わってくる心地よいあたたかさに幸せを感じて、涙が一粒こぼれ落ち、
「…聖なる想いは、おまえだけの為に……愛してるよ、テツヤ」
ダイヤモンドがキラリと光るシルバーリングを通したネックレス、未だ夢の中にいる愛しい恋人の首につけてあげて、僕は彼をやさしく抱き締めて瞼を閉じた。
白き良き日に、永遠の愛を、キミに誓う。
2013.12.24 ハッピークリスマスイヴ・赤黒ちゃん!!
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