もしもの話@
「ばいばーい、教授。紅茶おいしかったですよう」

東洋の魔女に、魔法すべて使えなくなるのは対価が大きすぎると言われた。なら、一つだけ、唱えることができる呪文を得た。随分と久しぶりに、杖をポケットから取り出して、意識のない教授に向ける。

「オブリビエイト」



あの呪文を選択したことに、悔いはない。私は勝手ながら満足していた。ヴァルヴェルデとともにマクゴナガル教授と対峙し、そして後に残るはひたすら後片付けだ。マダムポンフリー曰く、教授はあと数日目を覚ましそうにないと。今まで針の上を歩くような生活をしていた人だ。今ぐらい、ゆっくり休んでほしいという気持ちもあって、教授のベッド周りに香りに安眠効果のある薬草を配置している。えぇ、全くの親切心ですよ。ヴァルヴェルデ君にじとーっと見られましたけど、人の親切を何だと思っているんでしょうね。
大変なのはこれからですよ。Mr,フィルチがマクゴナガル教授に怒られてしまって、すねていますし。Mr,フィルチと私は二人とも魔法が使えないもんで、ひたすら手作業の片づけです。いや、先生方も手伝ってくれていますけどね。

「セシル、これからどうするのです」

マクゴナガル教授に呼び出されたのは、瓦礫とか学校内の片づけがひと段落した日でした。

「ヴェルヴァルデと相談は、しました」

教授の今の立場は、とても不安定だ。英雄ハリー・ポッターによって教授が彼の味方であったのだと明らかになったけども、あちらこちらの陣営を行き来した教授への、世間の印象は複雑だ。何を思い、誰のために戦っていたのかは、教授のためにも伏せられている。さすがに、初恋事情が暴露されたら、せっかく目覚めた教授が憤死する。英雄殿が知っているだけで羞恥に悶えるだろうというのに。
そんなこんなで、教授の立場は危うい。けれども、事実を知った英雄殿やマクゴナガル教授を筆頭に不死鳥の騎士団や闇払いのメンバーによって教授の護衛は隙がない。いまだに残党たちが不穏な動きをしているというのに、本当に感謝です。
そんな、みっちりがっちり周りを固められている教授に、私ができることはありません。そもそも、教授は私のことを忘れていますし。私がここに居る意味は、ない。

「少し、外で働こうとは思います」
「残りませんか、ここに」
「…すみません」

教授が戻って来るであろうこの場所に、私はいないほうがいい。ずっと学校内に閉じ込められてたヴェルも、なんだかんだで外を見たいらしいし。

「先生にお願いがあります。教授が起きたら、私のことは伝えないでください」

教授は私のことを、覚えていないから。
厳しくとも情に厚い先生は私のお願いに、顔をゆがめて怒って、そして瞳を潤ませて了承した。最後まで心配と心労をかけてしまう生徒だなあ。


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