もしもの話A
その一報が入ったのは突然だった。魔法薬の材料採取中に届いた緊急ふくろう便で届いた事態の知らせと移動キー。姿現しのできない私。もどかしい。とてももどかしいけどそれが私だ。ヴェルヴァルデは留守番するらしい。移動した先がどういう状況か不明だから私もその方がいい。到着したのは聖マンゴ魔法疾患傷害病院だった。

「いなくなった、って」

扉を開け、問い詰め、しかし病室内の状況に口を閉じた。思ったより、人がいた。医療スタッフ以外にマクゴナガル先生はもちろん、英雄殿やその友人、そして何人か見たことのある闇払いまで。

「セシル。事態は深刻です」

入院していたセブルス・スネイプが姿を消した。護衛と監視から逃れ、杖も持たずに。それは、とても嫌な状況だ。彼の精神状態はあまりよくないと聞いた。何度もマクゴナガル先生から見まいに来てはどうかと言われていた。でも、顔も知らぬ同僚が来ても、できることはない。英雄殿が忙しい合間をぬって、見舞いに来ていると聞いた。マクゴナガル先生も。彼の真意を知った同僚たちも。なのに、それでも、いなくなってしまった。

「実家や学校、探せるところは探しましたが、まだ見つかりません」

ちらりとマクゴナガル先生が英雄殿を見た。おそらく、彼の両親の家やお墓も確認したのだろう。それでも、いない。死喰い人としても、教員としても優秀な彼が本気で姿を隠せば、どうしたらいいのだろう。

「セシル、他に心当たりはありませんか」

すがるような先生の目は初めて見た。それほどに緊急なのだ。想像したくないけど、あり得る事態。生きる目的を完遂し、望まざる生を続けた彼の行きつく先。

「先生が探してくださった場所以外、私に思い当たる場所はありません。」

でも、違う。待って。

「私も探します。もし彼が、先生の思い描く最悪の事態を望んでいるなら、とっくに実行しているはずです。そう、願います」

食器もある。カーテンもある。この病院には、施錠されていても屋上がある。杖を預かられた彼だけど、マグルと過ごし豊富な知識もある彼は、最期を望むなら、この場所には何かしらの手段はあった。でも、実行していない。

「行きます。何かあれば報告します」
「セシル。待ちなさい、連携を」

大変失礼ながら先生の言葉をさえぎって扉を閉めた。駆け足になるぎりぎりのスピードで病院を出て、電話を探す。きっと彼らは魔法を使ってできる手段は講じてくれるだろう。なら私は、私にできる伝手を使うまで。公衆電話に飛び込んで、もう使うことはないと思っていた番号を押す。現地に飛んでいく時間はない。最悪の事態ではないと、思いたいのは私のほうだ。

幾度かの呼出音が、途切れた。

「お願いがあります」
『対価がいるわ』

遠い遠い東の果てからの、声。久しぶりのあいさつもなく、直球で。

「人を一人、探す手段をください」

耳元で涼やかな笑い声がした。珍しい気がする。そんなに彼女と深い付き合いではないけれど。

「どう、しました?」
『あなたはいつだって、手段を求めて目標自体は求めないと思って』

確かに、彼女に場所を問えば早いのかもしれない。

「…目標自体を求めればそれだけ対価が大きくなるじゃないですか」
『学んだわねえ』
「痛感しただけです」

求めるものと払える対価の兼ね合いを。

『では、あなたの願い、叶えましょう』
「ありがとうございます」

いつの間にか、電話ボックスの中に小鳥がいた。でも、分かる。ただの鳥ではない。

『何がいるかしら』
「鳥、ですが」
『あら、鳥なのね。じゃあ、なおさら頑張らないと』
「え」
『あなた自身の足で見つけなさい。それが対価よ』
「え」
『なあに?不満かしら』
「いえ。もっとこう、貴重な材料とか、それとも私自身の身体とか、そういうのを想像していました」
『ふふふ。貴方が差しだせる相応の対価がそれなのよ。じゃあ、ファイト―』

電話が切れる。釈然としない何かを抱えながら、電話ボックスの外を出た。鳥がふわりと舞い上がり、翼を広げる。待って。もしや、自分の足でってそういうこと?足って、足?走る?ランニング?本気?


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