02.はじめまして
一際広いロビー、その番台に一人の女性が書類をまとめていた。
「お疲れ様カノンノ。あなたが魔物を討伐してくれたお陰で、ペカン村の人達の移民は無事に済んだよ。ところで、そちらの女性は?」
「彼女とはルパーブ連山で出会って…」
「それじゃあまずは自己紹介からね。わたしはアンジュ・セレーナ。あなたの話を聞いていいかな?」
目をぱちくりしているソゥをアンジュは見つめる。拾った石でまた地面に文字を書こうとすると、カノンノに止められた。
「ダメだよソゥ!」
『?』
「あら、どうしたの。石なんか取り出して…」
「彼女記憶が無いみたいなんです。それに声も出せないみたいで…」
「そう。記憶が無いならどこへ行っていいかわからないし、声も出せないんじゃ不安よね。記憶が戻るまで、ここに置くのは構いません。ただ、この船に乗るには、ここで働いてもらうか、船内のお掃除や雑用をやってもらうことになるけど、いいかしら?」
『そうか、なら前者で頼む。戦いなら得意だ』
(…え?)
突然の勇ましい声に、二人が驚きの表情を見せる。声は確かにソゥの方からした。
「ソゥ…声が出せるようになったの!?」
物凄い勢いで首を横に振り、大剣を背中から取り出して指を指す。まるでこの子が喋ったんだ、と訴えるような目だ。
『俺はユエ。この様な姿だがソゥの兄とでも思ってくれ』
「剣が…喋ってる…」
声は確かにソゥの握っている大剣から発せられていた。アンジュが軽く咳払いをして、話を本腰に戻す。
「それじゃあ、今からあなた達を、ギルド“アドリビトム”の一員…として迎えるね」
『ギルドの仕事は討伐依頼のみか?』
「まあ、ギルドというのは、人々から寄せられる依頼をこなす、いわゆる何でも屋さんと思ってくれていいよ」
『なるほど』
(だそうだ、理解したか?)
『……』
(うん、大丈夫。わたし頑張るね)
「でも、仕事の依頼よりもまずは他のメンバーとの顔合わせが必要よ、みんなの所へ行って、挨拶してらっしゃい。それが終わったら仕事について教えるから」
「じゃあ私がみんなの挨拶に付き合うよ。はい、これ」
この船、バンエルティア号の艦内見取り図を手渡された。
「今、下の階のみんなは仕事で外出中なの。とりあえず一階のみんなに挨拶に行こう」
『そうだな。行くぞ』
『………』
(広いなぁ…すごいなぁ…)
「なんだかソゥ、楽しそうだね」
『ああ、この船が気に入ったみたいだ』
見取り図を見つめ、ソゥは目を輝かせた。
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