31(完)
『拝啓 東の次元の魔女へ

あなたは不要と言うかもしれません。ただ、私の自己満足のために、あなたに心からの感謝を伝えます。

西の魔女の成れの果てより

P.S 蛇の王との契約が妙な感じに残っているのですがどゆこと。蛇がしゃべっています』



そんな手紙を、書いた。でも、フクロウでも届かない国に住んでいるあの方に、届かないのは分かっている。煙突飛行でも、繋がってはいない。
だから、書いて、燃やして、灰を海に放った。飛び散った灰が、なぜか蝶の形を作ったように思えたけれど。この世は本当に、不思議な事で満ち溢れている。

あの戦いの日から、私はいろんな人に質問され、感謝され、お叱りを受けた。でも、日刊預言者新聞にクルタロスの名前が挙がらなかったのは、マクゴナガル教授のやさしさでしょう。助かった人はいる。でも、助からなかった人も、大勢いる。リーマス・ルーピンのように、どうして、なぜ、と思う人は必ずいる。クルタロスの力は、本当か嘘かもわからない、噂として消え、終わっていくのが一番いい形なのだろうと、マクゴナガル教授との話で結論がついた。
なぜか私は今、魔法魔術学校用務員補佐から、魔法薬学教授補佐、になってしまっている。入学式前にホグワーツ校に行けば、マクゴナガル教授がものすごくいい笑顔でした。人事権を持つ現在の校長に文句と疑問の一つや二つ言いたかったけれど、彼女の瞳がどことなく潤んでいることに気づいてしまっては何も言えなくなりました。
ちなみに、ヴァルヴェルデは現在禁じられた森にいます。薬の後遺症か、大小大きさが変化してしまうため、校舎で過ごすことは難しいとの事でした。マクゴナガル教授が現在、変身術を教えています。本人も、まさか蛇に変身術を教えるとは、とあきれていました。

私の現在位置。今はマクゴナガル教授が使っている、校長室。教授は授業中のため不在です。

「私は昔から、あなたに言いたいことがありました」
「ほっほ。何でも言うがいい」

戦時中、彼の肖像画はあらゆるところに行き来し、いろんな策に関わったという。今は堂々と置かれたダンブルドア校長の肖像画。私が言いたいことをわかっていて、きらきらとした銀縁の瞳で、彼は私を見た。
ずっとずっと、言いたかったこと。言えなかったこと。

「私はあなたが嫌いです」

元、ホグワーツ魔術学校の校長は、驚かなかった。ただ、口角の角度を上げただけだった。

「それは残念じゃ」

理由は聞かれなかった。言わずともこの狸なら察していよう。
愛とやらを道具に使ったこの狸なら。

「それだけが言いたかったんです」

出ようとしたら、もう小さくはない英雄殿がいらっしゃった。えっと、校長に用事でしょうか。私は退散しますよう。

「セシル先生。隠れようとしないでください。見えてますから」
「えーっと、何かな、ハリー・ポッター君」
「先生に聞きたいことがあって」
「や、あの、私別に先生じゃなくて、ただの使いっぱしり」

英雄殿がにっこり笑う。

「スネイプ先生の、ですよね?」

先生、と英雄殿は言った。今まではスネイプと呼び捨てだったのに。そんなところにも、平和を感じて泣きそうになる。この二人の確執がどうしようもなくて、歯がゆくて、でもどうにもならないものだと思っていた。それが今、どうにかなってしまっている。とんでもない奇跡なんだよ、実は。あぁ、だめだ、泣きそう。必死に涙腺を落ち着かせようとしたところに、爆弾が落ちた。

「先生たちは、いつになったら付き合うんですか?」
「・・・pardon?」
「あれ?聞こえませんでした?いつになったら」
「待って待って待って。なぜ?どうして?どうやって、そんな話の流れになったの」
「だって、あのスネイプ先生が身近に人を置くなんてよほどのことですよね」
「君、そんなにおませだったの」

そりゃ私も年取るわ、と感慨深い。けど、何だろう。とっても今、逃げたい。そりゃ、何度も生死の境を潜り抜けた青少年に引きこもりの私なんぞが叶うわけがない。おませとかそんな可愛いレベルじゃない。

「慕っていた先生が自分の死を望んでて、嫌ってた先生が自分の命を望んでたら人生観変わりますよ」

帝王を通り超えた、魔王様であらせられる。




私が去った後の校長室で、会話の続きがあったなんて、私は知らない。

「ハリーや。彼女に言いたいことは、ないのかい」
「ありません。たとえあの人に救える命があったとしても、あの人はスネイプ先生の命しか救えなかった。それが、あの人の人生をかけての願いだったんだ。僕にはそれを、否定できない。何も知らなかった、僕には」
「では、わしに言いたいことは?」
「そうですね。セシル先生とスネイプ先生のなれそめなんぞを教えて頂けたら」
「ほっほっほ。難しい話ではないぞ。じゃが、あり得なかったはずの話だ。セブルスはリリー・ポッターに向けてとは違う愛を、知ったのじゃろう」
「全然想像できませんけどね」
「ヴォルデモートは再び、愛に破れたわけだ」
「うわぁ、やめてくださいよほら鳥肌!」






石の階段を降りていけば、真正面にまっ黒なローブと不機嫌な顔。

「終わったか」
「教授?」

ただ、ひたすら、この黒を守りたかった。教授しか見えてなかった。でも、今は、なんだかんだでいろんな人に声をかけられる。もう、隠れる必要がなくなったから、私の暗示のような魔法効果も薄れているのだろう、と言ったのはフリットウィック。なぜか感慨深めに涙目でした。なんだろう、あの孫を見つかる眼差しは。

「なんで呼び出されたかわかりませんけど、とりあえず終わりです」

結局、マクゴナガル教授とスネイプ教授のタッグからは逃げられず、私はスネイプ教授の家に住まわせてもらっている。ヴァルヴェルデなんかは自分好みの家だ、などと言ってしょっちゅう屋敷の中を小型サイズで散歩していたんだけど。楽しそうで何より。とか、思い出してたらじっとりとした視線を感じだ。何だか不満げ。なんですか。

「口調」
「う…。慣れないんだって、今更」
「慣れろ」

共同生活にあたり、教授は意外とそんなに口うるさくはなかった。ただし、敬語は省けと、こんこんと言われました。い、言われた!

「戻るぞ。荷物の整理がまだだ」
「…急なお呼び出しだったしね」
「焦るからこうなるのだ。ヴァルヴェルデはどうした」
「森で意気揚々と散歩では。天気がいいから日向ぼっこかな」

おかしいな、薬の改良も休み中に教授がさっさと終わらせて、聖マンゴ院に渡したはずなんだけど。薬の開発費用がちょっとずつ私に入るようになって、収入もできたからそろそろお暇しようかと思っているんだけど。なんだかんだで、いまだに居候。やっぱりおかしい。

「迎えにいくついでに追加の材料採取といきますか?」
「急ぎではあるまい。それよりマクゴナガルから甘味を押し付けられた。消費するのに手伝え」

今やニューヒーローの教授のもとにはあちこちから賞賛の嵐。女性にもてるだろうに。
なんてマクゴナガル教授に行ったらとってもかわいそうなものを見る目で見つめられた。なぜに。そのあと教授にも叩かれた。もっとわからん。

ま、いっか。理由が無くても、関係性が分からなくても、居心地がいいから、いるだけだ。お互いに。

「了解であります。紅茶も求めます」
「言われずとも」


もうすぐ、新学期だ。


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