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漏れ鍋の一室で、テーブルを挟んで教授と向き合う。だめだ、教授が目の前に座っているよまた泣きそう。全然落ち着いてくれない涙腺に情けなくて泣きそう。終わりのないループにはまりそうになった所で、手首が締め付けられた。ヴァルヴェルデ、うん、話が進まないよね。そろそろしっかりするから、もう少し力を緩めてはくれませんか。そして教授、このやり取りはいつものことなので杖構えなくて大丈夫です。うわぁ、教授が杖持って、あいたっ

『その悲惨な顔をタオルに埋めていろ』
「…そうする。教授、失礼ですけどこのまま話させてください」

行儀が悪いけど、テーブルに両肘ついて、顔を覆い隠した。

「…よかろう」
「っ、教授がしゃべ」
『しつこいわ!』
「あいだだだだ」

反省します。誰か私の涙腺乾かせてください。タオルの意味が全くない気がする。深呼吸深呼吸。私が話さないことには教授が困る。困らせるつもりは一切ないんだ。

「教授がどこまで、マクゴナガル教授から聞いていますか」
「おそらく、君が彼女に語った大よそのものは」
「えぇっ」

がばりと、タオルから顔を上げてしまった。そしたら居心地悪そうな教授の顔。うん、ごめん、ヴァルヴェルデ、泣かない、もう泣かないよ多分きっと。もう一回タオルに顔を戻した。

「そ、それはど、どのように」
「私が君に触れて起こってしまったことから、どのように今の道筋に至ったのかの、流れまで」
「本当に全部語られていらっしゃる、マクゴナガル教授ぅ!」
「場所を洩らさなかっただけ、教授に感謝しろ」
「否定できません…ばれましたけど」
「…言わなければ、私はずっと、何も知らずにいただろうとの、マクゴナガル教授が君の性格も考慮した結果だ」
「きょ、教授だって英雄殿に憂いを渡すまで、語る気なかったじゃないですかぁ」
「他人の行いを、自分を正当化する言い訳にするな」
「当事者がそんなことおっしゃいます?」
「当事者だから言うことだ」

反論、できないや。

「セシル。セシル・クルタロス」

そんな、声で名を呼ばれてしまったら、つい、顔を上げてしまうじゃないか。こういうことになるから、教授に知られたくなかったんだ。続けられる言葉が、怒声か罵倒か、大いなる苦情か。

「君に、感謝を」

そのいずれかなら、むしろそちらの方が良かった。こんな、八つ当たりに近い一方的な思惑で現在を捻じ曲げた相手を、教授は見るのだ。言葉通りに、真剣な眼差しで。

「それは、その謝意は、私、受け取れません」
「で、あろうことは私も、マクゴナガル教授も予想していた」

あ、あれ?ヴァルヴェルデ君にまでため息をつかれたよ。

「であるからして、私も勝手に行動しよう。ホグワーツに戻ることは決定事項であるが、住居は未定であったな」
「う、あ、はい」
「休暇中はどうしていたのだ」
「えぇっと、家に帰っていると見せかけて校内に潜伏しておりました」

思いっきり、顔を顰められた。いろいろ言いたいことをぐっと堪えたらしい教授。

「いつまでもここにいられないだろう」

あぁ、やめてほしい。

「もしよければ」

そんな、気まずそうに、でも気づかわしげに、その先を言わないでほしい。

「私の家に、来るか?」

言われてしまった。分かって、いた。あなたが責任を感じてしまうことは。あなたは自分には関係ないと、放置できない人だから。

「教授。私は教授にそんなことをしてほしくて、動いたわけではありません」

あなたは放っておけないだろうから。だから、知られたくなかったのだ。

「教授、あなたは責任を感じすぎです。ただの同級生がお節介を勝手に焼いただけ。あなたが責任を感じる必要はないのですよ。何か、やりたいことをやりたいようにしてみては」

それこそ新しい趣味とか、旅行とか。ダメだ想像できない。全部薬学が関係しそう。でも、せっかく何の縛りも無くなったのだ。新たな妨げになるつもりは一切ない。

「そう、言うと思った」

何でしょうね。この、言い合いっこた。長い付き合いな分、お互いがどういう性格でどういう思いかわかってしまうのも困りものだ。

「では、契約だ」
「へ?」

何の話?

「あのバジリスクの解毒薬をさらに改良せねばならん。安全に、使える程度には改良する。その役目だ」
「あう」

安全を、強調されてしまった。

『扱いがうまいな』
「向こうが勝手にやったと主張するなら、こちらも勝手にするだけだ。」

何気に仲がよろしいですね、教授とヴァル君。
あれ?なんで、二人が会話できちゃってるの?

『これはただの照れ隠しだ。遠慮は不要だ。遠慮すれば己が腹立てるだけぞ』
「心得よう」
「ねえ、そろそろ当人に聞こえるように会話するのやめようお二方」
「ちなみに、すでにマクゴナガル教授に行って荷物は運ばせている。が、あまりに荷物整理が過ぎているぞ」

どうやら、マクゴナガル教授はさすがに私が身辺整理をしていたとは言わないでくれたらしい。そりゃあ、居なくなる前提で動いていたなんて、重すぎるわ。自分でも思う。知られたくない。でも、教授は察しが良すぎるから要注意。


マクゴナガル教授、あなたに感謝します。でも、早すぎて私ついていけない。もうちょっと事前に教授の動きを教えてほしかった。


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