01.光より出でた少女
「えいっ!」
一人の少女が、魔物相手に大剣を手にして戦っていた。慣れた手付きで敵を一掃し、魔物の気配が消えると、額の汗を拭った。
「さて、と。今回の仕事もこれで終わり! 船に戻らなくちゃ」
彼女…カノンノ・グラスバレーは、ペカン村の人達の移民の為魔物討伐依頼の完了した所だった。
一息ついたとき、彼女の瞳に光の流れ星が映った。
(何だろう…。迎えまで時間がある 行ってみよう)
好奇心が背中を押し、その光の方角へ足を進めた。
――――――
追いかけている光が一カ所に停止した。肩で息をしながら近寄ってみる
「人…だ!? 空から人が降りて…」
光は段々降下し、中から人が現れると、光は消えた。
(女の子だ。私と年齢が近そうな…)
すやすやと寝息を立てる少女に注目する。少し体を揺らして声をかけた。
『…………』
すると少女は目をゆっくりと開け、周囲を見渡した後に、カノンノを珍しそうに見つめる。
「気がついて良かった。空から降りてきたんだもん。すっごく驚いたよ! あれは、何かの魔術なの?」
『……………?』
カノンノの問いに少女は首を傾げた。
「覚えてないの? あなた、空から降りて来たのよ」
またまた少女は首を傾げた。
「えっと、とにかく気が付いて良かった。まるで眠ってしまった様な状態だったもの。ここは魔物が多くて危険だから…。あ、私はカノンノ。カノンノ・グラスバレー。あなたは?」
ひたすらきょとんとしている少女に一抹の気まずさはあるものの、自身の名を名乗った。
『………ぁ』
「どうしたの?」
口をパクパクさせ困ったように辺りを見渡す少女。近くにあった石ころを拾って、石地に文字を書いた。
“ソゥ”
「ソゥもしかしてあなた…声が出ないの?」
少女は首を縦に振った。
「そっか…。とりあえずここは危険だから山を降りましょう」
あどけない表情のソゥの手を引いて、カノンノは彼女のペースに合わせて歩き出した。
――――――
「あっちゃあ…魔物だ。さっき討伐したばかりなのになぁ」
通してくれそうにない魔物にため息をもらしたカノンノ。
「ソゥは下がってて、私が…」
大剣を取り出し魔物に近づこうとすると、ソゥも背中の大剣を手に取り構えた。
「えっ。ソゥも手伝ってくれるの? うん! じゃあ、一緒に戦おう!」
魔物は一匹。二人で斬りかかるとあっさり終わった。
「大丈夫だった? あ、そろそろ船が到着する時間だ。急いで山を降りなきゃ! 少し動くことになるけど、いいかな?」
剣をしまい、ソゥは頷いた。
「船に乗ったら、あなたの希望する場所へ送ってもらえる様に伝えるから」
《送る場所…?》
先程拾った石で文字を書くソゥ。
「そう。どこかへ行こうとしてたんでしょう? それでここへ降りてしまったとか…」
《わからない…の。わたし、自分の名前以外》
「ええ!?」
(んー、どうすればいいかな…。とりあえずアンジュさんに相談してみよう)
「とりあえず、船までおいでよ。それから一緒に考えるからね」
不安そうに俯いたソゥの手を取り、カノンノ達は急ぎ足で山を降りた。
――――――
途中何度か魔物に遭遇したが、ケガも無く山の麓までやって来た。わき道を進み、崖が視野に映る。まだ船は到着してないようだ。
「ねえ、ソゥ。ひよっとしたら、あなたは記憶喪失なのかもしれないね。何か原因があって…。そういう状態になっているんじゃないかなぁ」
《原因?》
「えっと、わからない。それこそ理由は色々あると思うから。でも、あなたがこの山へ降りて来た時以前の記憶が無い所をみると、あなたを包んでいた光に原因があったりするのかなぁ」
その時、ゴゥンゴウンとエンジン音を鳴らして、大きな船が降下してきた。一定の位置まで来ると入り口が開き、橋が架けられた。
「さ、ソゥ」
船を見上げる表情が少し楽しそうにしている。そんな彼女につられてカノンノも笑顔になった。
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